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鉄路行き行きて。(五話 帝国装甲列車部隊の天王山)
実在した歴史、兵器の類を基にしていますが、実際にあったものではございません。また、専門用語が多数使われています。できる限り解説は致しますが、ご了承ください。
「五時の方向!!距離、三千五百二十一!!目標、高速接近中の敵輸送トラック!!」
長坂上等兵の読み上げた方向に砲を向ける。
「榴弾装填!!」
「榴弾ヨーイ!!」
田代軍曹が開けた砲尾に榴弾を押し込む。
「照準良し!!」
照準器の中から見えたのは、歩兵を詰め込んで突っ込んでくるトラック。
「てー!!」
引き金を引いた。射撃の反動により体の芯から揺れる。空気を切り裂く音と共に向かってくる砲弾を見た兵士はそれに恐怖し、気付いた者も気付かぬ者も吹っ飛ばす。そこに慈悲など存在せず。近づけば強力な火砲が、そこからより近づけば機銃によって蜂の巣にされ、逃げればまた砲が火を吹き、敵は逃げ場など与えてくれぬ地獄にいた。だが、異変とも言うべき事態が起きる。
「不味いぞ!!」
島田軍曹が何かを察し、空を見た。
ウゥゥン・・・・
やや高い水冷の静かな音。敵機だ!!それも、この前来た単発機と同じ機種!!
『敵機、三時の方向、距離八千二百!!速度三百キロで接近!!直ちに対空射撃可能な砲は、射撃を開始せよ!!機関出力最大!!回避運動の為に増速する!!』
警戒車の方からも見えたようで、直ちに指令が下った。そしてダメ元で増速による退避を行う。まさか対地支援で呼ばれたか?!
「こっちは対地射撃を行う!!目標は?!」
未だ冷静を保ち、こっちの任務を全うする島田軍曹に、皆火が点いた。
「目標、五時の方向、距離二千五百十三!!敵重戦車!!」
「徹甲弾装填!!」
NHKのアナウンサーより早口で目標を言い終える長坂上等兵よりも目標を目標を聞きつけて装填した田代軍曹が言い終わるよりも早く装填を完了させる。俺は俺の任務を全うしよう。照準をすぐさま合わせた。だがそこにいたのは、重戦車ではなく固定戦闘室を有していると思われる自走砲。しかもそいつは見たところこっちよりも五十ミリほどでかい砲を有している。コイツは、本物の怪物だ。間違いなく敵の射程外で倒さなくては。
「照準良し!!」
「てー!!」
引き金を引く。照準はやや上面!!直接射撃だ。当たる。
当たった。だが、そいつは無傷である。俺は戦慄した。コイツは間違いなく化け物だ。そして、こいつらは黄砂の中から出てきては次々と突進してくる、亡霊軍団を相手にしているような気分であった。
「当たりましたが、跳ね返されました!!」
「何?!」
「オイ、上!!上!!」
田代軍曹が上を指差した。そこには既に距離を詰めてきた敵機編隊三機。そして当たらぬ対空砲弾。
「次弾、榴弾!!射撃ヨーイ!!」
島田少尉が静かにそう言うと
「榴弾?!」
田代軍曹の動きが止まる。
「やれ!!佐竹、敵機に向てて射撃開始!!測距の連中は無視しろ!!」
時限信管じゃなくって触発信管の榴弾で?!そんな事訓練でもやったことないぞ。だが、やるしかあるまい。爆弾をもろに食らえば、一両は死ぬ。時間的に射撃は一度きり。
「装填良し!!」
仰角五十度。矢の字に並ぶ敵機の右翼の機体を狙う。
「照準良し!!」
「てー!!」
撃った。後は祈るのみ。その一瞬の時、今までにない緊張が走った。
白い閃光はわずかにそれていった。だが、この時奇跡がおこる。火砲車丙の連中が一機に火を吹かせ、編隊が崩れたのだ。
「・・・・次弾榴弾!!目標、敵機!!」
島田少尉が口走ると
「了解・・・!!」
無言の空間に銃砲の音と砲栓を閉める無機質な音が響き渡った。
「照準良し!!」
速度三百五十、距離千八百、仰角いっぱい。俺は必中の確信を持って引き金を引いた。
「てー!!」
当たれ・・・・・・・・。
当った。確かに。主翼を吹き飛ばし、火を吹いて真っ逆さまであった。
「や、やった・・・・・!!」
長坂上等兵が安堵したその時である。それは、爆発音と共に瀬戸物を入れた棚をひっくり返したような音であった。その音と共に地震の様に列車全体が揺れ、物に掴まらねば自らの態勢を維持できないほどであった。
・・・・・・・・・・・・何だ?!
『こちら・・・六号車、時雨桜花中尉・・・・。第六号車・・・・大破・・・・・機関車は破損・・・・・乗員壊滅・・・・・。救援求む・・・・・。』
その後、ズリズリとゆっくり倒れていく音がした。
『第六号車被弾!!直ちに応急処理班迎え!!繰り返す、第六号車被弾!!』
「クソ、やられたか!!」
「しかも機関車、動力源狙ってきましたね。」
これで、この列車は動けぬ的と化した。被害は続く。
鉄板に砲弾の撃ちつける甲高い音と共に紅い何かが見えた。
・・・・・・何が起きたのだろうか。戻りゆく感覚から横たわっているのが分かった。俺は唸りながら周囲を確認するために手を振り回しすと、
「でぇ・・!!」
誰かに当たったらしい。
「畜生・・・・・、点呼・・・・」
意識を取り戻した島田少尉が何か言っている。目を開けるとそこには黒煙が漂い、紅いドロドロの何かが広がっていた。その先は
「島田少尉!!」
島田少尉であった。
「腹に一発食った。動脈だな・・・こりゃあ・・・・」
「長坂、衛生兵呼べ!!」
田代軍曹が目を覚ましたようだ。
「田代、いい。もう・・・。・・・皆、何処かで会おう。」
その時、フッと息絶えたのが分かった。
「クソ・・・・・。」
崩壊は、始まれば留まるところを知らない。