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嫌いな彼と
交際を始めて、もうすぐ三ヶ月。
毎日が穏やかで、少しだけくすぐったい日々だった。
――そう、思っていたのは、俺だけだったのかもしれない。
その日、悠馬はキャンパスの帰り道、用事で久我と待ち合わせをしていた。
講義が早く終わったらしく、正門前で久我の姿を探していると、ふと見慣れた声が耳に入った。
「久我、ほんとマメだよな。資料まとめとかも完璧」
「そっちこそ、言い方上手いよな……。調子乗せられるわ」
――笑ってる。
目を向けると、そこには久我がいた。
けれど、その隣にいたのは自分ではなかった。
彼の横で肩を並べるのは、同じゼミの男――高橋。
人懐っこく、距離の詰め方がやけにうまいと、少し前から耳にしていた。
ふたりは近かった。
話すたびに、久我が少し笑って、時折、腕が軽く触れていた。
いつの間に、あんな顔を他人に見せるようになったんだ?
悠馬は、足が前に進まなかった。
スマホの中には、ついさっき久我から届いたメッセージがあった。
「ゼミのあと少しだけ話してくる。15分くらい遅れるかも、ごめん」
“話してくる”のが誰かなんて、聞いてなかった。
――いや、本当は、聞くのが怖かったのかもしれない。
自分が知らないところで、久我が誰かと楽しそうに笑っている。
その事実だけで、胸の奥がざらついていく。
その夜、久我と会ったとき、悠馬は何も言わなかった。
ただ少しぎこちなくなった手の重なりに、久我が不思議そうに見つめる。
「……どうした? なんか、元気ない?」
「ううん、何でもない」
そう言って笑った自分の顔が、ひどく嘘くさかったことに、気づいていた。
久我のことは信じてる。
でも、それでも――
久我が誰かに笑いかける姿が、自分以外のものになっていく気がして、たまらなく怖かった。