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『想いは、時を巡る。』 episode.6
お待たせしました。『想いは、時を巡る。』最終回です。
長くなりすぎてしまい、もう一話増やそうかと悩みましたが、予定通り今回が最終回です。
投稿日が1日遅れてしまったこと、昨日手違いで22時に予約投稿していましたが、本文を入力し忘れてしまい、空欄の小説が投稿されてしまったことをお詫びし申し上げます。
タクトとの今まで交流してきた証も、全部消えてしまった。
絶望感に打ちひしがれた私は、再びリビングへと戻る。
まだ、さっきのテレビ番組をやっていた。
「《さあ、Prince×2の皆さんには、今回、曲にちなみ、『最近あった不思議なこと』について聞いていきたいと思います!……それでは、まずは馬場さん!何かありますか?》」
タクト「《うーん、そうですねぇ……………あ、そういえば、1週間くらい前だったかな。収録が終わってテレビ局を出て、そのすぐ近くにある横断歩道を渡ろうとしたら、大きいトラックに轢かれそうになったんです。………でも、何か分からないけど、気がついたら、いつの間にかその横断歩道の手前の歩道に倒れ込んでて。しばらく呆然としてましたね。神様が守ってくれたのかな?『お前はまだ生きるべきなんだ』って………なんちゃって。》」
タクトは頭をちょいちょい掻きながら、照れ笑いした。
「《おい!そんな完璧な話されたら、この後の俺らの話つまんなく思えちゃうだろ!》」
リーダー・宮本くんのツッコミに出演者の人たちからドッと笑いが起こる。
「《はい、とっても不思議な話でした!……それでは、お次は宮本さん!面白いお話、期待していますよ!ーーーー》」
そうだ。これでよかったんだ。
なにを悲しんでいるんだ。
タクトがかえってきたんだ。それ以上の喜びがあるものか。
そうだ。タクトとの関係が無くなったところで、また元のアイドルとファンの関係に戻っただけではないか。
これでいいんだ。
タクトが生きていることが、私の幸せ。
タクトの笑顔さえ見られれば、それでいいんだーーーー
「ガチャ」
再び私は自分の部屋に戻る。
ベッドに寝転がり、天井を見る。
ふと、周りの景色を見て、タンスの上の洋服に目がいった。
気になってその洋服を広げる。
若草色の、ワンピース。
あのショッピングデートした日、タクトに勝ってもらった服だ。
これだけは、残っていたのだ。
ユナ「――やっぱり、忘れることなんて出来ないよ……………っっ!!」
神様の見落としか、ほんの少しの施しか分からないが、私はやっぱりタクトとの思い出を無駄にはしたくない。
無かったことになんて、出来ない。
いや、させない…………!!
私はワンピースを握りしめ、部屋を飛び出し、家を出た。
タクトは今、生放送の音楽番組に出演している。
ダッシュで電車に乗れば、放送時間ぎりぎりまでにテレビ局に着く。
私は、急いだ。
---
ユナ「――つ、着いた…………」
無事、テレビ局に着く。
時間的に、丁度生放送が終わった時間だ。
そして、待つこと一時間弱。
タクトは、来た。
ユナ「―――タクトっ!!」
タクトは、こちらに気がつく。
ユナ「タクト!覚えてる??私!ユナだよ!ユナ!」
タクト「えっ………ユナ………?知りません。あの、ちょっとそういうことされても困るんですよね。僕、次も仕事なので。」
タクトは、私を振り切るようにスタスタと足を速める。
ユナ「ほ、本当に覚えてませんか!?私、あなたの妹なんです!私が生まれたばかりの時に両親は離婚して、タクトと私は離ればなれになって………!!」
タクト「そんな話誰が信用するんですか。そもそも、僕に妹なんていません。」
ユナ「そんな………!!ほら、このワンピースも、あなたが私にプレゼントしてくれて……………」
タクト「………いい加減にしてください!!ケーサツ呼びますよ!」
「――ど、どうしたんだよ!タクト、大きな声だして。あれ、君、あの………成巡高校の……ゆ、ゆなちゃん………??」
Prince×2の他のメンバーが来た。
タクト「優人!それに、みんなも………この人、知ってるの!?」
優人「知ってるもなにも、半年くらい前に俺らで行ったじゃんか。高校に。で、ゆなちゃんはタクトの催眠術かけられてたんだよ。覚えてねーの?」
どうやら、Prince×2の他のメンバーは覚えているようだった。
タクト「…………ッッ!」
タクトは、逃げるようにその場から立ち去る。
優人「……あっ!!待てって!どうしたんだよ!」
――どうしよう。
もう、タクトのファンではいられないのだろうか。
タクト――――――
---
あの日、君に会いに行くって決めたんだ。
だから――――――
---
『何となく』って言うわけではないけど、
たまたま目についた君が、どうしても気になってしまって…………
タクト「―――じゃあ、今目が合ったそこのボブの女の子にしようかな!」
名前を聞くと、その子は“ユナ”と言うらしい。
ユナ、ユナ―――――俺の妹と、同じ名前。
「オギャアー!オギャアー!」
タクト「よしよし、結奈ちゃーん、良い子だねー♪」
俺には、妹がいる。
名前は結奈。|馬場結奈《ばばゆな》。
しかし、俺の母さんと父さんが離婚してしまったことで、俺と結奈は離ればなれになってしまった。
苗字も、馬場では無くなった。結奈は俺が4歳の時に生まれたから、もう高校生か。今、どこで何をして暮らしているのだろうか。
---
タクト「………そうだったんですか………実は最近、ユナさんと知り合ったばかりだったんです。―――」
結奈と離ればなれになり、およそ17年。事態は動いた。
あの子が、俺の妹だったんだ。
言わなきゃ。やっと会えたんだし。
俺はユナのお父さんに『ちゃんと伝える』と言って、電話を切った。
---
タクト「じゃあ、また来週の日曜ね〜!」
ユナ「はい!お、お願いします!」
「ガチャ」
結局、ユナに真実を伝えることは出来なかった。
何やってんだ、俺。
その後も、ユナとの交流は深まるが、俺は中々言い出せなかった。
お父さんに申し訳ない気持ちで一杯だった。
弱虫。意気地無し。
ただ、伝えればいいだけなのに。
ーーーあの日、俺は君に酷いことをしてしまった。
ああ、アイドル失格だ。
君が去ってしまうのも仕方がない。
……でも―――――――
タクト「――――待って!!本当は、彼女は―――――」
言うんだ。彼女を引き留めて。
言うしかない。言うしかない。
―――だけど、見失ってしまった。
ああ、何やってんだよ俺ッッ!!
タクト「――はあ………こんなつもりじゃなかったのに。何やってんだ俺は……………何で本当の事が言えないんだよ………クソっ………!!――――――嘆いても仕方ないよな。……帰ろ…………」
もう、ユナは俺と会ってはくれないのだろうか。
これからどうしよう。
本当の事は言えるのかな。
「――ブロロロロロロ…………」
「ブロロロロロロロロロ――――」
タクト「―――えっ……………」
ふと横の方に目をやると、視界いっぱいにトラックが映る。
ライトの光で眩しい。
俺は、動けずにいた。
「――トン!」
あの瞬間のことは、あまり覚えていない。
半分も埋まってない未完成のパズルみたいに、記憶は曖昧だ。
気がつくと、俺は道路ではなく、歩道に座り込んでいた。
トラックは何処にも見当たらない。
夢でも見ていたのだろうか。
―――ああ、そんな事より、これからどうしよう。
……え、どうしよう………??
俺、何か不味いことしたっけな。
思い出せない。次第に記憶が遠のいていく。
君は誰だっけ。君は|存在《い》たんだっけ。
考えれば考えるほど余計に分からなくなっていく。
俺は、“誰”に、“何”を言おうとしていたのだろう――――――
---
「―――タクトっ!!」
俺の名前が聞こえ、声のする方へと振り返る。
「タクト!覚えてる??私!ユナだよ!ユナ!」
ユナ…………??
ユナ、ユナ………………
多分、知らない。
俺はその人から逃げるように足を速める。
「ほ、本当に覚えてませんか!?私、あなたの妹なんです!私が生まれたばかりの時に両親は離婚して、タクトと私は離ればなれになって………!!」
タクト「そんな話誰が信用するんですか。そもそも、僕に妹なんていません。」
――確かに、俺に妹はいない。
……だけど、俺が4歳の時に両親は離婚した。
――もしかしたら……………
でも、この人の言うことを肯定してしまったら、余計にこの人に寄り付かれ、面倒なことになるので、それはあえて言わなかった。
「そんな………!!ほら、このワンピースも、あなたが私にプレゼントしてくれて……………」
黄緑色の、ワンピース。
―――なんだろう。既視感を感じる。
気のせいだよな………??
タクト「………いい加減にしてください!!ケーサツ呼びますよ!」
どんどん揺らいでいく心を振り切るように、俺は大声を出した。
すると、大声に反応して、他のメンバーが来てしまった。
「――ど、どうしたんだよ!タクト、大きな声だして。あれ、君、あの………成巡高校の……ゆ、ゆなちゃん………??」
「優人!それに、みんなも………この人、知ってるの!?」
「知ってるもなにも、半年くらい前に俺らで行ったじゃんか。高校に。で、ゆなちゃんはタクトの催眠術かけられてたんだよ。覚えてねーの?」
なんだよ…………
俺が間違ってるって言うのかよ。
仕方ないだろ。何にも覚えてないんだ。
まるで、誰かに都合の悪い記憶だけ消されたかのように。
タクト「…………ッッ!」
思い出せない悔しさ、腹立たしさで思わず俺はその場から逃げた。
---
「バタン!」
タクト「ハァ、ハァ……………」
急いで家に帰り、部屋に上がる。
気持ち悪い。
まるで、ドラマを見たときに、『あの女優って誰だっけ?』って、全然思い出せないみたいに。
タクト「………クソッ、クソッ、クソッ!……なんで思い出せねぇんだよ!!」
「バン!」
ついイライラして、部屋の壁に拳の横側を叩きつける。
すると、その壁の振動で、近くのクローゼットの上に置いてある物が落下する。
どれだけ強く叩いてしまったのだろう。
やりすぎてしまっただろうかと反省しつつ、その落下した物を拾う。
それは、手のひらサイズの小さな紙袋だった。
無性に中身が気になり、中を見る。
中には、リップがただ一つ入っていた。
――全て、思い出した。
妹がいたこと、
それはたまたま行った高校の生徒だったユナという子であったこと、
そのユナちゃんと一緒に出掛けたこと、
そこでユナちゃんが欲しがっていたワンピースを買ってあげたこと、
そして、『彼女の誕生日プレゼント』と嘘をついてユナちゃんに選んでもらい、買った使い道のないこのリップ。
そして、一番最近の記憶は、ユナちゃんと気持ちがすれ違ってしまい、その後にトラックに轢かれてしまったこと。
――そして、ユナちゃんが俺を突き飛ばして助けてくれたこと。
ああ、全部思い出した。
――俺は、あの子になんて態度を取ってしまったんだっ………!
ごめんな。ごめんな。
ダメな兄ちゃんで、ごめんな。
---
次の日、私は、一週間ぶりに高校へ来た。
七海「あっ、ユナ!久し振りーっ!風邪治った?」
どうやら、わたしが一週間休んでいたのは、風邪のせいということになっているらしい。
あの後、家に帰ったら深夜0時。
何も言わずに家を飛び出した上に連絡も忘れていたので、父にはこっぴどく叱られてしまった。
ユナ「う、うん!もう元気だよ!」
訂正するのは色々と面倒なので、話を合わせた。
〈その日の夕方〉
七海と一緒に学校の門を出る。
「――ユナちゃん……!」
帽子に眼鏡にマスクを着けた男の人に小声で話しかけられる。
「俺だよ………!」
その男の人はマスクを下げる。
ユナ「……た、タクトっ………!?」
タクト「大事な話があるんだ。ここじゃなんだから、別の場所で話そう。」
七海「……あーっ!そうだ、私用事思い出したーっ!私、先帰ってるねーっ!」
わざとらしく七海がそう言う。
七海「………頑張ってねっ♪」
その後に七海に小声でそうささやかれる。
七海「バイバーイ♪また明日ねー!」
そう言い、七海は変に陽気に帰っていった。
タクト「………じゃあ、いこっか。」
ユナ「う、うん。」
私たちは、共に歩き出した。
タクト「―――ごめんな、昨日は。俺、あの後全部思い出したんだよ。俺とユナは兄妹だったってこと。」
学校から徒歩5分ほどの小さな公園のブランコに腰掛け、私たちは話していた。
ユナ「……よかった。思い出せて。」
タクト「ユナちゃんが助けてくれたことも思い出した。」
ユナ「……最初は私が助けた訳じゃないの。嘘みたいな話なんだけど、実は――――」
ユナ「――って訳で……………」
タクト「そうだったんだ………俺、本当は死んでたんだ……不思議なことって本当にあるんだな…………………でも、その神様からユナへのバチも、俺が思い出すことによって完全になくなった。………これからは、ずっと一緒だね。」
ユナ「うん!」
タクト「やっと会えた、俺の妹。こんなに大きくなって~!」
タクトに髪をワシャワシャされる。
ユナ「ちょ、ちょっとーっ!」
そして、タクトは私をぎゅっと抱きしめる。
タクト「あのときの約束、ちゃんと守れたよ。『絶対会いに行く』って。」
ユナ「タクト―――いや、お兄ちゃん…………!」
私とタクトは、アイドルとファンから、兄と妹の関係になった。
こうして、私とタクトの不思議で運命的な物語は終わった。
〈一ヵ月後〉
「――ピーンポーン」
「はーい」
「ガチャ」
ユナの父「あーっ!どうもどうも、初めまして。ユナの父の増田俊広です。」
タクト「こんにちは。お会いするのは初めてですね!改めまして、馬場拓斗と、父の馬場|旬哉《しゅんや》です。」
タクトの父「初めまして、馬場旬哉です。今日は、お招きいただき、ありがとうございます。」
ユナの父「いえいえ!さあさっ、どうぞ中へ。ユナもいますよ。」
今日は、私の家で私と父とタクトとタクトのお父さんとのお食事会。
私は、お父さんが二人を迎え入れている間に、テーブルに食器と鍋をセッティングしていた。
タクト「―――ユナー!来たよー!」
ユナ「――あっ!タクト!」
タクトの父「君が結奈なのか!?大きくなったなー!父の馬場旬哉です。………って、覚えてないかー。」
ユナ「初めまして、増田結奈です。ずっとお会いしたいと思っていました!」
ユナの父「さあ、みんな席についてくださーい!今日は、すき焼きでーす!」
「おおー!!」
「―――それじゃあ、今後の馬場家、増田家の親交の深まりを願って、カンパーイ!」
私以外の三人はビールグラス、私は炭酸ジュースで乾杯した。
若者に絶大な人気を誇るPrince×2のエースであり、私の推しであり実兄でもあるタクト、
私の実父でもあるタクトのお父さん、
血は繋がっていないが、今までずっと私を男手一つで育ててくれたお父さん、
そして、普通の女子高生である私、
普通ではない組み合わせのお食事会になってしまったが、馬場家、増田家合同のお食事会は、大いに賑わった。
お誕生日席には、椅子の上に、私とタクトの母である青衣の遺影が飾られた。
その母の微笑んだ表情からは、私たちの楽しげに話しているようすを静かに見守っているかのように思えた。
fin.
『想いは、時を巡る。』無事、完結いたしました!
自分、本当に飽きっぽい性格なので、こうやって完結させることが出来て本当に感慨深い気持ちです。
目標は、『この小説に関するファンレター一つはもらうこと!』と思ってたんですが、結果は0。しかし、誰かしら読んでくれたと自分は信じる!
追記→…と思ったらこれ投稿した後にファンレター貰えました!ありがとうございます!
小説4つ掛け持ち状態は大変なので、サブ小説二つは投稿休んでましたが、やっぱ掛け持ちって大変ですね。てんやわんやで想時とウマ娘両方投稿遅れたりと支障を来してしまいました。本当にすみません。ここまで読んでくれた方、本当にありがとうございました!
最後におまけとして、自分が書きたいだけなんですが、Prince×2メンバーの身長と年齢載せときます。ちなみにPrince×2は現実世界で言うキンプリとすとぷりの中間くらいの存在です。
メンバーについて気になった方は、「『想いは、時を巡る。』~Introduction~」を見てみてください。見た目については、男の人の見た目を考えるのが苦手なので、ありません。想像にお任せします。
・宮本優人(25)
身長……178㎝
・馬場拓斗(21)
身長……176㎝
・佐野周(19)
身長……167㎝
・田代政樹(24)
身長……184㎝
・中川隆太郎(23)
身長……180㎝
・神藤奏希(22)
身長……177㎝
調べてみると、20代男性の平均身長は171.5㎝。
超高身長ハイスペックグループになっちゃった………