公開中
1. 信頼
明朝体で読むのがおすすめです。
なんかそっちの方がぽいんで(
ああ、今日も無理だったな。
私は、早く元通りの存在になりたいだけなのに。
ただ、彼らを守りたいだけなのに。
どうして信じてくれないんだろう。
私なら治癒も使えるし、子供たちの遊び相手にもなれる。お仕事の手伝いだって、少しはできるのに。
「はあ……。」
森で一人、ため息をついていたときだった。
ざく、ざく、と。
何者かの足音が聞こえ、思わず身構える。
一応を兼ね、少し飛んで、高めの木の枝に座っておく。
そして、数秒が経つ。
木陰から現れたのは……黒のローブを羽織った誰か。
肌が見えるのは口元だけで、薄い笑みが浮かべられているのが確認できた。
笑みは悪巧みをしているようなものではなく、それどころか、どこか落ち着く雰囲気を放っている。
(この雰囲気は知らない人だわ。少なくともこの辺りの人ではないわね……。天使ハンターかしら? それとも悪魔? にしては、ツノらしき|尖《とがり》が見当たらない……。どちらかだったら相当まずいのだけれど。でも笑い方的に、害は与えてこなさそう……?)
ぐるくると考えていると、彼──性別はまだ分からないけど──は、木の影に紛れている私を見た。
「!」
(見つかった……。)
今のところ攻撃はされていないけれど、いざとなったらすぐ逃げられるよう、垂れ下げていた足を枝に乗せる。
《《その時》》は、唐突だった。
「初めまして、君が最初のお客さんかい?」
──最初は何を言っているのか、意味がわからなかった。
呆気に取られつつも、返事をする。
「は、初めまして……。お客さん……? 貴方、誰……?」
開口一番にこんなことを言われたら、誰だってびっくりするだろう。
大抵の人間は、《《あの事件》》を境に、私を見ると怯えた顔で逃げ出してしまうのに。
この人は違うの?
「僕の名前……そうだな、レイスとでも呼んでおくれ。」
レイス。
どういう意味なのだろう。
「私……。|白皙《はくせき》|霙《みぞれ》……。えっと……レイスさんは、どうしてここに……?」
レイスのような人を、この辺りでは見たことない。
つまり地元の人ではないということ。
ならば、どうしてこんなところにいるのだろう。
「過去に囚われた者たちの|悩みを解決させる《鎖を解く》。それが、僕の使命。僕はその使命に従ったんだ。そうしたら、ここにたどり着いたんだよ。」
一度喋っただけなのに、情報量が多い。……なんだか、ミステリアスな人だ。
でも、一番気になったのは……。
「悩み……?」
『悩み』という言葉。
「そう。過去に関した悩みを話してくれたら、僕がそれを解決する。」
「……!」
こんな嘘をついて、レイスにメリットなんてない……はず。
だから、嘘では無いのだろう。……そう願いたい。
悩みを打ち明けた方が楽になれるよと、遠回しに言っているようだ。
少し自信ありげな言い方と、落ち着いた笑み。
(この人になら。)
(言っても、いいかもしれないわね。)
そう思った自分に、少し驚く。
どうしてそう思えたのか。理由は、私にもわからない。
(……勇気を出して、霙。言ってみましょう。少しは楽になれるかもしれないわ。)
「そうね……。」
木から飛び降り、ぽつりと呟いてから考える。
私の悩み。過去。
どこから話す? どんな風に話す?
考えている内に、自然と口がこう言っていた。
「信じてほしいのに、信じてもらえない……。」
「……ほう。」
レイスは、面白そうに微笑み、私の話に耳を傾ける。
私は天使。神に仕えている。
|この種族《天使》の仕事は、神と人間の仲を受け持ち、人間を守護すること。
だから私は、ここの近くにある二つの村を古くから守っていた。
貧しい人には食べ物や服を恵んで、けがや病気の人には天使の力で治癒をして。
村民の相談に何度ものって、アドバイスもしたわ。子供たちと走り回ったり、お絵描きをして遊んだりもした。
私だって永遠に守れるわけじゃないから、みんなが|私《天使》の力がなくても過ごせるように工夫していったの。
お互いの信用は深まって、もはや私も村の一員と言っても過言ではなかったわ。
綺麗に、素敵になっていく村や、楽しそうに野原を駆けはしゃぐ子供。それを和ましそうに眺め談笑する保護者たちを見て、人間のことも村のことも、もっともっと大好きになっていった。
だけど。
あの事件を境に、それは全て過去のものとなったの。
その事件を、人々は確かこう呼んでいたわ。
──天使の裏切り、と。
始まりは、とある天使が、守護にあたっていた村の生物を虐殺したこと。
子供、ペット、虫ですら、関係なく皆殺しにしたって聞いたわ。
そして、あまりにもむごい殺し方だった、とも。
溺死、焼死、狂死、生き埋め、凍死……。
聞くだけでゾッとするわ……。
『天使の裏切り』をきっかけに、人間からの信用はなくなってしまった。
村には入れてもらえず、話をしようと思っても聞いてもらえなかった。
私はそれでも諦めずに、村に通い続けたわ。
いつか、信じ直してくれることを信じて。
でも……今はもうだめ。見られると怯えた顔で逃げられてしまう。
もっとひどい人には罵詈雑言を放られるようになった。石を投げられたりもしたわ。
その時には、心はぽっきりと折れたのを感じた。ああ、もう無理なんだって。
その後のことは、ショックのせいかあまり覚えていないの。
だけど、血が垂れてきたはずの頬より、胸のほうが痛かったこと、気がつくとこの森に来ていたこと。この二つは覚えてるわ。
「……要約すると」一通り私が喋った後、レイスが言って続ける。「信頼が欲しい、ってとこかな。」
「そう、なのかしら。」
「その後、村には言ってみたのかい?」
遠慮がちに、でもハッキリと、レイスは言う。
「いいえ、また石を投げられたらと思うと……。」
「そうか。思い出させてしまってすまない。」
レイスは、軽く頭を下げて謝る。
「大丈夫よ、結局話したのは私だもの……。それで、貴方……『僕がそれを解決する』って言ってたわよね……?」
「ああ。……君は……白皙君は、その村民達とどうなりたいんだい? どのように解決して欲しいとか、希望はあるかな? 最低限叶えるよ。」
解決方法。希望。
それは──
ぐっと拳を握る。
そして、
「…………私が、〝天使の裏切り〟のような天使じゃないって、わかってもらいたい。私は人間が大好きだって、伝えたい!諦めたくない!!」
|願いを言う《想いを叫ぶ》。
すると。
レイスは、ニッコリと笑い──
「わかった。」
──誇らしげに、頷いた。
仮完成 1/30
修正 2/27
修正・投稿 5/24
次はいつあげれるでしょう…。