公開中
第二話 『王国監視拠点/研究所(仮)』
「閣下ぁ、お連れしました〜」
ノックもなしに開けられた扉。
眠そうにあくびをしながら入って来たのは騎士のような制服を来た、歳の頃十六〜十八くらいの美少女であった。
薔薇園を思わせる赤い髪をしなやかにツインテールでまとめ、瞳はラベンダーの紫。
貴夫人を思わせるその顔立ちから、身分が貴族であることは明確だった。
だが、問題はその態度。
貴族にあるまじき、弱々しくふらついて半目で猫背。
「ふぁ〜………、閣下、聞いてまふぅ?」
「聞いている、何だその態度」
「いやあぁ、職場に束縛を求めないでくたさいまふぇ。人員が逃げていひますよぉ」
閣下と呼ばれた男は、しかめっ面を改めて彼女のかたわらに跪く少年を一瞥すると、不意に笑顔になる。
「よーく来てくれた貴殿は今日から俺に代わってカッカカッカ呼ばれる不愉快な生活を送ることだな!頼んだぞ〜」
彼は、そのように日頃の愚痴なのだろうことをぼやきながらも、一歩も王座的な椅子から動こうとしない。
「そんなこと言ってないで仕事してくださいよぉ」
「お前が用があるって俺を引き留めたんだろ」
「はぁ…あ。そうでしたね」
自分で引き留めたくせに、もう寝たいと言わんばかりの顔で話を始める。
「この子、玲くん。連れて参りましたよ」
「お前アイツと一緒によくここまで来れたなぁ…!よくやった!」
「あ、え、は、はい?」
「ちょーっと!何勝手に話進めてんのバカ───ッ!」
しばらく経つと、男の頬は傷と血だらけになっていて、赤髪の少女は満足そうに笑みを浮かべている。
「水崎 玲くん、えーとね…君を、私が、というか正確には私じゃなくて別の研究者さんなんだけど、その人が君をこの世界に召喚したの。理由は…」
急に意味の分からない小説の中のようなことを言われても信じられないよ、と言いたそうな顔で玲は首を傾げる。
「もう少し分かりやすく説明しろ。全く、頭の悪い奴は見た目で騙して笑う奇人ばかりだ」
「死ねッ!レウア!!《深淵から出でし闇の王よ》」
「ごめんて、ごめんて…!」
厨二病のような独特な呪文を唱えて、掌に光の粒を渦巻かせる。
それを制止しようと、謝るレウアと呼ばれた男。
「レウア様!!ちょっと来てください!」
勢いよく開け放たれる扉。
「何だ」
「ヤーナが──」
「ダメっ、言わないで!何でもないです閣下、失礼します…あれ?」
ヤーナが玲と、赤髪の少女ルリィを見やる。
「あら?レイくん、こんにちは!」
「…え?」
ヤーナは当たり前のように玲に微笑みかける。
「お姉ちゃんって?うふふ、可愛いね。私も弟に会えて嬉しいよ」
また当然のように頬に人差し指を当てて、〝乙女〟というようなポーズをしてみせる。
そう、ヤーナという少女、玲の姉なのだ。
玲が小学一年生の頃にどこかへ失踪してしまい、それ以来見つかることもなく今年で死亡認定されると決められていた。
その姉が、今ここにいるのだ。
当時五年生だった彼女とは、多少容姿は違って大人びているのだが、面影は姉と全く同じ。
「さて、話が脱線、…妨げられてしまったけど、ヤーナ、水崎 |夜那《ヤナ》、水崎 玲は魔力量がね、その…。別世界に生きているのに、この世界の人々とは段違いの魔力を秘めている。それで、未来で死ぬ運命にある。それが、私たちが二人を召喚した理由」
玲が目覚めたこの場所は、世間には「魔術理論研究所」として認知されているが、実際には違う。
〝リーディアル王国《偵察・監視拠点⑴》〟
ルリィによればこの様な偵察拠点は他国にも何箇所かあり、【禁呪導結社】という、魔術を悪用し時には国をも滅ぼすと言われる悪の組織を観察する施設だ。
「ここ、リーディアル王国偵察拠点⑴は[学園監視班]と王国騎士団監視班]に分かれてるんだけど、ヤーナは王国騎士団監視班にまわってて、レイくんは[学園監視班]にまわってもらおうかな!」
「い、いや、無理ですよ…、僕、まだほぼ小学生のようなものですし…、魔術も何か分かってないし…」
「大丈夫、大丈夫!!……大丈夫、だよ…」
乏しい語彙力で自信がなくなる顔をして、ヤーナは天を仰ぐ。
「あ、ああ…」
ルリィも俯き加減に、呟く。
「でもね、事件が起こりやすい学校には強い者が行った方が…、良いんだよ。───分かってる。私は知ってるよ?事件が起こりやすいんじゃなくて起こるってこと…」
まるで誰かに言い訳するような言動で、ルリィはぶつぶつ言う。
「いいな、それ。そっち、弱い奴しかいないしな…」
「一応編入生は大丈夫だよ!学園長が、あの研究者の子のお母さんだし」
こうして玲の介入なしに話は進み────。
学園監視班の無理矢理所属が決まった。
──────・・・
レーネァ王立魔導学園。
国内屈指の魔導士 × 魔剣士育成学校で、過去に何回か有力魔導士、魔剣士を輩出している。
伝説の魔女ネウナも、学生時代はこの学園に通ったとか。
宮廷魔剣士・魔導士団は必ずレーネァ王立魔導学園に通うし、一般科は魔導士の素質が無くても通える。
《【偵察進捗書・著者〔ミア・リヅヤービア〕】
❶
三月八日.宮廷騎士団・魔剣士団には怪しい動き無し。
魔導学園に過度の魔力反応あり。
六月二十九日.宮廷魔剣士団が女王毒殺未遂の犯人ヤーデスを確保。
学園に怪しい動き無し。前に起きた過度な魔力反応の原因は学園長の気まぐれ。
六月三十日.宮廷騎士・魔剣士団に怪しい動き無し。
学園(上記と同じく)。
~~~(以下略)~~~