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嫌いな彼と
あの夜の涙が、まだ完全に乾いていない。
久我の温もりを感じながらも、悠馬の心にはずっと消えない影があった。
「久我、俺……話さなきゃいけないことがあるんだ」
ふたりが少しずつ距離を縮めていくなかで、悠馬は初めて自分の過去を打ち明けようとしていた。
「……元カレのこと、話してくれよ」
久我の言葉に、悠馬は小さく息を吐いた。
「翔太ってやつがいてさ……高校の頃の話なんだけど」
悠馬は静かに話し始めた。
翔太は初めて心を許した人だったこと。
だけど家族の事情で突然離れ離れになったこと。
彼を失ったことで、もう二度と人を信じられなくなったこと。
話すほどに、胸の奥に封じていた痛みが波のように押し寄せる。
「……だから、俺、久我に全部任せるのが怖かった」
久我は何も言わず、ただその手をぎゅっと握った。
「怖いのはわかる。俺だって怖い。
でも、俺はお前の過去も全部抱きしめたい」
その言葉に、悠馬の瞳が揺れた。
「ありがとう、久我……」
二人の間にあった不安が少しだけ溶けて、
また一歩、信じ合う距離が近づいた夜だった。