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夏の終わりの記憶の底
じーわじわじわじわじわじわじわじわじわじわ
うだるような暑さだった。八月末。夏。日差しは、肌を熱で突き刺しつづけるようだった。痛いと思った。これは火傷になる。君は長時間日差しを浴びると火傷のようになるよ、と皮膚科で言われていた。痛いから嫌なのだ。
じーわじわじわじわじわじわじわじわじわじわ
鉄板のようなアスファルトの上を進む。新しく舗装された白い線と文字がひたすらに眩しくて、目が痛かった。汗が背中をつうと伝って、気持ち悪さを覚える。はるか向こうに見えるアスファルトと、その周りがじわりじわりと歪んで見えて、陽炎だと思った。暑い。
蝉の鳴き声がひたすら暑苦しい。昨日も一昨日もその前も、いつから聞こえるかなんてもうわからなかった。いつのまにか鳴き出したそれらは、夏が終わるまでは止むことはない。
じーわじわじわじわじわじわじわじわじわじわ
あっ、と思った。蝉が落ちていた。ぼとりと落ちている姿は、生き物を感じない。夏の暑さにやられたのかなと思った。蝉がどういう経緯で死ぬのかなんて知らない。暑さにやられるほどじゃないのかもしれない。なんで死んだかなんて考えてもしょうがない。
じーわじわじわじわじわじわじわじわじわじわ
蝉の声は、響き続ける。
一匹が死んでもなお、世の中が変わることなんてないのね。ふと思った。
じーわじわじわじわじわじわじわじわじわじわ
じじじじじじじじっっ
うわっ。咄嗟に身をひいた。急にその蝉がこえを上げたのだった。
セミファイナル。そんなくだらない言葉が口をついた。ひとり笑ってしまった。
案外しぶとい。わからないけど、なんとなく、私はうれしくなった。
耳にこだまする。じわじわじわじわ。
夏の終わりになると思い出す、そんな記憶。
セミファイナルって言葉つくったひと、センスあるなと思ってた。