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黒縁メガネのあなた
2026/02/18 黒縁メガネのあなた
それでも私みゆちゃんが好きよ。
みゆちゃんと初めて会ったのは中1だった。中学の入学式が終わった時にみゆちゃんの方から私に話しかけてきたのだ。初めてかけられた言葉を、私はもう覚えていない。私がその春にみゆちゃんと交わした会話で唯一覚えている内容は、みゆちゃんの視力が0.1もないということだけだ。だからみゆちゃんは、分厚い黒縁メガネをかけていた。
みゆちゃんと私は、いわゆるスクールカーストでいうと、少なくとも上位ではなかった。いつも2人だったし、身内ノリみたいなものしか持ってなかった。私は身内ノリをしながら、自分今イタいな、と思っていた。けれどみゆちゃんは楽しそうだから言えなくて、恥ずかしくない程度に合わせていた。もしかしたらみゆちゃんも、私と同じようなことを考えていたのかもしれないな。
中1の10月。私が風邪で数日学校を休んでいる間に、みゆちゃんと私の関係性は少し変わった。みゆちゃんは、私が事務的なこと以外で話したことのない子と少し仲良くなっていた。その分、私との距離は少し離れた。このままだったらみゆちゃんがどんどん離れていってしまう。そう直感して、でも引き留めるのは気恥ずかしくてダサい。私は何もしなかった。みゆちゃんは案の定、あっさりその子の方に行った。
中1が終わる頃にはみゆちゃんの黒縁メガネは無くなっていた。肌の色もちょっと白くなっていた。前髪の横の部分に、触角というものができていた。全体的に顔が少し華やかになっていた。
みゆちゃんと私は、もう友達じゃなかった。だって、私と目が合っても、みゆちゃんはにこりともせず何かを言うこともなく、すぐに逸らす。コンタクトが入った瞳は、メガネの時より濁ってる。逸らした後、みゆちゃんはたいてい、教室の真ん中で弾けるような笑い声を上げる。あの頃の潜めるような笑い声とは、全然違う。耳がキーンとなるような声。
それでも私はみゆちゃんが好きだ。
みゆちゃんは、決して完璧な人間ではなかった。気持ちが盛り上がったら声が大きくなって抑えるのが大変だし、みんなの前で発表する時は俯いてボソボソ話すようになるし、深爪しがちだし、私のお弁当のおかずを勝手にひとつ取っていくし、学校配布のタブレットで夢小説を書いたりしている。
だけどみゆちゃんは、ちゃんと「ありがとう」と口にするし、よく笑う。
私は、自分から懇願するのは絶対に嫌だけど、みゆちゃんとまた友達になりたいと思っている。
いつかみゆちゃんがなんらかの理由で孤立しても、私だけはすぐあなたの元に行く。言う。「それでも私、みゆちゃんが好きよ。」
もしそうなったら、みゆちゃんは前みたいに、分厚い黒縁メガネにしてね。