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風の刃と世界の行方 第2話
「ほえー、こんな感じなんだ」
「一応異世界なのに全然驚かないね」
「人間界にもこんな感じの場所はあるんじゃない?」
千景に連れてこられたのは、山の麓の町だった。夜だけどたくさん人がいて、市場っぽいところに人が集まっている。私が住んでる町は山と海に挟まれてるから、異世界なのに少し懐かしさを感じる。この世界の人達はやっぱりみんなふさふさの耳としっぽがついている。
「てか、この世界ってなんて言うの?」
「世界の名前、ってこと?ここはね、|青嶺界《せいれいかい》っていうんだよ。山とかの青々とした自然が綺麗だからそう名付けられたんだ」
「詳しいね」
「一応王位を継ぐかもしれない身だからね。世界の成り立ちは知っておかなきゃ」
継ぐかもしれない……って、そういうのって決まってるもんじゃないんだ。
「じゃ、行こっか」
「え、どこに?」
「どこって、王宮だよ。これから一緒に住んで結婚するために連れてきたんだもん」
「いやそれはわかってる。王宮の場所はどこなの?」
「あそこだよ」
千景は山の上の方を指差した。私は開いた口が塞がらなくなった。
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十数分後、私は千景に案内されてトロッコとやらに乗っていた。周りは森、森、川って感じ。
「歩きかと思ったわ」
「流石にね。俺だってこの山歩いて登れって言われたらキツいよ。ほら、見えてきたよ」
「わーお。デッカ」
顔を上げると、和風建築の宮殿が建っていた。横幅が広くて、奥行きもどこまであるか分からなくて、高さは三階建てぐらい。よくこんなの山の上に建てられたな。
「暗いし足元悪いから気をつけてね」
と言いながら、千景の手を借りてトロッコを降りる。いつの間にか、千景の服が浴衣から袴になっていた。
「おかえりなさいませ、千景王子」
門番に顔パスで通されて、広い庭を通り抜け宮殿の中に入ると、これまたふさふさの耳としっぽを持っていて袴を着た男の人が立っていた。
「ただいま」
「良かった、見つかったのですね。はじめまして。千景王子の従者をしております、|司《つかさ》と申します。以後、お見知りおきを。お名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?」
「風見響です。千景もそうですけど、この世界の人って名字はないんですか?あとなんて呼んだらいいですか?」
「ええ。人間で言う名字にあたるものはありませんね。呼び方はなんでも大丈夫です。響様は千景王子の奥様になるお方ですから私に対して敬語は使わなくてよろしいのですし、私を呼ぶ時に敬称もいりません。気になるなら別に敬語でも構いませんが」
「分かりました。ありがとうございます」
めっちゃ礼儀正しいし、イケメンだ。千景は長い銀髪だけど、この人は紺色っぽい髪を後ろで1つ結びにしてる。
「では、お部屋にご案内致します。ここからは響様専用の侍女が行います」
「侍女とかつくんですか?」
「はい。先程も言いましたが何せ響様は千景王子の未来の奥方ですからね。不自由に思うことがあってはいけませんよ」
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「これから響様の身の回りのお世話をさせて頂きます。|椿《つばき》と申します」
「よろしくお願いします」
私を廊下で待っていたのは、身長が高くてスタイルが良く、切れ長な目をした綺麗な女の人だった。
「お部屋はこちらになります。何か不便に思うことがあればいくらでもおっしゃってください」
「はい。ありがとうございます」
「お召し物は何着かご用意させていただきました。全て和服なので着付け方はご説明しますが洋服もご所望であれば後日千景様と一緒に選びに行ってください。お食事は千景様から一緒に食べる、っと言われているのですがそれで大丈夫ですか?」
「はい」
待遇が良すぎてなんか不安になってきた。後でお金取られない?ていうか学校どうするかとか考えてないし何も言われてない。どうしよ。
「陛下と王妃様へのご挨拶は明日で良い、と言われておりますし本日はお疲れでしょうからごゆっくりなさってください。就寝の際はベッドとお布団どちらが良いですか?」
「ベッドでお願いします」
家だとベッドだからな。布団でも寝れないわけじゃないけど落ち着かない。
「承知しました。お食事の用意が出来たらお呼びしますので、しばらくお待ちください。苦手な食べ物などはございますか?」
「青魚と、めっちゃ辛いものと苦いものが苦手です」
「了解です。では」
そう言って、椿さんは部屋を出ていった。
「ふう……」
私はその辺にあった座椅子に座り、部屋の中を見渡した。柱や窓枠は鮮やかな赤で塗られていて、和紙が貼られた照明は繊細な美しさがある。障子を開けるとベランダがあった。ベランダからの景色も、もちろん綺麗。高いところにあるからか、下に見える町の明かりがめっちゃくちゃ綺麗に見える。あと、山の上だからか空気が美味しい。ただ風が強いから髪がボサボサになりそうで、私は部屋の中に戻った。ふと机の上を見ると、人間界からそのまま持ってきたスマホがあった。………そういえば、スマホってこっちの世界でも繋がるのかな。気になって手に取って、電源を入れるととりあえずロック画面は表示できた。WiFiは………え、あるんだけど。でもL○NEの通知とかは来てない。私がいなくなって、人間界はどうなってるのかな。家族や友達は、心配してくれてるのかな。私はそんな不安を抱えながら、ボーッと天井を見つめた。