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人は愚かである:
「空とか海とか、くだらない世界に身を任せて、人って愚かなものね。」
ある日の正午を少し過ぎた頃、リマイラは虚空を見つめてぽつりと呟いた。いや、ぽつり、というよりは、まるで誰かを演じるように、感情のこもった声で。
「急に何を言い出すかと思ったら。そうね、確かにそう。珍しいわね、貴方らしくない。」
地面の雑草をわざと音を立てて踏みつけ、友人のフィレンダはそう返した。その音が聞こえて初めて、リマイラは自分が原っぱの真ん中で柵に寄りかかって座っていることに気がついた。小屋の方を見ると、何匹かの羊が目を細めて一心不乱に顎を動かしている。草を食べているのだ。
「あぁ、私、こんな所にいたの。変ねぇ、ついさっきランチを食べ終わったばかりなのに。」
「貴方って、そういうところがあるのよ。」
そうフィレンダが言い終わるより先に、くすっと小さな笑いを浮かべて、リマイラは空を見上げる。まるで全てを知り尽くしているような、赤子でも見つめるような、世界を見下ろすような。そんな目で。
「愚か、そう、人は愚かなものよ。自分の都合のいいように世界の力に頼り続けて。」
澄ました顔で、リマイラはさっきの話を続ける。
「って、こんな話をする私の方が愚かよね。ええ、そうよ。どうせ私も、世界の理の一部に過ぎない。」
フィレンダは静かにリマイラの目を見つめる。こういうところだ。ふらっと何処かへ出て行って、おかしな話をするのだ。誰かに聞いてもらうためでもなく、ただ自分が満足するためだけに、つまらない話をフィレンダの耳へと運ぶ。そういう、静かな友人が欲しかったのだ。ずっと。
「いつか、世界が破滅へと向かう時、その時だわ。その時こそ、人が自立するべき時。でも不思議なものね、どれだけ頑張っても人は世界を変えられないもの。」
そう言ってリマイラは立ち上がり、羊のいる方へ歩き出した。フィレンダはそれを追いかけるように目を動かして、見つめる。自分でもどんな顔をしてるのかわからなかった。それを自覚して、フィレンダは顔をわざとらしく動かす。
「そう、人は本気で世界を変えようとして初めて、自分がどれだけ無力なのか、そんなことに今更気がつくの。」
あら、そういえばお茶を切らしていたわ、と、リマイラは小屋へ駆けていった。フィレンダはゆっくり、柵の方へ歩き、自分の手を見つめる。世界の理、か。確かにその通りだ。私もどうせ。
バッ、と後ろを振り向いた。誰もいない。あるのは羊だけ。
「なんだかさっきから、変ねぇ。とうとう幻聴でも聞くようになったかしら。それとも、誰かがあそこにいるのかしら。」
世界を変えようとして自分の無力さに気づく。
ああ、そういう意味だったのか。
誰もいない草原で、ぽつり誰かが声をあげる。
駄作