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青春のスピネル
好き…嫌い…好き…嫌い……。
あたしはヒナ。小学2年のオトメ。
今あたしには、想い人がいるの…。
思い出すだけで、ドキドキしちゃうなぁ…。
好き…嫌い…。
「あっ。」
その辺に生えていたコスモスをちぎって占っていると、残りのかべんの枚数が2枚になった。
このままいくと、嫌いになっちゃう…。
「…そうだっ。」
あたしは2枚のかべんをつかんで、同時にちぎった。
よかった、これで好きになったぁ…。
「てちがーう!!」
ちがうわっ、こんなのじゃない!
あたしの思いはこんなのじゃとどかないわ!
「いきなり叫んでどうしたよ、ヒナ。」
おじいちゃんの声にも目をくれず、あたしはそのままばっと外に出た。
「ゆうべには帰るんじゃよー!」
太陽さんさんの暑い日差しに負けるぐらい、あたしの思いは弱くないんだから…!
「今日も暑いですなー。」
おかぁに散々言われた課題をやっと半分まで進めたところ、俺は少し一息ついているところだった。
セミの鳴く声は相変わらずうるさいし、日差しは馬鹿みたいに暑いしで、夏は嫌いだ。
あ、でも夏休みがある点で言うと…やっぱ好きかもしれない。
ソーダを飲もうと冷蔵庫に行ったが、ソーダは一本も入っていなかった。
「ありゃりゃ…。」
すっからかんで寂しくなった中をのぞいて、俺は駄菓子屋に行くことにした。
財布の中は結構ピンチだけど、一応一本分はギリ買えるので大丈夫。
ソーダは俺の生命線といっても過言ではないのでこれはしょうがない。…しょうがないのだ。
外に出て、俺は駄菓子屋の方に一直線に向かった。暑いとかうるさいとか知らねぇ。
ソーダがうまい季節にゃ変わりねぇ…!!
コンクリートの地面の隙間に生えたたくましい雑草を容赦なく踏み潰し、俺はどかどかと向かう。
すると向こうの木の下に、何か話をしている子供を見た。
アキくんと女の子だ。
俺はたまたま通りかかったもんで、思わず声をかけた。
「やぁ。」
「あっ、トウヤのアニキ!久しぶりー!」
「親戚だけどねー。」
アキは嬉しそうに答えてくれた。
隣の女の子はきょとんとしている。
「ヒナは知らなかったっけ。この人トウヤのシンセキなんだよ。」
アキは女の子…ヒナちゃんに俺のことを教えると、ヒナちゃんは口を開いた。
「あ、えと…初めまして、ヒナです…。」
「おー、初めまして。」
ヒナちゃんは照れ臭そうに答えた。可愛らしい女の子だ。
「それじゃ俺は用事があるんで!またね。」
「はーい!」
アキくんの相変わらずの元気な返事を聞いて、俺は少しほっとした。
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「一本くださーい!」
俺は駄菓子屋でソーダを無事買うことができた。
青く透き通った瓶。まるで宝石の様な炭酸の泡…!俺はこの一杯のためだけに生きているといっても過言ではない…!!
「いつもありがとうねぇ。」
「いやぁ。好きで買ってるんでね〜。」
駄菓子屋のおばちゃんはゆったりした声で話しかけてきた。するとまた、おばちゃんは何かを話してくれた。
「最近思い出したことがあるんじゃが、聞いてくれんかの。」
「いいよ?てか面白そー。」
思い出した話か。
おばちゃんの話はどれもザ不思議という感じで、聞いてて飽きないから好きだ。
おばちゃんは続けて話す。
「えっとねぇ、わしの友達の話なんだけどね。もう70年前にもなる話だからねぇ。」
おばちゃんは続けて話す。
「なんだっけね、確か…"ナツキ"って言う子がいてね。男の子だったんだけどね。みんなその子のことを"ナツ"って言ってたんだけどね。」
「おばちゃーん。その話前にも聞いた気がするー。」
確か夏休みに入ってすぐの事だ。
俺がナツって言う男の子がうちのトウヤの友達になったと言った時、こんな話をしていた。
…気がする。
「覚えとるよ、でもね、ちょっと違う話なのよ。」
「ちょっと違う?」
おばちゃんは続けて話す。
「その子はね、釣りが大好きで、いつも川辺に行っては魚を獲って、家に持ち帰って食べてたんだよ…____。」
ある日、都会から村に疎開に来た人たちがいてね…。その中で気が弱い男の子がいたのよ。食べ物をもらっても、親の人に取られて、ほとんど弟さんのものにされて、こぼれかすみたいなものしか食べれなかったから、どんどん痩せ細っちゃったの。
わしとナツはその子を見かけて何か食べさせようってなってね、わしは野菜を、ナツは魚をその子にあげたのよ。
するとその子は途端に泣き出しちゃって。しかも声をあげて泣くもんだから、わしとナツがいくらなだめてもなかなか泣き止んでくれなかったのよ。
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「その子は今のわしの夫よ。駄菓子屋を始めたのも夫の思いつきよ。」
「えぇーっ!?まじかよー!」
おばちゃん夫さんいたのかよー!
いつもおばちゃん1人で店番してたから、独り身かと勝手に思っていた…。
いや、失礼だな俺。
「最近じゃ体調を崩しちゃってね。今はわしの実家で過ごしてるよ。電話したら畑仕事に精を出してくれているって嬉しそうにお父様が言うのよ。」
でも、自分が助けた人に結ばれるって、なかなか素敵なロマンスだよなぁ。
俺も、こういうこと起きねえかなー…。
「老人の戯言に耳を向けてくれてありがとうね。」
「あっ、失礼しまーす。」
おばちゃんの話を聞き終えて、俺は外に出る。
真っ青な空は澄んでいて、下の方には真っ白な入道雲がどっしりたまっている。
俺はソーダのキャップを開けて、勢いよくぐびぐび飲んだ。
「ぷはーっ!やっぱこれよー!」
---
「アキくん、好きな子とかいないのー?」
「えぇっ、んーと…。」
オレは今、ヒナからのすっげー質問ゼメにあっている。好きな食べ物とか、夏休みの宿題のこととか…。
とりあえず正直に答えてるけど、今の質問はちょーっと困ってる…。
好きな子…かぁ…?オレはもちろんトウヤだけど…いつも遊んでるし、仲良いし、幼なじみだし。
でも、ゲシも気が合うから好きだ。ゲシはオレより年上で、たよれるって感じで好きだ。
あーでも、ナツも好きだなぁ。夏の間しか会えないのが寂しいけど…いや、もう会えなくなっちゃうのかな…?
…そんなことないよな。何考えてるんだろオレ。
「ねぇー。どうなの?」
「いるよー。3人いる。」
「…えっ、3人も?誰よそいつら。」
いきなりヒナのギョウソウが変わった。
オレは思わずおぉと声に出てしまった。
「トウヤと、ゲシと、ナツだよ!どいつも大切な友だち!」
「…いや!そう言うのじゃなくて!…こう…ほら、…恋愛的に…?」
ヒナはやや顔を赤らめていた。
オレは正直に答えることにした。
「それじゃあ…いないかなー。」
「ずこっ。」
ヒナは何かずっこけたように顔をふせた。
「大丈夫?熱中症?」
オレはヒナの顔をじっと見つめた。ヒナの顔はすげー真っ赤になってる。
「ちょっとごめんな。」
オレはヒナのデコに手を少し乗せた。モウショのせいか、すっげー熱い。
「えっ…えっ…!?」
「熱あるじゃねーか!早く家帰れ!…帰れるか…?」
熱中症はあまくみてはいけない。去年、なかなかに死にかけたしな…。
オレはヒナを支えて、ヒナの家のところまで行くことにした。
「アキくんっ…えと、ありがと…。」
「?別にいいよー。しっかり休んでー。」
オレはヒナを家に届けて、やっぱ暑いので家にそのまま帰ることにした。
そういや、ゲシが昨日からうちに帰ってきてない。…大丈夫かなー…。
「ナツ、そのまま帰してもよかったの?思い出すヒントとかあげるために呼び寄せたんでしょ?」
紫色に輝く灯籠が、村の夜を照らす景色をバックに、妻がわしに問う。
「いいんじゃ。アイツは自分の力で目的を思い出そうとしとる。…それに、邪魔するとここに入れなくなるかもしれんしな。」
「それもそうですね…。」
外で子供が剣道をして遊んでる。
「それはそうとじゃ、この村の中にナツに化けて外に出たやつがいるらしいのぅ。」
「…タローのことですか。」
タローは、村一番のいたずらっ子で、よく誰かに化けて、外にいたずらをする問題児だ。
「タローはここにいるよー!」
でもナツを一番に見つけたのもナツメだし、なかなかに憎めないヤツでもある。
「話は聞いていますよ。…子供が集まるところでわざと捕まえたアジを落として、ナツくんの姿で拾い上げたのでしょう?」
「そーだよ!でもねー、ナツのことしらないこには、タカにみえるようにしたんだ。かしこいでしょ。」
ナツメは自信満々に答える。
「いたずらしてる時点で賢くないですよ!」
「えーっ、ひっどーい。」
タローはぎゃーとわめいて、すぐさまどこかに遊びに行った。
「全く…この子のいたずら好きはいつ治るやら…」
「まぁまぁ。きっと昔には辛い思いをしてきたんだろうし、ほっとこうぞ。」
「父さんは甘すぎですよ。」