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何も
暗くて重い気分っていうのは
所詮、空虚のようなモノ
まるで、降り積もる雪みたいなものだと思う
そこにあるのに景色もガラッと変わるくらいには引き込ませるものがある。
けど、やっぱりそうだな
それは綺麗で儚いものだから、いずれは______
今年でいくつになったかな。
誕生日がくるたび、自分が"生きてる世界"に戻されるような感覚になる。
ちゃんとしっかり生きて生活もしてる人間なんだけどね
誕生日は好きだ。祝われると嬉しい気持ちになるから。
今日まで、人生の中で忘れられない出来事も、素晴らしい出来事も、思い出すことも憚られるような嫌な事もたくさんあった。
でも、嬉しいと同時に焦燥感と絶望感がやってくる。
……今まで経験した全てを否定されてく階段みたいなものを登り続けているような、
そうしていくと先程まで足を踏み締めた段が次々とまるでダルマ落としみたいにランダムに打ち落とされて、無かったことにされていって、
最後には自分がひとり残って_____
鬱屈とした気分を隅に追いやって、今日もまた煙草と安いライターを持ってベランダに吸い込まれるようにして戸を開ける。
ぼーっとすると思い出してしまう。
この|仄暗《ほのぐら》い、冷ややかな早朝ともよべない、短くて切ない夜明け前。
酒を中途半端な量を飲むと中々深く眠れないのが、最近の悩み。
酒はワタシを酔わせて、ワタシを苦しめる記憶ばかり夢にみせる。
煙草を咥えて風除けに手をかざし火を灯す。
浅くも深くもなく吸ってみる。
「ふぅぅぅぅーーー……………。もうそろ電子タバコに完全シフトすべきなのかぁぁ?…………」
不意に気配を感じる、
向かいの棟のガラスに映る自分だった。
遠く、そして視力が弱かったのと寝起きだったのもあった為によく見えない。
でも、なんだか物悲しく見えるのはきっと気のせいなのではないのだろう。………
机にあった、スマホからバイブ音がする。
サンダルを乱雑に脱ぎ捨て、煙草を咥えつつ音のする方に向かう。
手に取り、画面に顔が照らされる。
「ゔっ」
眩しい。目に悪い。
そこには、昔からの腐れ縁の男からの単調なメッセージが表示されていた。
『一緒に見る約束の映画だけど、遅れるかもだから録画だけしてて!ごめん!』
……あの男のことだから、
きっと約束を守れなくなるかもしれない事にも、
こんな雑な連絡になってしまった事にも、
申し訳なさに打ちのめされていることだろう。
すげぇ不器用で繊細で苦労人な男。
繁忙期になってしばらく会えていない事にも応えているだろうから、今日の晩は荒れるだろう。…
…ブーブーブーブー
画面がまた、着信画面に切り替わる。
表示されたのはワタシが学生時代から社会人になってもずっと住み続けているボロアパートに泊まりに来た友人の1人の名前であった。
|深久朔吉《ふかみりきち》
緑に光る受話器のアイコンをタップしてみると、
いつもよりくぐもったような低くて少しテンションの高い声が聞こえた。
[もしもしぃ?まみえちゃん?もう起きてる?笑笑はや起きじゃーん]
「あんたのがはやいよ。てか、居間にも寝室にもいないから帰ったのかと思ったよ」
スピーカーに切り替えて、机に置いて音量を上げて台所の換気扇を回すついでに煙草を灰皿にグッと押し付ける。
[えー??帰るわけないじゃーん!まみえちゃんち、居心地いいんだもーん笑でもさーここ最近泊まる頻度高いからさーお礼にちょっと豪華な朝食作ろうって|蕊《はな》と話して、冷蔵庫開けたらよ!]
「はっはっはぁ!!笑笑そっかぁ!びっくりしたでしょ?なーんも入ってなくてぇ」
ベランダが先程散らかしたサンダルと開けっぱなしだったので、サンダルを揃えて、戸を閉める鍵もかけて、カーテンをひくため手を伸ばす。
日の出前だけど、遮光カーテンまでは閉めなくてもいいか、
そう考えていると向こうの駐車場からこちらに向けて、大の大人2人が大手を振って手を振っているのが見えた。
そばにある机と戸に少し反響するように、
この時間帯にしては些か大きい声量で、
[[みっちゃーーん!!!]]
「おいおい!?ちょっと、蕊に深久?もう少し声落とさないと近所迷惑!笑笑」
少し声を落としてみせて、電話越しに伝えると
ガラス戸からは両腕を丸にした動作をした様子が伺える。
少ししたら玄関の鍵が開くような音が聞こえた。
「「ただいまー」」
「うーい。おかえり」
「ちょっと待ってて下さいねー。お父さんご飯すぐにできますからねー」
「誰がお父さんだよ!笑笑笑」
なんだか昨夜もこんなくだらない会話があった気がする。
「深久は、相変わらず酒が入るとテンションが高いなー笑笑」
「ねぇー?りっちゃん、それでいて二日酔いしない体質でしょー?うらやましぃわー」
「私に言わせれば、蕊のその若わしさも羨ましいよぉ!」
「あら?!お父さん!浮気ですか?酔うとすーぐ誰からかまわず口説く癖があるんだから!!」
「いや、お前の酔い方に比べりゃまだ、まともだよ。ワタシは!」
不思議だな。全く。
ほんの少し前まで、ずっと暗い中を潜って、
抜け出せずにいたっていうのに。
お前らがいれば、息継ぎができる。
恵まれてるよ。ワタシは。
きっと
〈嵯峨崎まみえの本心とよすが〉
ワタシの誕生日は誰も知らない。
ワタシの本心は誰にも預けず、これからも
でも、本当は_________