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    幸せになんかなりませんように
    
        鳴陀
    
    
        人の死に際がたまらなく観たくなった。
    
    
    家で使うために置いてあった縄を手に持った。掌と縄が触れ合う。縄の繊維が俺の掌で息をするように動いて、少しこそばゆかった。ギシギシと軋む木製の床を重い足取りで歩き、寝室で寝る母のもとにしゃがみ母の首に優しく縄を巻き付けた。徐々に巻き具合をきつくすると、それに反応するように眉間に皺を寄せては苦しそうに呼吸をしていた。無意識のうちに死に際に立たされた母の顔が美しくて、躊躇することなく縄をきつく首がちぎれてしまいそうなほどに締めた。最後は目を覚まし、俺の姿に気づいたようだった。ゆっくりと俺の頬に手を伸ばした。どれくらい時間が経ったのだろうか。気付けば、母の手は床におちていた。必死にしていた呼吸も止めていた。
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母はよく歌う人だったと思います。冬の頃には特に、掠れて途切れて調子っぱずれのそれを俺は、実のところ存外愛していたように思います。母にとって俺はどんな子供でしたか。俺にとってどんな女 性だったのでしょう。俺には判りません。
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母よあの時みたいに教えてください。この思いは往々にして在るんです。在ってはいけないこの気持ちが心に影を落とし消えてはくれない。
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