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あまねくすべてに(文スト夢?)本編3
うぇえええい
頭痛い・・・
「すンませんでしたぁっ!」
静かな店内に声が響き渡った。
「その、試験とは云え随分と失礼なことを」
「あぁいえ、良いんですよ」
白玉あんみつが届いた。
___おいしい。
「ともかくだ、小僧」
太宰と|遊んでいた《争っていた》国木田さんが咳払いをした。
「貴様も今日から探偵者が一隅。ゆえに周りに迷惑を振りまき、社の看板を汚すような真似はするな」
俺も他の皆もそのことを徹底している、と国木田さんが続けた。
「なぁ太宰」
「あの美人の給仕さんに『死にたいから頸締めて』って頼んだら応えてくれるかなぁ」
「黙れ、迷惑噴霧器」
また始まった。ふと敦君のほうを見たら目が合ったので苦笑いしておいた。
「ボクは谷崎。探偵社で手代みたいな事をやってます。そンでこっちが___」
「妹のナオミですわ。兄様のことなら……何でも知ってますの」
「き___兄弟ですか? 本当に?」
怖いもの知らずだな、と思った。その質問はしちゃいけないやつだ。
「勿論どこまでも血の繋がった実の兄妹でしてよ……? このアタリの躯つきなんてホントにそっくりで……ねぇ兄様?」
谷崎君の服の中へと手を入れているナオミちゃん。谷崎さんが顔を赤くしたり青くしたりしている。
「そういえば、皆さんは探偵社に入る前は何を?」
敦君が話の流れを変えたかったのかそう聞いた。
シーンと店の中が静まり返る。
すると谷崎君が新入りが社員の前職を中てるのが定番だ、と敦君に教えた。
この二人仲良くやれそうだなぁ。空気が似ている。
「谷崎さんと妹さんは……学生?」
「おっ、中った。凄い」
「じゃあ国木田君は?」
「止せ。俺の前職など如何でも__」
「うーん、お役人さん?」
「惜しい」
太宰が彼の前職を数学の教師だ、というとやけに納得したような顔をしていた。
よく『ここはxの累乗を使うにきまっているだろう!』とか、黒板を差しながら叫んでそう、とか考えてるんだろう、と安易に想像ができた。
「じゃ私は?」
「太宰さんは……」
にこにこと笑う太宰さんに対して敦君は何も思いつかないようだった。
まぁ、私は知ってるんだけど。
「無駄だ、小僧。武装探偵社七不思議の一つなのだ、こいつの前職は」
「そういえば、最初に中てた人に賞金があるンでしたっけ」
「そう。誰も中てられなくて、懸賞金が膨れあがってる」
「ちなみに懸賞金って如何ほど」
「参加するかい? 賞典は今__七十万だ」
_____人の金への欲は時に人を殺させる。
そういえば、彼の金への執着は______
「中てたら貰える? 本当に?」
「自殺主義者に二言は無いよ」
____凄まじかったな。
「勤め人」
「違う」
「研究職」
「違う」
____すごい剣幕だ。
「工場労働者」
「違う」
「作家」
「違う」
「役者」
「違うけど、役者は照れるね」
でも、どれだけすごい剣幕で当てようとしたって。
わかるわけがない。
少なくとも政府公認のこの仕事をしている限り考えもつかないだろうね。
だって彼の前職は、溢物なんてものでさえなく、浪人でも無宿人でもない__________なのだから。
「___違うよ。この件では私は嘘など吐かない」
彼が話さない限り私が広める必要もないだろう。
広めていいことがあるわけでもないし。
「そういえばー普ちゃんの前職はなんだっけ?」
……は?
折角私がお前の前職を二年も黙ってやっているのに…私のことはお構いなしか!
「えっ…なんだろう。谷崎さんたちと一緒で学生、ですか?」
「ちがう」
「え」
その時私の携帯が鳴った。
「____はい。わかりました」
横目に見ると探偵社に向かうのであろうスーツ姿の女性。
「依頼だよ。この話は終わりだ。早く帰ろ」
---
「あの、えーと…調査のご依頼だとか」
「……」
「それで
「なんて美しい…!」
谷崎さんと、依頼人。そして私たち関係ない探偵社員。
「睡蓮の花のごとき果敢なく、そして可憐なお嬢さんだ」
「へっ…?!」
「どうか私と心中していただけないだろ__」
スパァンッと痛々しい音が部屋に響いた。
|2つ《・・》。
一つは国木田さんの。
もう一つは____
私。
多分私のが国木田さんより痛かったのだろう。私のほうを見て太宰が文句を言ってきた。
「ちょっ、普ちゃん?!何するのさー___うわっ」
「えっと……」
「あ、済みません。忘れてください」
国木田さんの一言で太宰さんが隣の部屋に引きずられていった。
「心中~…」
うわまだいってるし。
それでも段々聞こえる声が小さくなっていく。バイバイ。
「それで依頼と云うのはですね、我が社のビルヂング裏手に……最近、善からぬ輩が屯しているようなんです」
「善からぬ輩ッていうと?」
「分かりません」
普通に話再開したな…と思っている間に国木田さんが帰ってきた。
「ですが、襤褸をまとって日陰を歩き、聞き慣れない異国語を話す者もいるとか」
「そいつは密輸業者だろう。軍警がいくら取り締まっても船蟲のように涌いてくる、港湾都市の宿業だな」
「えぇ。無法の輩だという証拠さえあれば軍警に掛け合えます」
つまり足を棒のようにして走り回り、証拠を見つけろ、と。
見張るだけだから初仕事に良いだろう、と敦君が受けることになった。
ついでに付き添いの谷崎さん兄妹。
「おい小僧。不運かつ不幸なお前の人生に、些かの同情が無いわけでもない」
故に、と云って国木田君が一枚の写真を取り出した。
横からのぞき込むと見覚えのある顔。
「うげ」
「こいつには逢うな。遭ったら逃げろ」
「この人は__?」
「マフィアだよ。尤も、他に呼びようがないからそう呼んでるだけだけどね」
敦君たちが出かけ、国木田さんは奥の部屋から順に掃除を始めた。
「心中は〜一人では〜できない〜二人では〜できる〜すごい〜」
すげぇ歌だな…即興ソング?
さて___そろそろ
「何処行くの?」
後ろを向くと太宰がヘッドホンを付けたまま此方を向いていた。
黒く、どこまでも奥が見えない目。
私は少し考えてから、云った。
「禍狗が現れる危険地帯に」
太宰はじっと此方を見たまま動かない。私が何と言ったかわからないわけじゃないだろう。読唇術使えるし。
どちらかというと何かに集中しているような…
はっとして全意識を耳に集中させた。
「失礼__が、_______た。此処__で、死んで___います!」
言葉とほぼ同時にガガガガという音がした。
何度も聞いたこの音___
---
遅かったな。
路地の奥には倒れているナオミちゃんと谷崎さん。
そして、『禍狗』___芥川、それに___『白虎』。
「糞っ、やられた」
思わず悪態が漏れる。
敦君は完全に虎化している。
異能はあまり使いたくないがそういっている場合ではないか…
「はぁーい、そこまでー」
「太宰ッ?!」
いつの間に…
「貴方、探偵社の___! 何故ここに」
「美人さんの行動が気になっちゃう質でね。こっそり聞かせて貰ってた」
ワー気持ち悪い。お巡りさんこっちです。
視界から太宰が消えたと思ったらしゃがみ込んで敦君の頬をぺちぺちと叩いていた。
「起きてよ―敦君私三人も負ぶって帰るの嫌だよー。それとも…」
「私絶対やだから」
「でしょうねー」
「ま……待ちなさい! 生きて帰す訳には」
そう銃を構えた樋口さんに対し、芥川君は落ち着いていた。
「止めろ樋口。お前では勝てぬ」
「芥川先輩! でも!」
「太宰さん、今回は退きましょう。しかし、人虎の首は必ず僕らマフィアが頂く」
「なんで?」
「簡単な事。その人虎には闇市で七十億の懸賞金が懸かっている。裏社会を牛耳って余りある額だ」
へぇ、それは景気の善いことだ。
「探偵社には孰れまた伺います。その時、素直に七十億を渡すなら善し。渡さぬなら──」
「戦争かい? 探偵社と?」
ふふ、と太宰は笑って居た。
そして___
「やってみ給えよ。__やれるものなら」
どーしよー此奴勝手に宣戦布告してやがる。頭どうした。
「零細探偵社ごときが! 我らはこの町の暗部そのもの! 傘下の団体企業は数十を数え、この町の政治・経済の悉くに根を張る!」
「たかだか十数人の探偵社ごとき、簡単に消せるって?」
私の言葉に樋口さんは驚いているようだった。
「わ、我らに逆らって生き残った者などいないのだぞ!」
「知ってるよ、その位」
然り、と芥川君は言った。
そこら辺を歩く一般人なんかより、太宰君はそれを衆知していることだろう。そして、『私も。
何故なら__。
「元マフィアの太宰さん」
そして__と芥川君は続けた。
「元『マフィア裏幹部』のアマネさん」
「今はアマネじゃない。普だよ」
その言葉に耳を貸さず、では、と芥川君は踵を返した。
それについて行く部下であろう樋口さん。
今期のマフィア面白い人多そうだなぁ。今度遊びにいこっかなぁ。
「やめといたほうがいいよー普ちゃん。首領に見つかって勧誘されたらまた飛び降りしなきゃいけなくなっちゃうよー」
…それは嫌だなぁ。無意識に右目に手を遣っていた。
『あの時』の影響で黄になった目。
「それより早く帰ったほうがよくない?まぁまぁの怪我だよ?」
「そうだね」
広津さん?僕。アマネだよ。
何?太宰がまた芥川相手に暴れてるってぇ?
はぁ…めんどくさい。
嫌、確かに僕が言ったけどさぁ?『芥川相手に太宰が暴れてたら電話くれ』って…
ん?もう一つある?『次回予告しろ』って?
あーいいよ、やりゃいいんでしょ?
次回、『運命論者の悲み』だよ。
眠い。昨日寝たの2時だよ、今日の…って切れてる‥糞ッ
逢った初めてん時位の…とは言わないけどもうちょい慕ってくれてもいいんだよ?広津さん。