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あの日のアイス
姉にアイスを食べられた。
暑い夏の日。
「なんで食べたの。」
私は姉に怒鳴るようにして聞いた。
「だってそこにあったから。」
放ってたアンタが悪いんだよ。そう言わんばかりに姉は冷たく言い返して来た。
「わたしが買ったアイスなのに。楽しみにしてたのに。ひっどい。」
「名前も何にもなかったんだもん。」
姉はヘラヘラとしながら平気そうにした。頭ひとつ分高いところから見つめる目がとにかく憎らしかった。
「ねーちゃんのバカ。大っ嫌い。死んじゃえ!」
私はそう怒鳴り捨て自室に篭った。
もちろんエアコンなんてない部屋は暑くて堪らなかったが、私は部屋から出なかった。
これは根比べなのだと。
今思えばあれほど言うのはとても幼稚だったと思う。
だが人のものを勝手に食べておいて謝りもしない姉の態度にはやっぱり今でも腹が立つ。
「…グスッ。」
私は悲しくなって泣いた。
自分の口に入るべきだったあの甘さが、もうねーちゃんのものになってしまった。
いつもそうだ。
私が選んだものは姉に取られてばかりだった。
頑張って折った折り紙も、好き好んだ服も、かわいい色合いのセボンスターも、お子様ランチのハンバーグも。
腹が立って来た。
こんな姉なんか本当に死んでしまえばいいのに。
目頭からジワリと熱が帯びて暑くなってくる。
そしてぽたっと、汗をかいたように涙があふれた。
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「アンタ、こんな暑いとこで何しとん。熱中症なるよ。」
母親の声を聞いて目を覚ました時には、すでに外は暗くなっていた。
昼に比べれば幾分か涼しくなっているものの、やはり暑い。
「倒れられたら困るけさっさと出なさい。」
私はじっととまり、母の顔だけを見つめた。
出て仕舞えば負けだと感じたから。
「…なにぶすっとしとんの。」
それでも母はじいっとこちらが出るのを待つばかりだった。
「…いや。絶対出ない。」
そう意地はって言うと、母はふっと吹き出した。
「またお姉ちゃんとケンカしたん?」
私は首をぶんぶんと横に振った。
「ケンカじゃない。ねーちゃんが悪いもん。」
「まぁ出なさい。いまお姉ちゃん出かけとるから。」
母のその言葉を聞いて、私は渋々と部屋から出た。
驚くほどに部屋の外は涼しく快適そのものだった。
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私はすっかり怒りなど忘れていて、リビングのソファを陣取って、テレビでバラエティーを見ていた。
芸人のキレのある言葉にスタジオが湧き立ち、笑い声が聞こえる。
幼い私にはその言葉の意図は理解できなかったが。
その掛け声に釣られるように母のふっと笑う声が聞こえて、私もどうしてか面白く感じて笑った。
「ただいま。」
ドアががチャリと開いて、姉の声が聞こえた。
一瞬私はげっとして、逃げるように自室へ向かいかけた。
「…アイス買ってきたから。」
姉はポツリと、地面に話しかけるように言った。
私は足を姉の方に向き直しても、変な意地が張ってなかなか応える気になれなくて、やっぱり自室に向かった。
「まだ意地張っとるんか。おねぇちゃん、ご飯冷蔵庫だからあっためて食べといで。」
母の声はいつものように流れていった。
「ねぇ。…昼はごめん。」
自室のドアをお構いにしに開かれて、そこには姉が立っていた。
いつもの仁王立ちで上から偉そうに、謝る空気は見えなかった。
それでも、あのごめんの一言は、姉にしては珍しくて、私はきょろっと目を見開きかけて、素直に姉の方を見た。
「次からは食べないで。」
「名前書いとらんとまた食べるかも。」
やっぱりいつもの姉だった。
私はそのまま姉をどかすように部屋を出て、またリビングを通って、台所に佇む冷蔵庫の冷凍室を開いた。
そこにはマジックで名前の書かれた、あの昼食べられたアイスがあった。