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〖永い夜に〗
「ご興味、ありませんか」
我ながら古くさい居間で椅子に座って、本を差し出す上原慶一の顔を確認した。
本には、やけに長い名前で宗教について記載されている本だと分かる。読む気もなかった。
「生憎のところ、全く」
そう返せば驚いたような顔をして本を戻した。静寂が流れた。
気まずさに耐え兼ねて、席を外してリビングの冷蔵庫を開いた。
「何か...お食べになりますか?」
すぐに彼が「いえ...お構いなく」と返すが、何かに気を取られたのか冷蔵庫の中をじっと見つめる。
視線の先にはリゾットの入ったタッパーが一つ。
「そのタッパーは...」
「リゾットです。修...日村さんに、少し」
「はぁ、そうですか。仲がよろしいんですね」
「...ええ」
異性なら、こう言われることはなかっただろうか。時代の考えは些か理解し難い。
「いや、まぁ...素敵だと思いますよ」
「それは...どうも、有り難うございます」
また静寂が流れた。上原の視線は何も残っていないゴミ箱に向けられている。
やはり、牛乳のパックがないのは不審に思われるか。
わざわざ捨てたと言ったら、どう思うのだろう。家柄的に普通だと納得するのだろうか。
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友人が持ってきたものを姿を見送ってから口に運んだ。
やけに白い色をした牛乳のリゾットで、まろやかで甘くしょっぱい味が口の中に広がっていた。
口の中がしばらくねばねばとしていたが、わりとすぐにさらさらとした水が抜けていった。
「お兄様」
不意に名前を呼ばれた。ややクリーム色をした長髪を後ろ手で結んだ妹だった。
「ああ...どうした?チーズの匂いでもしたか?」
「チーズ?...いえ、特には......」
「......そうか...?」
結果、独特な匂いが鼻から抜けているのだが、あまり匂わないのだろうか。
遥を呼んで隣へ座らせて語りかける。
「そういえば...最近、雇用した人とはどうだ?」
「可もなく、不可もなく...普通です。ただ、優月さんは、その...もう少し、お考えになられた方がいいかと...」
「...不信感は払拭できないか?」
「とても...神宮寺ですし......香典を取りに出向きましたが、霧はやはり深くて...」
その言葉に何も言えなかった。確かに神宮寺家はよく妙な噂を聞く。
山中の奥にある神社の中に位置している名家など確かに怪しいことこの上ないだろう。
しかし、それを私が言う必要はない。今のところはまだ、グレーなのだから。
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テーブルに置かれた上原から渡された本を開いた。
興味がないわけではない。自分の出身の村と例の家のことが記載されたものなど誰でも手に取ってしまうだろう。
ぱらぱらと紙を捲って、顔に皺を寄せた。深く読み込んでいるわけではないが、どうにも嘘くさい。
彼女がそんなことをするわけがないと頭の中で考えが疼いている。
所詮、本も古いメディアの一つに過ぎない。
熱のこもった思考を止め、本をテーブルに置いた。これは大川にでも渡せばいいだろう。
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痛みの残る手足を擦りながら、青く痕になったものを隠すように服を着た。
山村さんが何かを呟いて、すぐに顔を引っ込めた。血の滲んだ包帯が服と重なる度に微かに痛みが走った。
秋人さんは何を考えているのか些か分からない。
よく食欲がないと広竹さんと作った食事も食べることがない。いやに醒めたような、怯えるような瞳をこちらに向けて、感情のままに拳に力を込める。
何かをぶつけるようにして何度も、何度も身体にあたる。
怒っているのかと思って謝っても止まらない。悲しいのかと思って慰めてみても止まらない。
自分がひどく暴力を振るわれるようなことをした覚えもないのだから、常々、頭の思考回路は痛みと共に放棄してそれが終わるのを待つ。
終わった頃には頭の中をドリルで掘られ、抉りとられるような激しい痛みと涙と鼻水がぐちゃぐちゃになったものがそこにある。身体はうまく動かずにしばらくの間、隣で疲れたような顔の秋人さんが頭を抱えている姿が瞳に映る。そこまでが当たり前に過ぎない。
山村さんが引っ込んだ先の玄関を開いて、今にも泣きそうな曇り空を見た。
遠くから八代さんの姿が見えて、会釈をした。相手も会釈を返し、服の下の傷痕にも気づかずに横を抜けていった。
たった一人、泣きそうな空のじんわりとした夏の暑さの中で、助けの声も挙げることなく踞った。
誰も助けてくれないだろうと、物思いにふけた先で優しい救うような声がかけられた。
**あとがき**
リゾットって牛乳無しでも作れるそうですよ、今は食べたくないですが。
直接的な表現はしていませんし、惨劇の前置きということで全年齢です。
...暴力の描写......?...死んでないし、良いんじゃないですかね(*´・з・)
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さて、優月彩音がやや不信され気味な理由については、
①
【日本宗教学全書 普及版 -異端の信仰と百年祭 酒内村に関する調査と研究-】
https://tanpen.net/novel/dcb9d288-1fe5-4185-b86c-b1b734a7241e/
②
Q :最初は別の名家に入ったけど(過去)、後から他の名家に入る(現在)のは有りですか?
A:有り。その代わり、“当主”からは不信の目で見られるでしょうね
(異譚集楽 キャラクター募集の自主企画 質問欄)
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この2つに書かれていることが理由です。私はこれが参加に入った時に記載したんだ。
文句言われたって後の祭りだぞ。説明書、読んどきましょうね(参加された後の後付け)
それと、この不信感が払拭されることはないです。神宮寺家なら尚更です。
人外が人間の周りにいて注目されないわけがないんだよなぁ...(小並感)
村八分みたいなものですね。小さい集落の悪いところ。
一応例外として、日村修ならそこまで思ってないですね。
何故?
そういえば、プロフィールの追加等をしました。
この人だけこの子をこう言ってるな、ぐらいの呼称の追加などですね。
別に大した変更はしてないです。一回全滅エンドにするか生還エンドにするか迷ってるだけですね。
...ああ、そうですね。
次話は......うん......まぁ、たまには良いじゃないですか、はっちゃけても...。
何がいいかなぁ...何がいいかなぁ......。
調理...跡...無惨...無惨......鬼滅...見てないなぁ...どうせテレビで入るか...。