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シアワセ
ロズワール邸の庭に暖かな木漏れ日が降り注ぐ午後。
かつて数え切れないほどの絶望と血の匂いに満ちていたその場所は、今では穏やかな笑い声に包まれていた。
「レム、見てくれ! この完璧なウサギ型リンガ! 俺のナイフ捌きもついにヴィルヘルムさん級に達したと言っても過言ではないのでは!?」
スバルは得意げに、不格好ながらもしっかりと耳の形が残ったリンガを突き出した。
「すごいです、スバルくん! 剥いた皮の厚さにスバルくんの男気と、溢れんばかりの情熱を感じます!」
両手を頬に当てて目を輝かせるのは、青い髪のメイド、レムだ。彼女の記憶は完全に形を取り戻し、その瞳にはかつて以上の深い慈愛と信頼が宿っている。
「いや、レム。それは明らかに身を削りすぎ。ウサギというよりは、干からびたイモムシに見えるかしら」
呆れたようにため息をついたのは、ベアトリスだ。スバルの隣にちょこんと腰掛け、スバルが差し出したまともな方のリンガの切れ端を、ハムスターのように小さな口でパクリと咥える。
「もぐ……味は悪くないのよ。スバルの分際で、私を満足させるとは生意気かしら」
「ツンデレごちそうさまです、ベア子! ほら、エミリアもあーん!」
スバルが次にリンガを向けた先――そこには、陽光を浴びて銀髪をきらめかせるハーフエルフの美少女、エミリアがいた。
「もう、スバルったら子供扱いしないで。……でも、せっかくだから、あーん」
エミリアは少し照れくさそうに微笑みながら、スバルの手からリンガを受け取る。その薬指には、ルグニカの伝統的な意匠が施された、小さな魔鉱石の指輪が光っていた。
王選という過酷な戦いは終わった。
多くの陰謀を退け、魔女教の脅威を完全に退けたスバルたちは、ついに「誰も犠牲にしない」未来を掴み取ったのだ。ロズワールは生きて己の罪を償う道を選び、ラムは今も変わらず彼を支えながら、時折スバルに辛辣な罵声を浴びせている(もちろん、親愛を込めて、だ)。
「ねえ、スバル」
エミリアがリンガを飲み込み、そっとスバルの手を握った。その手は温かく、かつて冷たく冷え切っていた死の感触など微塵もない。
「私ね、今とっても幸せ。スバルが隣にいて、レムもベアトリスも、みんなが笑っていられる。……あなたが諦めないで、私をここまで連れてきてくれたからだね。ありがとう」
紫紺の瞳が、真っ直ぐにスバルを見つめる。
スバルの胸の奥、かつて「サテラ」から与えられた、あるいは呪いとして縛られていた『死に戻り』の権能は、もう久しく発動していない。最後に死んだのがいつだったか、もう思い出すこともできない。
スバルはエミリアの手を握り返し、庭にいる大切な仲間たちを見渡した。
お茶を運んでくるラム。遠くから見守るガーフィールとオットーの騒がしい声が聞こえる。
「――俺の方こそ、ありがとうだ。俺の異世界生活は、ここから始まるんだからな」
もう、巻き戻す必要のない時間。
一秒一秒が、ただ愛おしく積み重なっていく。