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ぼくのともだち
本小説にはホラーな展開が含まれています。
苦手な方も見ましょう。克服のチャンスです。
また、大部分がひらがな表記であり、読みにくいかと思いますが、それでもよろしいという方は、どうぞお楽しみくださいませ。
【ぼくのともだち】
2年3組 |飯嶋《いいじま》 |晴生《はるお》
ぼくには、おかあさんがいます。
いつもいそがしくて、
あまりかまってくれないけど、
それでもおりょうりはとっても上手だし、
テストでいい点をとると、
頭をなでてくれます。
いいおかあさんです。
おとうさんはいません。
理ゆうはわかりません。
ただ、おかあさんにおとうさんのことを聞くと
おかあさんが泣いてしまうから、
気にしないようにしています。
おかあさんは、しごとがとてもいそがしくて
あまり家にかえってきません。
だからぼくは、朝おきてからねるまでで、
おかあさんに会えることはほとんどないです。
でも、さみしくないです。
それは、ぼくに友だちがいるからです。
とってもいい子で、いつでもぼくの味方です。
でも、なんだかふしぎな子で、
へやの電気をけしてからじゃないと、
お話できません。
お外がまっくらになって、カーテンをしめて、
へやのなかが見えなくなったときに、
くらやみから
「おーい、おーい。」
と声がします。
さいしょはぶきみで、こわかったけど、
ずっとそばにいて、
ぼくがさみしくて泣いたときは、
「だいじょうぶ、だいじょうぶ、ぼくがいる。
さみさしくないよ。」
そういって、ひっしにはげましてくれました。
ぼくはその子と友だちになりました。
それからしばらくしたあと、
ぼくがその子に名まえをきいたら、
「名まえ?名まえ?ぼくの?あるの?」
といって、こまっていたので、
『くらみー』
という名まえをあげました。
くらやみでしか会えないから、くらみーです。
くらみーは、
「くらみー、くらみー。ありがとう。くらみー。ぼく、くらみー。」
と、すごくよろこんでくれました。
またべつの日に、
ぼくはくらみーに聞きました。
「ねぇくらみー。電気をつけてもいい?」
そういうと、くらみーは
「だめ、だめ。だめだよ。そんなこと。だめ。ぜったいだめだよ。つけてはいけない。
きみがこわれてしまう。
それは、だめ。だめだ。」
と、あわてて言いました。
よく分からなかったけど、
ぼくは電気をつけないであげました。
理ゆうはわからないけど、
おかあさんにおとうさんのことを聞くと
だめなのとおなじで、
くらみーにもいやなこととか
きずつくことがあると思ったから、
それを分かっててするのは
良くないことだからです。
それに、ぼくもなんだかいやなよかんがしました。
くらみーのすがたは気になるけど、
でも、そんなの気にならなくなっちゃうくらい、
くらみーとのお話は楽しいです。
学校で楽しかったこととか、
おかあさんのこととか、
すきなこととかを話します。
そしていやなことがあったとき、
それをくらみーに話すと、
いっしょにどうしたらいいかを
考えてくれたり、
それはおかしいね、と言ってくれたり、
それは、君もわるいよと、言ってくれたり、
とても良い友だちです。
ぼくにはがっこうで友だちとよべる人は
ほとんどいないです。
でもくらみーのおかげでさみしくないです。
ぼくの味方でいてくれるくらみーを
ぼくは大切にします。
---
ぼくの作文を読んだ先生は、とてもこわい顔をして、
「晴生くん、先生をからかっているの?」
と、おこった。ぼくはそんなつもりがなかったから、
「ちがいます、ほんとなんです。くらみーはいます。」
といったら、もっと目がこわくなった。しんじてもらえていないみたいだった。
「せんせーどしたの?はるおがへんなの書いたの?うんちとか?」
よこからとつぜん、|裕宣《ひろのぶ》くんがはなしかけてきた。いや、裕宣くんが話しかけたのは先生だった。裕宣くんがうんちといったら、みんながわらった。クラスの女子も「やだー」といってわらった。
「裕宣くん……。いいえ、ただ……いや、なんでもないのよ。」
先生はなんだか、はっきりしないこたえ方をした。すると裕宣くんは「ふーん」とつまらなさそうに言って、先生のよこをとおってせきにもどる———-
「隙ありっ!」
「あっ!」
と見せかけて、ぼくの作文をよこどりして、みんなに聞こえるように読みはじめた。
「えーっと……『お外がまっくらになって、カーテンを閉めて、へやのなかが見えなくなったときに、くらやみから「おーい、おーい。」と声がします』……?なんだこれ。」
「や、やめてよぉ。」
裕宣くんは作文をとりかえそうとするぼくから
にげながら読みつづけて、けっきょくぼくのところに作文が戻ってきたのは、ぜんぶ読みおわったあとだった。ぼくに作文をかえしながら裕宣くんは
「なにがくらみーだよ、ただのお化けじゃん。きも。」
と言ってきた。ぼくはかちんときて、
「くらみーはおばけじゃない!ぼくの友だちだ!」
と、どなってしまった。すると裕宣くんもおこって、
「なんだよ、だってそうだろ!くらいとこにしかいなくて、しゃべり方もおかしくて、名まえもないんだろ?お化け以外のなんなんだよ!すがたも見たことないくせに、どうやってお化けじゃないって言うんだよ!」
と、どなりかえしてきた。ぼくはくやしくて、
でもなにも言いかえせなくて、泣きそうになってしまった。ぼくが何も言わないのをいいことに、
「お化けと友だちなんて、おまえきもいよ。」
とか
「おまえもお化けなんじゃねえの?」
とか
「そいつがおまえのおとうさんだよ。おまえのおとうさんはもうしんでてら今はいないんだよ。」
とか、好き勝手言ってきて、さすがに先生が怒ってた。でもそれに「ざまあみろ」と思うこともできずに、ぼくは「くらみーはお化けだ」と言われたことが、ただただかなしかった。そして、それをちがうと言い切れなかったぼくにもびっくりした。その日はかえりの会まで、いやなかんじだった。
---
家にかえってきて、ぼくは考えた。きっと今日もまた、くらみーは来てくれる。そのときに、くらみーに聞こう。そして言ってもらおう。くらみーはお化けじゃないってこと。おとうさんじゃないってこと。おとうさんはまだしんでないってこと。……あとお化けはこの世にいないってこと。そしてちょっとだけ、ちらっとだけでもすがたを見せてもらおう。そうしたらきっと、裕宣くんも自分がまちがってたってことをみとめてくれる。そう思って、くらくなるのをまった。そして、短いはりが7のあたりにきたときに、カーテンをしめた。するとへやはまっくらになって、すぐ近くすらも見えなくなった。
「おーい、おーい。」
きた。くらみーだ。
「くらみー?」
「そうだよ、くらみー。ぼく、くらみー。」
くらみーはうれしそうだった。
「まってたんだ。くらみーのこと。聞きたいことがね、いっぱいあるんだ。」
そしてぼくは、今日あったことをぜんぶ話した。くらみーはぼくが話終わるまでしずかだった。
「ってことがあったんだ。」
「裕宣はわるいやつだ。ひどいやつだ。晴生はきもくないよ。」
「ありがとう。ぼくのためにおこってくれて。」
「だって本当のこと。晴生はわるくないよ。えらいよ。えらい。手出さなかった。」
「あはは。こんなことで殴らないよ。……ねぇくらみー。いちおうなんだけどね?くらみーはお化けじゃないよね?」
「お化けじゃない。くらみーうそつかない。お化けじゃない。友だち。」
「だよね。おとうさんでもないんだもんね?」
「ちがう。おとうさんじゃない。友だち。」
「やっぱね。お化けなんていないもんね。」
「わかんないよ。いるかもしれない。」
くらみーはおどかすようにそう言った。
「や、やめてよ……。」
「こわい?こわいの?晴生、こわいの?」
「こ、こわくなんてないよ!男だし!……でもお化けはいないよ。ヒカガクテキだよ。」
「ヒカガ……?」
「うん、ヒカガクテキ。」
くらみーは「ヒカガク……ヒカガクテキ……かっこいい。」とぶつぶつ言っている。ぼくも「ヒカガクテキ」は良く分かんないけどかっこいいと思う。
「ねぇくらみー。」
「??なに?ヒカガクテキなこと?」
「ちがう。あのねくらみー。お願いがあるんだ。」
「どうしたの?」
「くらみー、のね、すがたが見たいんだ。」
くらみーがかたまった。すがたは見えないけど、なんとなくわかった。聞かれたくないことを聞かれた。そんなかんじだった。ぼくはくらみーがいる気がするところまで行って、話しかけた。目を合わせているつもりで。
「……。」
「少しで良いんだ。ちらっと、指先でも。」
くらみーが目をそらした気がする。
「……。」
「少しだけでもくらみーを見たら」
「……。」
「お化けじゃないって胸を張って言えるし」
「……。」
「きっと裕宣くんもまちがってたって謝ってくれて」
「……。」
「仲直りができると思うんだ。」
「……。」
くらみーは何も言ってくれない。だからぼくはあきらめて————-最後の方法をとった。
「……分かった。じゃあ」
「……ごめんね。」
「電気、つけるね。」
「……!!だめ!」
電気のスイッチのところにむかうぼくにくらみーはさけんだ。
「だめ!だめだよ、だめなんだ。見たら……みたらいけない!知ったら、知ってしまったら……ぼくと君もこわれる!」
「こわれないよ。」
「こわれる!!いくな!つけるな!!やめろ!
だめだだめなんだ、つけたらいけない!」
そうしている間にスイッチのまえについた。しんぞうがドクドクしていて、ぼくの体まで電気をつけるなと言っている気がしてくる。くらみーは今もだめだだめだとくりかえしている。……だが、いわかんがしてくる。なんだろう。なんなんだろう。電気のスイッチに手をのばし、
「だめだぁぁ!!」
ふといわかんに気づいた。そうだ、なぜこんなに電気をつけられるのがこわいのに、ぼくの体を止めようとしたりしなかったんだろう、と。
その理ゆうはふりかえってみて分かった。そこにいたのは————、くろちゃいろのかみをあちこちにはねさせていて、カメライダー、タートラーレッドのパジャマをきていて、へやの電気のスイッチに手をのばしている———-ぼくだった。そこにいたのは、かがみにうつったぼくだった。くらみーは、ずっとぼくだった。そういえばずっと、いわかんはあった。声だ。声がぼくとそっくりだ。僕とそっくりな声が、ぼくの頭にひびいてたのだ。
「知っちゃった。知っちゃった。ひとりぼっちって、気づいちゃった。」
|くらみー《 ぼく》の声が頭にひびく。そっか。
ぼく《《には》》、いなかったんだ。さいしょからだれも、いなかった。
「そっか。」
すとんと落ちた。
くらみーは、誰の頭にも存在するのさ。
ほら、部屋の隅を見てごらん。
声が聞こえてくるよ。
「おーい、おーい。」
…なんてね。
ひとりぼっちでないのなら、大丈夫だよ。