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熱異常
空は赤黒く裂け、陽光はもはや優しさを失っていた。
地平線の向こうから押し寄せる熱は、街も森も、そして人の心までも焼き尽くす。
足立レイは、瓦礫の上に立っていた。
髪は焦げた風に揺れ、眼差しは遠く、沈んだ空を見据えている。
「……あの日から、世界は止まった」
彼女の掌には、まだ熱を帯びた痕が残っている。
それは単なる火傷ではない。世界を覆う“異常”と共鳴するように、絶えず疼き、燃え続けていた。
熱はすべてを奪った。
街を歩く影はぼろぼろと崩れ落ち、川は|屍体《したい》が浮、風は炎を含んで吹き荒れる。
音楽も笑い声も消え、残されたのは無数の焼け跡と、消えかけた命の匂い。
「この熱は、罰なのか……それとも救いなのか」
レイはそっと、呟く。
彼女の声は乾いた空気に溶け、誰に届くこともなく消えていく。
だが、歩みを止めるわけにはいかない。
熱に蝕まれ、狂気に侵されようとも――まだ確かに、自分の鼓動がここにあるから。
そう。ボイスレコーダーをまた、耳に翳す。