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3.目覚め
「目が覚めたか?」
響が起きると、目の前に美形の顔があった。
(どういうこと??)
しばし、混乱するも、だんだん昨日のことを思い出してきた。
(そっか……私、家に帰っていないんだ。あんな紛らわしいこと書いちゃったし、みんなは私が消えたと思っているのかな?申し訳ない……)
響は自己嫌悪にさいなまれている。
「食うか?」
ぎゅるるるるるるる。
その瞬間、響のお腹が鳴った。「食べます。」の返事の代わりかのように。結局、響は気恥ずかしくなって、「食べます。」とは言えなかった。そして、そのことにも、響は困った。
「ははは。素直なお腹だなぁ。いいぞ、これをやる。」
そう言って渡されたのは、硬いパンに、スープ。それだけだった。
響はこれをくれたこと自体で十分に迷惑をかけているのに、さらに「少ない」「まずい」などを言おうとは思えなかった。
「ありがとうございます。」
「いや、礼はいい。それにしてもあんな時間にあんなところで何をしていたんだ?危ないじゃないか。」
「洞窟を探検していたら、気づいたらあそこにいました。」
「洞窟?そんなのあそこにないぞ?」
「え?でも、洞窟を通ってやって来t……」
そこで響は戸惑った。
(私は洞窟から来たから洞窟から抜けたはずだけど……洞窟の入り口って、あそこにあった?)
響は自分の記憶を探ってみる。しかし、思い出せなかった。
「いや、ごめんなさい。たぶん勘違いです。」
何かあったら謝るに限る。響は背が低いほうだから、多少雑でも許してもらえるだろう、そんな期待もあった。
「何か、事情があるんだな?」
「え、あ、はい。そうです!」
せっかく言い訳を用意してもらえたんだから、とそれに便乗する。
「お前が着ていた変な服は洗っている。捨てることもできるが……捨ててほしくなかったら今のうちに言っておけ。」
そう言われて、今着ている服を見れば、いつの間にか変わっていた。
「着替えさせてくれたんですね。ありがとうございます。あと、服は残しておいてください。」
響はここでため口にすることも考えたが、さすがに恩人にため口ははばかられたのか、今まで通り、敬語で接している。もちろん、知らない単語もたくさんあるからわかる範囲内で、だが。
「そうか、それはよかった。そして服は残しておくようにする。」
よかったといっている割に、何か動揺しているように見える。
(?もしかして、私の体に何か変なものでもあったかな?)
もちろん、男性が子供とはいえ女子を着替えさせるのは恥ずかしいだろう。そして、ここでの動揺もそれである。なのに、それに気づかない響は……鈍感なのかもしれない。
「あー、で、その服で問題なかったか?」
そう言われて改めて服をじっと見つめた。
「あ、はい、問題ありません。」
服は、あまりきれいとは思えなかったが、特に変ではなかったため、そのまま着ることにした。そして、もし変なものだとしても、響に断ることはできなかっただろう。
「あ、そういえば、名前を教えてください。恩人ですし。」
「その前に君が言うべきだろう。」
「あ、すみません。私は|神楽《かぐら》響。」
「カグラヒビキ?カグラという名なのか?」
(なんで始めに言ったほうを名前だと思ったんだろう?)
響は戸惑う。
「名前は響です。」
「ヒビキ…か。分かった。今度からはそう呼ぼう。僕はライセンだ。」
「ライセン?字はどう描くの?」
「字は……知らない。」
「え?じゃあ名字は?」
「名字はない。というか君は……ヒビキは裕福なのか?名字もあるし、文字も知っているのだろう?」
何かまずいことになりそうだ。とっさに響はそう感じだ。
「いいえ、文字は知りませんよ。機会があるたびに覚えたいと思うんですけど、なかなか知っている人に出会えなくて……」
響はとっさに嘘をついた。だけど、その内心は混乱していた。
(なんで文字を知らないのかな?しかも名字があるだけで裕福?そんな古臭い考え方、今残っているわけがない。だけど、ライセンがそう思い込んでいるなら、何も指摘しないでおこう。)
そう考えて、話を合わせることにしたのだった。
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