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静かなる想い
き き .
山に残る鬼の気配は、私と義勇さんによって順調に狩られていった。
義勇さんの「水の呼吸」は、流れるような美しさの中にも確かな力強さがあり、見る者を魅了する。
私は彼の隣で戦えることを、何よりも幸せに感じていた。
「これで最後か」
義勇さんが最後の鬼の首を斬り落とす。
辺りは静寂を取り戻し、夜の闇だけが残った。
私は刀の血を払い、鞘に納める。
「お疲れ様でした、義勇さん」
「ああ、」
私たちは下山を始めた。山道は暗く、私は足元に注意を払っていたが、ふとした段差でバランスを崩しそうになった。
「っ……」
「危ない」
義勇さんの腕が私の腰に回され、私は転倒を免れた。
彼の温もりが隊服越しに伝わってくる。
一瞬、時間が止まったように感じた。顔が熱くなるのを感じながら、私は慌てて体勢を立て直した。
「あ、ありがとうございます……」
「気をつけろ」
義勇さんはすぐに腕を離し、再び歩き始めた。彼の顔は暗闇でよく見えなかったけれど、その声はいつも通り静かだった。
けれど、私の心臓はまだ落ち着きを取り戻せずにいた。
里に到着し、私たちは報告のために蝶屋敷へと向かった。
治療を終えた後、私は屋敷の縁側に座り、月を眺めていた。
今日の出来事が頭の中でぐるぐると巡る。
義勇さんが私を助けてくれた時のこと、頬の傷に触れてくれた時のこと、そして先ほどの出来事。
「ここにいたのか、#下の名前#」
振り返ると、そこには義勇さんが立っていた。私は慌てて立ち上がる。
「義勇さん。もうお休みにならないんですか?」
「ああ。少し、空気が吸いたくて」
彼は私の隣に腰を下ろした。私は少し緊張しながらも、彼の隣に座り直す。
「あの……義勇さん」
「なんだ」
「その……いつも、ありがとうございます。義勇さんは不器用に見えて、いつも周りをよく見ていますよね。私、そういうところに惹かれています」
我慢できずに、想いの一部を口に出してしまった。
彼は驚いたように少し目を見開いたが、すぐにいつもの表情に戻った。
「俺は……別に、何もしていない」
「そんなことないです。義勇さんの優しさに、私は何度も救われています」
私は彼の目を見つめて、はっきりと告げた。彼の頬がほんの少しだけ赤くなったような気がして、私の心は高鳴る。
「……#下の名前#は、よく喋るな」
「えっ!?」
「だが……そうだな。俺も、#下の名前#と一緒にいると、少しだけ気が休まる」
義勇さんは月を見上げながら、ぽつりと言葉を紡いだ。その言葉は、彼なりの精一杯の好意の表現なのだと私には分かった。
「それって……」
「なんだ」
「ううん、なんでもないです」
私は照れ隠しに笑った。
まだ恋人同士になったわけではないけれど、彼の心に少しでも私がいると思えただけで、私は満たされた気持ちになった。
「明日も任務がある。もう休め」
「はい、義勇さんも」
私たちは立ち上がり、それぞれの部屋へと戻るために歩き出した。
月明かりの下、私の心は希望に満ちていた。
この想いがいつか、義勇さんに届きますようにと願いながら、私は彼の後ろ姿を見つめていた。
end.