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青と黄の境界
広がる青空と生き生きと伸びる新緑の木々。蝉達は忙しく鳴いていた。日差しは日を増して激しくアスファルトに突き刺さる。一歩外に出るだけで上からも下からも熱気が全身を包んだ。茹だるような暑さとギラギラと照り返す眩しさに思わず目を細める。帽子を被ってはいるが、サングラスがあった方が良かったのかもしれない。今朝の天気予報では一日中晴れて今よりも気温が上がるとあった。これ以上暑くなっては耐えられる予感がしない。
携帯電話で時間を確認すると、もうすぐバスが来る時間だった。バス停はここから徒歩で10分弱。涼しければどうってことの無い道ではあるが、流石にこの暑さでは参ってしまいそうだ。遠くで入道雲が列を成し流れている。音がして見上げると飛行機雲が青空を切り裂くようにまっすぐ伸びていた。風はあまり吹いていない。
バス停に着く頃には軽く汗ばんでいた。タオルで軽く拭く。ほどなくしてバスがやって来た。乗車率はそこまで高くなく、座席は空席が目立っていたので空いていた窓際の席に座る。バスは走り出した。クーラーの効いた車内で車窓から外を眺める。何も考えずに揺られて30分ほどで目的のバス停に着いた。快適な車内から地獄のような暑さの歩道に出ると一瞬で汗をかいてしまう。着いたのは霧晴中央駅。ターミナル駅とあって人が多く混雑していた。ここから電車とバスを乗り継ぎ最終的な目的地は咲ノ峰高原だ。
咲ノ峰高原では現在、ヒマワリ畑が見頃を迎えているらしい。SNSで投稿を見て行ってみようと昨日見て思い立ったが吉日、今日この日にやってきた。夏休み期間ということもあって親子連れが多く賑わっていた。気がつけば昼時、近くのカフェで一息つければ良かったのだがあまりにも人が多すぎて中に入ることができなかった。どうしたものかと考えて自販機で麦茶を購入し、先にヒマワリ畑を見に行くことにした。一歩中に入ると普段の日常生活で目にすることの無い植物達が入場者を迎える。丁寧に整えられた花壇の隅に植物の名前のプレートが立てられていた。管理者の手作りのプレートらしく花の豆知識や花言葉まで書かれている。パンフレットを片手にゆっくり観察しながら歩いていると思いきり開けた場所に出た。目の前に広がる景色に思わず息を飲んだ。
高原に咲くたくさんのヒマワリ達は太陽に向かって一斉に顔を上げている。風に吹かれてゆらゆら揺れている。暑さが少しだけ和らいだ気がした。雲一つ無い青空と暖かな日差しをたっぷり浴びた黄色いヒマワリのコントラストが美しい。子どもたちのはしゃぐ声と蝉の声とが合わさってどこか懐かしい気持ちにさせる。まるで青と黄の境界に迷い込んだようだった。何枚も写真を撮って感傷に浸っていると面白そうなものを見つけた。ヒマワリの種が詰められた袋が200円で売られている。思い出にと袋を一つ取り、貯金箱に200円を入れた。封入されている紙には育て方が記されている。家で育ててみるのも面白いかもしれない。
頃合いをみてもう一度カフェに向かうと比較的空いていた。メニューボードにおすすめとあった咲ノ峰ランチセットを頼んだ。セットはスパイスチキンと高原で採れた新鮮野菜のサンドイッチとブレンドコーヒーだった。ピリリと辛いスパイスが食欲をそそり、スパイスの効いたチキンとキャベツとトマトがとてもマッチしている。コーヒーは苦い味のあとからほんのり甘さが漂う味がした。どれも美味しかった。まだ時間があるからとお土産屋を覗いていると風景のポストカードだったり、高原で採れた野菜を使ったお菓子だったりさまざまなものがあった。その中で一番驚いたのはヒマワリの動く人形である。音をたてると音に合わせて動くやつだ。面白いからとずっと眺めている場合ではない。そろそろ帰るためのバスがやってくる。
バスと電車を乗り継ぎ再び霧晴中央駅に戻ってきた。帰宅ラッシュと重なって朝よりも人が多く混雑していた。ぼんやりとしながらようやく家に帰り着いた頃には空がオレンジに染まりヒグラシが鳴いていた。かなり疲れたがなかなかに充実した1日だったと思う。