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夏祭りでの幼き頃。
幼き頃。
ーーわいわい、わあわあ……。ドンドン…。
お祭りの音はとっても楽しそうだった。
父に連れられてとても幼い頃に来た、カミイノリ祭。
遠い地方の、知らないお祭り。
最初は不安でしかなかったが、私より小さそうな男の子が一緒にお祭りの屋台をまわってくれた。
お礼は、できなかったけど。
そんな日の懐かしい夏の思い出。
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20××年 7月5日
「お父さん、ここどこぉ……。」
父に連れられて来た桜は、早速迷子になっていた。
涙でいっぱいの瞳から、ぽたぽたと雫が落ちていく。
「大丈夫?」
「?」
視界が少し暗くなったと思ったら、目の前に男の子がいた。
「あ、えっと…おれの名前はすぐり。」
「すぅくん……?えっと、わたしの名前はさくらっていうの…」
勝手にすぐりをすーですぅくんと呼び、桜は自己紹介をした。
「えっと…さくら…?……迷子になったんだべ?」
「うん…お父さんとはぐれちゃった…」
「おれは、お祭り、一人でまわってたんだけんど…、
一緒に、来るか?」
「………うん!」
「まずは、射的だべ…。」
「スグリくん、1回百円ねぇ。」
屋台のおばちゃんがそう言って、スグリは四百円渡した。
「すぅくん、4回やるの?」
「2回はさくらだべ。」
「わかった!頑張ってね!」
その様子に気づいたおばちゃんが、
「あらあらスグリくん!可愛いガールフレンドを連れてるのねぇ。」
「べっ、別にそんなんじゃねぇべ!?」
顔を真っ赤にしたすぅくんがそう慌てて言った。
「??すぅくん、がーるふれんどって何?」
「し、知らなくていいべ…。」
そして、すぅくんは振り向いて、こう聞いた。
「さくらは何が欲しいべ?」
可愛くニコニコしながら。
「うーん…」
ーー猫のぬいぐるみ、熊のおもちゃ、笛ラムネ、
ドロップ……。
「桜味のドロップ!」
桜味のドロップは、右下にあった。
「うん、わかった!やってみる!」
すぅくんは狙いをしっかりと定めて…
ーーパァン!
「おめでとう!猫のぬいぐるみだよぉ!」
「うん…思ってたのと違うべ…」
またもや、狙いを定めて…定めて…?
ーーパァン!
「おめでとう!ペアキーホルダーだよぉ!」
「うん…違うべ……」
せっかくとれた商品を見て、すぅくんはがっかりしていた。
「でも、すぅくん!」
「なに、さくら?」
ペアキーホルダーを指さして、
「それ、おそろいに、しよっ!」
猫と、うさぎのペアキーホルダー。とっても可愛くて、
夜空モチーフ。
「えっ、さくらがいいなら…。」
「うん、そうしよっ!じゃあ、すぅくんは猫ね!」
「さくらは、うさぎだな…!」
「うんっ!」
にひひっと、ふたりは笑いあった。
「スグリくん、まだまだ2回あるよぉ!」
「あっそうか…さくら、よろしくだべ!」
「うん、頑張るね…!」
初めての射的でドキドキしたが、しっかりと桜味のドロップを見て…。
ーーパァン!
「おめでとう!桜味のドロップだよぉっ!」
「「わぁい!やった〜!」」
謎にハモってしまった事に驚き、そして、二人でくすくすと笑った。
その後も、カミイノリ祭恒例の踊りをして、
わなげをしたり、かき氷を二人で分けたり…。
そして、カミイノリ祭も終わりという時に花火があがった。
ピンク、紫、赤、黄色…。
「綺麗だねぇ……!」
手をあわせてキラキラと目を輝かせている桜を見て、
すぐりはにっこり笑った。
「うん、そうだべ。」
はしゃいでいる桜の横顔を見て、すぐりはあることを
思いついた。
「さくら、こっち来て!」
「?…うん!」
来たのは屋台の方で、『りんご飴』と大きく書かれていた。
「カミイノリ祭最大イベント…りんご飴を渡すと、相手との恋が…」
「鯉が?」
「み、みみみみ…。みのる、らしいんだべ…!」
「鯉が実る?」
そんな事を考えている間に、すぅくんはりんご飴を2つ買ってきた。1つのりんご飴を少し舐め、深呼吸をして私に話した。
「さくら…好きだべ…!」
「うん?私もすぅくんの事好きだよ?」
「へっ?」
すぅくんは顔を真っ赤にして、「わやじゃ……。」と、
倒れてしまった。
「すぅくん!?りんご飴食べないの!?私食べちゃうよ〜!」
「…か、間接キスだべ…!?わ、わやじゃ…!?」
余計に顔が真っ赤になってしまい、私は「起きて〜!」とすぅくんの体をゆすった。
とりあえず、すぅくんを公園まで連れていき、ひざ枕をした。
「んっ……。?」
「あっすぅくん起きたぁ!よかったぁ…!」
「ひ、ひざ枕…!」
すぅくんは顔を手で隠した。
そして桜はすぅくんのりんご飴を渡した。
「一緒に食べよっ!」
「う、うん…!」
りんご飴を食べ終えて、ゴミをゴミ箱に捨てたあと、
すぅくんとバイバイをした。
私の父が見つかったからだ。
「すぅくん、ありがとう!また会えるといいなっ!」
「そうだべ…また、会いたい。」
「うんっ、約束ねっ!」
ーーゆーびきりげんまん、嘘ついたら針千本のーます!
ゆーびきったー…。
こうして、幼い二人の約束が結ばれたのだった。