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2.秘密と呪文
--- ♢ No side ♢ ---
「冗談さておき、晩御飯どうしようか?」
「そうですね‥事務所の冷蔵庫に何か残ってましたっけ?」
「残ってなかったと思うな‥最後買い出しに行ったの二週間前とかだから。」
「じゃあ今日何か食べて帰って、冷蔵庫に残ってたらまた明日食べましょうか。」
「そだね〜!」
歩幅の違う足音がコツコツと路地に響く。
その後ろに二人とは違う三つ目の足音がなっている事に、二人は気づいているのだろうか。
「何がいいかな〜‥麺、米、パン‥いや、パンはないか。だったら麺か米なんだけど‥シェリアさんはどちらがいいですか?」
「僕はどっちでも構わないんだけど‥君は何が食べたい?《《レルヴィ》》。」
シェリアが後ろを振り向くと後ろを歩く足音が止まり、月明かりがほんのりその正体を照らしていった。
「‥」
そこにいたのは目が真っ黒で白髪の少女だった。
「えぇ!?レルヴィさんいたんですか!?」
「アレルくん失礼だよ(笑」
「‥貴方達が、事務所へ帰るところあたりから後ろにいた。」
「え”」
アレルが驚いた顔をして青ざめていく。シェリアはその様子を見て笑っているが、思い出したかのように話し始める。
「僕は気づいてたけどね〜!足音は静かだったからあんま聞こえなかったけど、やっぱり気配があったからね!」
「‥私に気づかない、アレルが普通だから、安心して。」
「よ、よかったです‥?」
「で、レルヴィは夜ご飯何がいい?」
話の切り替えが雑なシェリア。いつもの事なので誰もそれを指摘しない。
「‥私は、ラーメンがいい。」
「ラーメンですか?結構重いの選んできますね‥明日顔浮腫まないかな‥」
「‥どんなでも、アレルは可愛い。」
「え、本当ですか?嬉しいです!!」
さっきの落ち込んだ顔から嬉しいと顔全体に書いているような表情となった。彼女は感情がわかりやすい。
「‥私、味噌ラーメン。」
「じゃあ私は‥醤油ラーメンで!」
「なら僕は塩ラーメン‥って、これもしかして僕が払う流れなの!?奢り!?」
「‥貴方が、一番年上。」
「私、いつも紅茶入れてあげてます。」
「‥しょうがないな奢ってあげるよ!!」
「やったー!」
「‥あそこ、美味しい店、だよ。」
「本当?じゃああそこにしようか。」
「‥あ、」
「?どうかしましたかレルヴィさん?」
「‥私、お店行けない。」
「どうして‥って、あぁ!」
何かに気付き納得した様子だ。
「そうだったね‥外食は無理だった‥じゃあ、持ち帰りで頼もうか。」
「‥ごめん。」
「気にしないでください!シェリアさんの奢りなので!」
「僕のお財布事情は気にして欲しいけどね(泣」
「‥帰ったら、何か作ってあげる。」
「レルヴィさんの手料理ですか!?凄く楽しみです!私レルヴィさんのオムライスが大好きなんです!」
「‥卵、あるの?」
「ん〜‥多分あると思うけど、人数分あるかな?って問題がある。」
「なかったらジャン負けが買い出しで!」
「ねぇ待って僕また負けるんだけどそれ!!」
冷蔵庫に何があったか、あれはまだ残っていたのか話しながら彼らは事務所へと歩いて行った。
♢
--- ♢ Shelia side ♢ ---
「もう0時‥すっかり夜中だ。」
壁にかけられた時計を見ながらそう呟く。出て行ったのは確か10時くらいだから二時間ほどあっちの方にいた事になる。テンポよく進めたはずなんだけど、やっぱり少し手間取っちゃったな。
「‥皆、もう寝てる。」
「そりゃ0時ですから。いい子は寝てる時間だよ〜!」
「夜ご飯食べたらお風呂入って私達も寝ましょうか。ささ、ご飯食べましょ!」
レルヴィがキッチンへと姿を消し、冷蔵庫を開ける音がしたすぐ後の話だ。
「‥卵、ないよ。」
「え?」
アレルくんが凄い速さでレルヴィを見ていた。振り返るの早すぎて面白い。そんなにオムライス食べたかったんだ。
「‥買いに、行く?」
「‥‥‥いえ、大丈夫です。」
アレルくんは凄く悔しそうな顔をしてそう言った。今度オムライスの材料を揃えといてあげようと思う。流石になんか申し訳ない。
「僕は夜ご飯抜こっかな。明日の朝ごはんしっかり食べることにするよ!」
「‥大丈、夫?」
「ん?大丈夫に決まってるじゃないか!少し疲れてるようでね‥早めに寝たいんだ。」
「‥分かりました、おやすみなさい。」
「うん、おやすみ。」
リビングの扉を開けて自室への廊下を歩く。皆を起こさないように足音を立てず、静かに。
ふわりふわりと上着が舞う。その姿はまるで水中を泳ぐ海月のよう。シャラリシャラリと音を立てるピアスは鈴の音だ。
自室の扉をゆっくりと開けて中へ入る。上着を上着掛けへと掛け、ベットの上に座り込む。ギシリと骨組みの軋む音が聞こえた。
手鏡を手に持ち、見つめる。そこに映るのは虚ろな目をした僕だけ。何度覗き込んでもその先の世界は見えなかった。
「‥ 特待能力 𝒯𝒽ℯ 𝒹ℯ𝒶𝒹 𝓁𝒶𝓊𝑔𝒽 。」
そう唱えれば光り輝き、別世界を映し出す鏡。
その世界は此方とは違い、暗い花園が広がっている。中に入ればもっと見れるのだろうけど、ヴィスでもない普通の人間が入って簡単に出られる場所ではない。
ヴィスを彼方の世界へ連れ込む呪文を唱えてから時間が経ってもヴィスの姿を認識できなかった鏡は輝きを失い、普通の鏡へと戻った。そして気の抜けた僕の顔が映る。
目覚めた時に鏡と共に握っていた手紙に書かれていた呪文。謎の言語で書かれていたそれを僕は何故かスラスラと読めた。きっと過去の記憶が関係してるのだろう。
「‥はぁ」
力を抜いて後ろに倒れる。真っ白な天井を見つめ、襲ってくる睡魔に抵抗せずに瞼を閉じた。
【行き過ぎた愛は世界を壊す‥ならばいっそ、世界を壊してしまうほどの愛を貴方に___】
--- 【 𝒹𝒾𝓈𝓉ℴ𝓇𝓉ℯ𝒹 】 ---
意識が完全に落ちる前にいつも聞こえる呪文。
頬を撫でられるような感覚を感じながら、僕は意識を闇の中へと落とした。