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〖あまねく来福の祝祭〗
※本編において、参加型キャラクターは登場しません。戦闘もありません。
お休みです。
語り手:橘一護
ついに始まった年明けセール。
爆買いの重戦車、転売のハイエナ、未確認徘徊老人、憤怒の語り部…。
きっと僕らは鬱になる。
●橘一護
19歳、男性。アルバイトの大学生。
体力良し、性格良し、器量良し、お顔は平凡。
給料は月24万(後に専門大卒/高卒)
●空知翔
23歳、男性。正社員。
おせちはあんまり食べない。去年はくりぼっちでした。
給料は月25万5300円(高卒)
●柳田善
26歳、男性。正社員の店長。三徹目。
本人も分からぬままにシフトが入っていたらしい。
給料は月28万(大卒)+各々資格有り
●松林葵
20歳、女性。同人作家のアルバイト。
食い扶持はあるが、ネタを求めているようだ。
給料は月24万+28万(専門大卒/高卒)
●日村遥
23歳、女性。惣菜部門の正社員。
今日もお休み。
給料は月25万5500円(大卒)
●上原慶一
29歳、男性。社長を務めるマネージャー。
今日はお休み。妻子を大切にするらしい。
給料は不明。月100万以上+10万(国の支援)は確定(大卒)
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雪がせかすように降り注ぐ早朝、従業員全体の空気は非常にピリついていた。
ある者は柳田に子供のように泣き喚き、ある者は空知の頬をつねり、ある者は一護に労働がいかにクソであるかと教えを諭し、ある者は松林と同人誌に対して熱弁していた。
誰もが憔悴し、ついに惣菜部門から「新年ぐらいは休みたいです!」と訴えがあがった。
それをちゃっかり休みである上原に代わって諭す柳田がいるが、猛攻は止まる気配がなかった。
そうして二時間後、諭していた柳田が瞳がだんだんと焦点が合わなくなり、ついにぶっ倒れた。
尚、これを見た松林がネタの気配がして歓喜の声を挙げたことは言うまでもない。
死んだように、いや、正確には死んでいないのだが、眠っている柳田を前にして空知が手を合わせ、他の従業員がどこかしらから持ってきたりん棒で壁を叩いている。
そのお通夜モードな一室で、ようやく一護が口を開いた。
「いや…ダメじゃないですか?店長、死んでないし……そもそも、もうすぐで開店なんじゃ…」
その一声に一室の一護と柳田以外が固まり、時計を見やる。時計の針は無惨にも一刻一刻と時を刻み、その音がまるで時限爆弾のタイマーのようだった。
その瞬間、空知が顔を一護に向けて言葉を投げる。
「まぁ、確かに…開店だけど、ねぇ……やりたくないもんだよ、正月セールなんて」
「…それでよくここで働けてますよね」
「ほんと、ほんと。なんで辞めないのか不思議なくらいだ……なんか一護君、毒舌じゃない?」
「そうですかね…」
「……まぁ、いいや。適当にやって、終わりにしよう…どっか行きたいところない?」
「初詣でも行きません?」
「あー…寒いからやだなぁ」
「そこで行くって言えばモテるのに…」
「男にモテてもねぇ…」
空知が頭を掻きながら、一護をじっと見た後に柳田に視線を落とす。
柳田は閉じた瞼の下にくまができ、普段結われている髪はばらついて椅子の上に散らばっている。
それを松林が物珍しそうに見ては、携帯で写真を撮ろうとして空知がその手をやんわりと掴んだ。
「…松林さん」
「やっぱり、ダメですか」
「ダメだよ…」
頬を微かに膨らませた松林の肩を軽く叩いて、空知が部屋の中のホワイトボードにマーカーを持ってシフト場所の位置をそれぞれ書いていく。
その間に一護は柳田に毛布をかけ、松林らと共にホワイトボードに瞳を映した。
ホワイトボードには品出しや会計などの多忙となる場所が記され、隣に名前が記載されている。
しばらくして、空知が持ったマーカーがようやく動きを止め、彼が「とりあえず、こんな感じで…疲れたら休憩室に入ってる人と交代して休んでいいよ」と告げた。
そこにいる従業員が頷きつつ、どうしてこの男はモテないのかと不思議に思っていた。
皿のように並ぶレジの列。それらはさながら、バーコードを運んでくるだけの無機質な機械のようだった。
いつもの真っ直ぐな赤い瞳の中にバーコードが映り、目まぐるしく瞳の中のバーコードは形を変えていった。同様に手も目まぐるしく動き、口は同じ言葉をくり返すばかりだった。
その中で後ろのレジの空知に至っては一護と同じ手をしているものの、それが動きを止めて目を細めた。
「すみません、三割引のシール貼っていらっしゃるようですが、対象外のものを無理やり剥がして貼っていませんか?…ダメですよ、そういう《《同人誌の修正漏れ》》みたいな小細工は…」
そう言って指で中年女性に見せつけるように商品を小突く。その瞬間、逆である中年女性の前に一護が叫んだ。
「例えが悪いし、レジで客の不正を冷静に詰めないでください、怖いから!」
瞬間、中年女性が待ってましたと言わんばかりに言い訳を垂れ始め、空知が「そういうのは事務所にお願いしまーす」と適当に対応するのは同時だった。
時刻は一時半を過ぎ、松林が鐘をもって、セールの開始を告げた。客層は家族連れに増え、店内を走り回る子供がちらほら見受けられる。
また、巨大なカートを連結させて進む中年女性や携帯などを駆使して利益率の商品を探す男性などを他の従業員が注意に当たっていた。
走り回る子供の内、一人が松林の足に当たり、子供が舌打ちをかました。そのまま子供が去るのを見ながら松林が一言だけ呟いた。それに近くの一護が反応するのは必然だった。
「なるほど、素行悪い系黒髪ショタ……そろそろ冬コミか」
「同人誌の絵師特有の切り札として、『お前も同人誌にしてやろうか?』があるのはダメだと思いますよ」
「一護君もなります?」
「本当に訴えますよ!」
有りだな。
「__………この地の文マジで…__」
「一護君」
「嫌です!!__マジで嫌です!__」
そう騒ぐ一護と松林の後方で福袋を出す空知に黒髪の密編みの眼鏡っ子ちゃんが言葉をかける。
「空知さん」
「どうしたの、すごい久しぶりじゃない?出るのいつぶり?」
「すみません、メタいです…上原さんから電話あったんですけど、後数時間で畳んでいいって言ってました」
「へぇ〜…あの圧迫が…」
「空知さんって上原さんのこと嫌いですよね」
「嫌いっていうか苦手なんだよ、たまに凄い詰めてくるから。でも嫌いなのはそこだけ」
「……本当になんでモテないのか…」
その呟きに空知が半笑いで言葉を返した。
「え〜…じゃあ、付き合ってくれる?」
「嫌です」
「ですよね」
笑いが少し苦笑いになり、手と口を軽く動かしながら時計を見る。時計の針は前よりも大きく進み、業務の終了を知らせていた。
業務が終わり、客も帰って閉店準備を進めている内に外は吹雪が激しさを増して今から帰る職員は家に帰れそうになかった。その中で苦笑いを浮かべつつ、空知が一護に対して言葉を放った。
「……さあ、帰ろう……一護君、帰りに初詣、行く?」
「…行きませんよ……寝たいです、死んだように寝たいです」
その返答にお互いに苦笑いを浮かべ続け、外に出ることもできない状況の中で、今だに眠ったままの柳田を見た。松林が再度撮ろうとしたものを一護が止め、空知が奥の方から従業員全員分の毛布を取りに行っていた。
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翌日の朝、店には雪が山のように降り積もっていた。
昨日までの狂騒が嘘のように、店内のホワイトボードは綺麗に拭き取られ、ただ一行だけが記されていた。
昨夜、誰が書いたのかも分からない、誰もが震える文字だけが残されていた。
『明日からは、普通のスーパーに戻ります』
休憩室の隅で、毛布にくるまって泥のように眠る数十人の寝息だけが、静かな店内に響いていた。
彼らが本当の意味で《《新年》》を迎えられたのは、それからさらに数日後のことだった。