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この人生はつまらない。
このテキストライブで書いていた小説です‼︎
少し追加したり消したりしています‼︎
昔からサッカーが好きだった。
ゴールを決めた時の皆の笑顔も好きだった。
自分の努力が認められるのが嬉しかった。
お前はここにいるべきなんだって言われてるような気分になれて凄く幸せだった。
俺が輝けるのはここだけなんだって、そう思ってた。
相棒とやるサッカーが一番楽しかった。
俺の駄目な所を補うようにプレイしてくれて、二人揃ってなきゃプレイが上手く出来ないと感じる程、アイツに助けられていた。
俺は、アイツと一緒にいるのがサッカーと同じくらい好きだったんだ。
だから、俺の人生全部捧げてでもサッカーを続けたかった。
アイツとまだサッカーを続けていたかった。
目から勝手に涙が出る。俺の手は太腿を撫でて、その先にあったはずの足を撫でる。
「俺の足、返してくれよ‥ッ!」
両足がなくなってしまった今、俺は何を生き甲斐にすればいいのだろうか。
♢
二日間の合宿の後、俺は家に帰ろうとしていた。
横断歩道で信号が青になるのを待ちながら、LINEで親に「もうそろ帰る」と連絡してポケットにスマホを仕舞った。
合宿で使っていたキャリーケースを左手に持ち、マフラーで口元を隠した。少しずつ雪が降ってきていて綺麗だが、寒いので勘弁して欲しい。
歩行者信号が青く光り、キャリーケースを持ち直して横断歩道を渡る。
渡っている途中でポケットからスマホが落ちてしまい、それを拾ってまた歩き出そうとした。
街灯に照らされているから影なんて自分の以外出来るはずがない。なのに俺の影に被さるように大きな影がかかった。
振り返ればそこには、俺目掛けて突っ込んでくるトラックがいた。俺はそのトラックから逃げられずにぶつかり、吹っ飛ばされた。
頭がボーとしていく感覚の中、遠くに飛ばされたキャリーケースがグシャリと歪んでいる事がこの事故の酷さを物語っていた。
運転手が慌てて降りてきてこっちに駆け寄ってくる。まわりにいた人達も警察に通報するなり救急車を呼ぶなりしていた。
轢かれた俺はというと、もうほとんど死にかけだった。考えなんてまとまらないし、耳も聞こえないし、視界も段々暗くなってきたし。
多分、これが死ぬって事なんだろうな〜と呑気に考えていた。
死ぬのが怖い、とかじゃない。サッカーが出来なくなる事が怖いんだ。死んでもサッカーが出来ればよかったんだけど。
この時の俺はきっとまた、生きてればまたサッカーが出来ると思っていた。
足の感覚がもうない事に気付かないふりをして。
♢
病室のベットの上で、ただ天井を眺める。
テレビをつける気にもなれなかった。何かをする気力が湧かないんだ。足がなくなったから、何処かへ散歩をしにいくとかも出来ない。なんて言ったらいいのか分からないけど、暇じゃないけど暇って事。
俺は今、何をしたらいいんだろう。
義足をつけてもう一度サッカーをする?
そんなの、俺の好きなサッカーじゃない。
芝生をかけるあの音が、あの感覚が好きなんだ。
「‥どうしたらいいんだろうな。」
相棒と撮った試合後の写真を眺める。俺も相棒も、どちらも笑っていて幸せそうだ。‥今の俺とは正反対だけど。あんなに大切だった友人が、今では何だか憎らしい。
俺はもうサッカーを出来ないのに、アイツはサッカーを続けていられる。俺の事なんか気にしないで、周りに合わせたプレイができる。
「‥俺と同じ目に会えばいいのに。」
いっそアイツも両足を無くしてしまえ。
サッカーを出来ない体になってしまえ。
そんな事を思ってしまう俺は、誰よりも最低だ。
目から涙が出てくる。止められない、何で泣いてるのかもわからない。俺は何がしたいんだろう。
扉を叩く音が聞こえて、音の少し後に扉が開く。
入ってきたのはいつもの看護師。また「調子はどうですか」とか聞くだけだろう。
「羽澄さん、調子はどうですか?」
やっぱり。
「‥いつもと変わりません。」
「そうですか。では、何かあったら呼んでくださいね。」
そう言って戻って行く看護師。すぐ帰るくらいなら来なくていいんだけど。どうせ俺の気持ちなんか、誰にもわかりゃしない。
“羽澄由士”。
両親が「自由な人生を歩めるように」と名付けてくれた名前だ。今の俺は自由でも何でもないけれど。
相棒の名前は“百田元輝”。
「周りの人を明るく照らして元気にする」という意味があるらしい。きっと少し前の俺は、元輝に影響されて幸せだったんだろうな。
今は、元輝が眩しすぎて憎くなってしまった。
ずっと友達だったのに。相棒だったのに。
なのに今では殺ししまいたい程憎らしい。
俺は最低な奴だ。足がなくなったのはアイツのせいじゃない。横断歩道に突っ込んできたトラックが悪いんだ。
なのに俺は、俺はこんな自分が大嫌いだ。
自分で自分が大嫌いだって思ってる。
アイツは、元輝はなんにも悪くない。
そう分かってるのに、元輝を羨ましく思ってしまう。サッカーを続けられていて、幸せに生きていられて羨ましい。
俺が出来なくなった事を続けられていて羨ましい。
この絶望感は誰にもわからない。
今まで当たり前だった事が突然出来なくなって、その当たり前を続けていられる人を見るしか出来なくなった時の絶望は、きっと誰にも伝わらない。
見ているのが辛くて死にたくなる。
この足が戻らないのなら、死んでしまいたい。
誰かいっそ、俺を殺してくれ。
♢
入院してから暫くたった時、やっとテレビをつける気になった。なんでかはわからない。でもきっと、アイツが見舞いに来た日に全部壊れたんだろう。
あの日、サッカーチームの状況やこれからの試合の話をしにきたアイツに腹が立った。
「俺な、次の試合も出れることになったんだ!お前と二人で試合に出られないのは少し悲しいけど、新しいペアの奴もめっちゃ上手くてさ〜!」
何それ、俺の代わりが見つかったから俺はもうどうでもいいわけ?普通、サッカー出来なくなった奴に向かってサッカーの話する?頭おかしいんじゃないの。
「だから俺、ソイツと試合に出て優勝するから見といて___」
俺はソイツが話してる途中でソイツに向かって枕を投げた。ソイツの言葉が止まり、病室から音が消える。
「お前、いきなりどうした?俺なんか言ったか?」
ソイツは俺の投げた枕を拾い上げて、俺のベットの上に置き直した。こんな時までウザいと思ってしまう俺はもう末期だろう。
「でてけよ。」
「は?」
「いいから出てけよ!!」
戻された枕をまたソイツに向かって思い切り投げる。サイドテーブルに置かれた、見舞い用に持ってきていたレジ袋を床にはたき落とし、中身が出ていた。リモコンも投げて、手の届く場所にある投げられる物を全部ソイツに投げた。
「黙れよ!!サッカー出来なくなった奴にサッカーの話するかよ普通!!馬鹿じゃねぇのお前!」
「由士?一旦落ち着けってお前、」
「黙れ黙れ黙れ!!さっさと出ていけよ!!」
物を投げた音と俺の怒鳴り声、それが病室の外まで聞こえていたんだろう。看護師が中へ入ってきて、元輝に外へ出るよう話をしていた。
「由士‥、」
ソイツは眉を下げて、悲しいような意味がわからないような顔をしながら俺を見た。その“普通とは違う人間”を見る目に腹が立った。
「二度と俺の前にその姿見せんな、裏切り者が‥ッ!!」
ソイツは酷く傷ついた目をしていた。
お前よりもずっと、俺が一番傷ついてるよ。
何故だか涙が止まらない。
♢
テレビをつけたら、丁度スポーツ番組だった。
今はサッカーの試合が終わったところのようだ。少し前の俺がこれを見たら、腹が立ってテレビを壊していたかもしれない。そこまでするかはわからないけど。だけど今の俺はなんにも思わずにそれを見ていた。凄いな〜ともこうなりたかったな〜とも思わなかった。
試合で活躍した選手へのインタビューシーンになった。リアルタイムで放送されているやつらしく、このテレビに映っている映像は遠く離れた場所で撮っている映像と同じ瞬間らしい。
インタビュアーの人が選手の元へ近づき、マイクを近づけた。他のテレビ局もマイクやカメラを近づけていて画面が騒がしい。
「‥では、一つ質問いいでしょうか?」
「はい、なんでもどうぞ。」
「試合で素敵な活躍をされていた“百田”選手ですが、今回こんなに頑張っていた理由というものはあるのでしょうか?」
「そうですね‥俺、少し前まで一緒にペアで試合に出ていた奴がいるんですけど、ソイツ事故って入院してしまいまして。その後に喧嘩もしてしまったし。だからこの試合を頑張って勝てたら、またその病院に行って謝ろうと___」
俺はリモコンを操作し、テレビの電源を消した。
テレビに映る人物に腹が立ったのではない。
インタビューの何かに腹が立ったわけでもない。
ただなんとなく、なんとなくだ。
なんとなく消したくなったんだ。
サッカーの事マジでなんにも知らないので知識間違ってたらすみません‼︎