#21　断れない　後編

秋晴れは終わり、ただの冷たい風が僕の顔を凍らせる。 ああ…やっと終わった。最近忙しかったんだよな、動画のみすぎで。 「心葉っ！！」 「うわ、お、大橋？どうしたんだ」 「今日って何日だと思ってる！？」 ものすごい剣幕だ。 「え？えーと、12月22日…？」 うわ。うわうわうわ。 悩みをもらったのは10月。2か月待たせていることになり、もうすぐ２学期で冬休み。終わった。終わった終わった。 「わかるよねっ？」 「…はい…」 こんなに結花の委員長らしさを見たのは、あとにも先にもこの時だけだった。…と思う。 「今日やってよ！いい？」 「分かった分かったからっ！」 久しぶり、いや初めて宙をの気持ちを体感した気がする。いや、厳密には恋焦がれていないのだけれど。 「わ・か・っ・た？」 「うんうんうんっ」 自分でも情けなさすぎる。ぐいっと来る結花に、流石にしつこいんじゃないかとさえ思う。本人に言ったら激怒超えて激おこぷんぷん丸だろうけど。 …ますます怒られそう。 「オッケー、必ずね」 うんうんうん、と相槌を打っておく。 そういや、今の僕、脅迫に怯えて強がる、アホ毛の眼鏡っ娘＆僕っ娘、か。…そこ、想像するなら勝手にしとけ。いいか、僕は狙ってない。恨むかするなら｜あいつ《作者》に言え。 --- ルーズリーフを持って、６年生の教室に行く。えーと、確か吾妻千尋だったな。転校してきたせいで、未だ６年生の名前も把握しきれていない。 「すいませーん、あの、吾妻さんに用があって」 さすがに敬語を使う。 あーでも、用は何にしよう。初めましての人と遊ぶ約束するわけにはいかないし、委員会って嘘をつくのも同じ委員会の人にバレるだろう。クラブの連絡もなくないが、なんで今さら？となってしまう。 気の利いた用が思い浮かばず、そのまま吾妻が来た。 白いセーラー服に、黒髪の三つ編みがふたつ。いかにも大人しそうで、断れなさそうという偏見を持つ。 「これ、頼んでいたものです」 「頼んでいた…？」 「頼ること、苦手なんですよね」 そう言うと、少し合点がいったようだった。 「僕は物書きが好きで、悩みは物語で解決するタイプなんです。汚い字でつたない物語ですが、それ、持っていてもらえませんか。別に、頼みを断ることは悪じゃないから」 そう言った。 僕が書いたのは、『断り』。吾妻のような、頼みを断れない学生が主人公だ。最後は自分から頼むことで、「頼むことに慣れて、断るのもあまり抵抗感を抱かないのではないか」と思うところでエンド。 「あ…ありがとうございます」 内容を見ていなくても、彼女は言う。悩みを聞いてくれて、頼みを聞いてくれて嬉しいのだろう。 「お礼は要らないです、だってこれが仕事ですから」 そう言って、僕は手を振った。 --- 年内の悩み委員会の仕事はこれが最後だ。心葉の悩みの仕事が終わったら、もう仕事は一旦休憩だ。 「ふ〜、働いた働いた」 「言うほど？図書委員とか、週１でしょ。それなら、悩み委員会はだいぶホワイトだし、児童会なんか毎日集まりがあるとか噂よ」 宙の言う事をばっさり振り切る。 「はいはい、わかったよ」 「戻った」 心葉がドアを開けた。 「これで仕事は終わり、次は年明けだな」 「年明けか」 「うっ…」 一瞬気絶しそうになる。 「うぇぇえ…年末年始…冬休みぃ……ねぇ、冬休みなくさない？」 「なんでだよ」 「どーせクリぼっちだもん。あ、心葉、クリパする？」 「クリスマスパーティ？うーん…いや、結花あれだろう」 「あれって？」 「受験」 「うげっ」 うぅ…多楚私立中等学園の受験日は確か、１月６日だったはずだ。 「クリスマスくらいいいじゃんっ！」 「あ、俺は剣と遊ぶから」 「はいもう敵ね！！」 「なんでだよ、遊ぶだけだぜ？」 「敵！いい、わたしと心葉にとってクリスマスに家族以外の誰かといる奴は今、全員敵だから！！」 「ああ、僕もしれっと混ぜ込まれてる」 「ぜーーーーーーったい、来年こそはクリスマスパーティしてやるっ！！」