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第一話「魔法が使えない少年」
世界は、七つの魔法系統によって分断されていた。
炎、水、風、土、光、闇——それぞれが独自の魔法文化と軍事力を持ち、互いに牽制し合いながら、長きにわたる冷戦状態を維持していた。
そして、どの属性にも属さない“無属性”の地——辺境の村、アーリス。
この村に住む少年・リュカは、生まれつき魔法が使えなかった。
魔法適性検査では、魔力反応ゼロ。属性判定の儀式でも、どの系統にも属さないと記録された。村人たちは彼を「空っぽ」と呼び、魔法の時代において“無価値”と見なしていた。
「お前は魔法のない世界で生きるしかない。兵士にもなれない。村を出る資格もない」
そう言われ続けて育ったリュカは、魔法に憧れながらも、それを拒絶するように生きてきた。
だが、運命は静かに動き始めていた。
──その日、空が裂けた。
七つの魔法国家が、同時にアーリスへ侵攻してきたのだ。
炎の国・ヴァルカナの魔導師部隊が、空に巨大な火球を展開。
水の国・リュミエールの治癒師たちが、戦場の後方に陣を敷く。
風の国・ゼフィロスの空間魔法部隊が、村の周囲に転移陣を設置。
土の国・グラナードの重装兵が、大地を揺らしながら進軍。
光の国・セレフィアの神官戦士が、結界を張りながら前進。
闇の国・ノクティスの呪術師たちが、村人の精神を蝕む幻影を放つ。
そして、彼らを指揮するのは——闇の国の魔導将・ヴァルゼン。
「無属性の地に、世界を変える力が眠っている」
ヴァルゼンは、村の中心に立つリュカを見下ろし、冷たく言い放った。
「お前が“無”であることこそ、最大の脅威だ」
リュカは、ただ立ち尽くしていた。 村人たちは逃げ惑い、炎の魔導師が火球を放つ。 空気が震え、熱が走る。 リュカの目の前に、死が迫っていた。
──その瞬間。
「やめろ!」
リュカの声が、空を裂いた。
それは叫びではなく、“拒絶”だった。 彼の手が、無意識に空へと伸びる。 すると、空に浮かぶ火球が、まるで“消しゴム”でなぞられたように、跡形もなく消えた。
炎が消えた。 熱が消えた。 魔法が、消えた。
「……なに?」
ヴァルゼンが目を見開く。 リュカの周囲に、黒でも白でもない“灰色の魔力”が渦巻いていた。 それは、どの属性にも属さない——“無”の魔力。
「魔法を……拒絶した?」
リュカ自身も、何が起きたのか理解していなかった。 ただ、身体の奥から湧き上がる“拒絶の力”が、彼を動かしていた。
「俺は……魔法を使えないんじゃない。魔法を、壊せるんだ」
その瞬間、風の国の魔導師が風刃を放った。 リュカは反射的に手をかざす。 風が、止まった。 空気が、静止した。
「無属性……いや、“魔法破壊者”か」
ヴァルゼンは笑った。 「面白い。ならば、七国すべてを敵に回す覚悟はあるか?」
リュカは答えた。 「俺は、誰の味方でもない。魔法に支配された世界を、終わらせる」
その言葉を皮切りに、戦場が動いた。
炎の魔導師が再び火球を展開。
水の治癒師が、敵を回復させる。
風の空間魔法が、兵を転移させる。
土の重装兵が、大地を揺らす。
光の神官戦士が、結界を張る。
闇の呪術師が、幻影を放つ。
リュカは、すべてを“拒絶”した。
魔法詠唱を中断させ、術式を崩壊させ、魔力の流れを遮断する。 彼の魔法は、攻撃ではなく“否定”だった。
だが、無属性の魔法には代償があった。 使うたびに、リュカの記憶が曖昧になっていく。
「……俺は、何を守ろうとしてる?」
戦いの中で、リュカは自分の“目的”を見失いかけていた。 だが、村の少女・セラが彼の手を握り、言った。
「あなたは、魔法に抗うために生まれた。だから、私が覚えてる。あなたのことを」
その言葉が、リュカの魔力を安定させた。
そして彼は、七国の魔導師たちに宣言する。
「俺が、魔法戦争を終わらせる。無属性の力で、すべてを壊してやる」
──魔法戦争の幕が、今、開かれた。
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次回予告:第二話「七国会議」
・七つの魔法国家が、リュカの存在を脅威と認識し、緊急会議を開催
・各国の代表魔導師が登場。属性ごとの思想と戦術が明らかに
・リュカは“無属性の魔導師”として、初の外交交渉に臨む
毎日投稿遅れてすいません!
ちょっと勉強などがありまして…(こいつの言い訳です。聞かないでください。)
新しいシリーズを作りました!ぜひファンレターを待ってるぜ★