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#08
--- 卒業式当日 ---
体育館で卒業証書を受け取った後、校庭でクラスの集合写真を撮った。
クラスメイトや先生と別れの挨拶を交わし、琥珀は少し寂しい気持ちになっていた。
「おーい、琥珀!」
いつものように、弾んだ声で簓が駆け寄ってくる。
「卒業、おめでとう!」
「簓も、おめでとう」
二人は顔を見合わせ、幸せそうに笑う。
「なぁ、琥珀。この後、俺ん家こーへん?」
「え、いいの?」
「うん。うちのおかんも琥珀に会いたがっててな。卒業祝いにって、晩御飯作ってくれるらしいねん」
「そ、そっか……」
琥珀は少し緊張しながら頷く。簓のお母さん、どんな人だろう。緊張と期待が入り混じった複雑な気持ちだった。
--- 夕方 ---
簓の家に向かう道中、簓は楽しそうに今日の出来事を琥珀に話していた。
「今日さ、先生が、俺がクラスで一番うるさかったって言ってたんやで。あはは、ほんま、最高の卒業式やったわ」
「ふふ、簓らしいね」
そんな簓の姿に、琥珀の緊張も少しずつ和らいでいく。
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簓の家に着くと、玄関の扉が開いた。
「ただいまー!」
簓が元気に声をかけると、奥から温かそうな声が聞こえてきた。
「おかえりー!お、琥珀ちゃんやな?いらっしゃい!」
にこやかな笑顔で出迎えてくれたのは、簓の面影がある、可愛らしいお母さんだった。
「初めまして、簓の母です」
「初めまして、琥珀です。いつも簓がお世話になってます」
「あらあら、そんな畏まらんでもええんよ簓からいつも琥珀ちゃん、琥珀ちゃんって聞かされてたから、もう家族みたいなもんやわ!」
簓のお母さんは、琥珀の手を握り、にこにこと笑う。その明るく気さくな人柄に、琥珀はほっと胸を撫で下ろした
リビングに通されると、テーブルには美味しそうな料理がずらりと並んでいた。
「わあ、すごい……!」
「あら、大したことないわよ。さ、どうぞ座って座って!」
簓のお母さんに促され、琥珀は簓の隣に座った。
「うちの簓と仲良くしてくれて、ほんまにありがとうね」
簓のお母さんが琥珀にそう言うと、簓は少し照れくさそうに笑う。
「おかん、なに言うてんねん」
「あら、ええやないの!琥珀ちゃん、簓のこと、よろしくね」
「はい!」
琥珀が元気よく返事をすると、簓のお母さんは嬉しそうに笑った。
食事が始まると、簓は琥珀に気遣いながら、色々なお皿を取り分けてくれた。
「琥珀、これ美味しいで。食べや」
「ありがとう」
簓のお母さんも、二人の仲睦まじい様子を見て、ニコニコと微笑んでいる。
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食事が終わると、簓のお母さんは「二人でゆっくり話しなさい」と、気を利かせてくれた。
「おかん、ほんまありがとうな」
「どういたしまして。琥珀ちゃん、またいつでも遊びに来てね」
「はい!」
簓のお母さんが部屋を出ていくと、リビングには二人きりになった。
「なぁ、琥珀。楽しかった?」
「うん、楽しかった。お母さん、すごく優しい人だね」
「せやろ?俺のおかん、最高やねん」
簓は誇らしげに笑う。
「ねぇ、簓」
「ん?」
「改めて、卒業、おめでとう」
琥珀はそう言って、簓の頬にキスをした。
「……おう。ありがとう」
簓は少し照れたような、けれど優しい笑顔で、琥珀をぎゅっと抱きしめる。
「これからも、ずっと一緒やで」
「うん!」
卒業という一つの区切りを終え、二人の新しい未来が、今、始まろうとしていた。
終