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花びら、二枚目。
「あぁ、案内してくれたのか、ご苦労…楽人殿は此方にどうぞ」
里長に案内されて行った彼らを見て、ホッと一息つく。
手の中の勾玉を見て、今度は重い溜息をつく。
仕方なく、桜の勾玉に通った細い革ひもに、素早く誰にも見られないよう、首を通した。
「ねぇ、何かあった?」
楽人たちの見送りに行っていた月狛が戻ってきた、みたいだった。
心配して肩に手を置き、真剣な表情で私の顔を覗き込む。
、これは…話して、いいのだろうか……
「、っうぅん、何でもない...大丈夫!ありがとう、」
何とか取り繕った笑顔。
月狛は私が嘘をついてると気付いたようだけど、何かを察したみたいで何も言わなかった。
申し訳ない、けれど…これは、人を巻き込んじゃ駄目、そんな気がした。
結局、その後は洗濯場に戻って変わりない一日を過ごした。
夕暮れが近付いて空を見上げれば、満月が浮かんでいる。
集会所や広場の方は、既に人で賑わっていた。
私も、今日は春を告げる花の一つ___。
端の低めの舞台を見れば、先程とは違った衣装を着た楽人の人達が座って、楽器を調整しているのが見えた。
「あぁ、漸く見つけた」
「里長様!」
息を切らしながらも此方に来た里長。
急用、なのかな?
「…毎年のようにそなたは楽を奏でているが…今年からは都合のつくだけでよい。何しろそなたらのような齢の者らが主役の宴なのだからな」
「、ぁ、分かりました!ありがとう、ございます」
ぺこり、と頭を下げると、若い娘の集まっている場所に足を急がせた。
小走りになりながらも辺りを見回していると、注意力は散漫になる。
分かっていたけれど…
焚火をぼーっと見つめる”誰か”に思いきりぶつかってしまった。
「いった!?何すんだよ!!?って」
「す、すみません!!、あれ?」
すごい勢いで謝ったのも束の間、瞬時に目を輝かせて互いを見つめた。
「桜月!」
「|未明《びめい》!」
奇跡的に、私がぶつかった相手は幼馴染の一人、|白薙《しらなぎ》 |未明《びめい》だった。
「最近あまり話せてなかったよねっ⁉久しぶり!!」
わたわたと手を振りながらそういうと、向こうも同じ様にわたわたと手を動かす。
いや、鴨かな。
「そうだ、もう楽人さんの用意整ったみたいだから__」
皆の所に行こうとしていた事を思い出し、それを伝えてまた後で、と別れようと思った。
その為、楽人さん達の方を目で示したけれど___
「すっげー!桜月見ろよ!カラス!アイツ、カラスを連れてるぜ!」
うん、知ってた。
この人、馬鹿なんだ。
自分で自分が馬鹿だと一番分かってる、謎の馬鹿。
うん、結論は馬鹿だった。
「あ、いたいた!…|未明《みめい》!もう祭りが始まるんだから俺らの待機場所に戻らないとダメだから行くぞー」
「誰が“みめい”だ!琥珀、お前それ自分で分かってて言ってるから|性質《たち》悪いんだよ!」
見ての通り、未明の手綱を握っている、|夕江《ゆうえ》 |琥珀《こはく》__
私の三人の幼馴染の一人。
月狛と未明、そして琥珀の三人が、幼馴染。
「っじゃなくて!もう琥珀が言ってた通りにお祭り始まるから!また後でね!」
頷いて手を振る二人に笑みを零しながらも、急ぎ足で女子の輪に飛び込んだ。
「桜月!遅かったけれど…っていうか可愛すぎるんだけど!やっぱり桜月!」
やっぱり桜月!、…?と何度かリピートしたけれど、結局分からなかった。
やっぱり桜月とは。
そして、そういう月狛も。
いつも彼女が髪を束ねる、浅葱色に近い縹色の色紐と__
その色と相性の良い組み合わせ衣装の出で立ち。
それは、綺麗な月狛の容姿をさらに引き立たせていた。
「月狛もめっちゃ綺麗!意中の相手がもし居たら一発で落とせると思う…」
みんな、普段よりもきれいな服や髪飾を付けている。
主役が集まったこの集団はやっぱり、様々な色とりどりの、花の様に見えると思う。
「ふふ、それじゃあ___」
宴の始まりを告げる、鋭くも溌溂たる笛の音。
一斉に踊り出す広場の人々。
若い男女は意中の相手を探し出す。
「、でも…他の村から来るとは聞いてないんだけど」
いや、正しく言えば、近くの村々が集まった、この里で行うのがこの宴、なんだけど…
「他の村の人からお誘いが来るとは思ってもなかった」
いやー、私の知名度高いんだ、嬉しいなー(棒)
と思ったら今度は誘いを受けるなと言われた五人のうちの一人が来たところだった。
「はぁ…」
そろそろ断りの謳が切れる頃なんだけど…
かといって即興の下手な歌で断るのは恥をかくから避けたい。
「昔散々私の事追い掛け回してた癖に」
「でも手を上げたことはなかっただろ?他の奴みたいに」
いや、普通だし手を上げたところで返り討ち+月狛達からの怒りを買うだけだし…
ていうか、どうしよう。
なんて言って断ろう。
下手な歌を作りたくない、
でも断らなきゃ、なのに断りの歌はもう使い尽くした、
ちらりと月狛の方を見ると、向こうは向こうでちょっと困っているみたいだった。
幼馴染男子二人と来たら、のんびり自分の家の焚火の隣で、二人で談笑している。
一寸殺意すら覚えた。
あぁ、どうしよう。
「なぁ、返歌をくれよ。いい返事を」
--- 「住の江の 岸による波 よるさへや」 ---
「っ何でここに___!!」
そこに自信満々に立っているのは、笛吹きだと自慢げに言っていた、月夜さん__だった。
でも、どうして、
それに先に歌を送った人へ返す前に、また別の人が歌を送るのは…
明らかに先の人への挑発行為。
乱闘が起こっても可笑しくない。
「っなんだお前は!礼儀すら知らない癖に」
「オマエと話すことはねェよ!話しかけてくんなっ」
二人の空気は今にも殴り合いすら始めそうな雰囲気だった。
どうしよう、この人昔は腕っぷしの強い喧嘩ばかりしてた様な人なのに、!
「あと、勘違いするなよ!俺は…ちょっとコイツに用があるから来たら面倒な奴に絡まれてただけだ!」
顔も瞳も、それが本当で、他意が全くない事を示していた。
びっくりした、一目惚れとか言われたらびっくりしすぎる。いや、この状況もびっくりなんだけど。
にしても、何の用事だろ、?
「桜月、早くどっちかの歌に返せよ!そしたら乱闘は怒らなくて済むからさ」
何を言ってるんだ、この人は。
そもそもこの人楽人…いや、横笛二人いるんだった。
あぁ、断りの歌があったらそれで済むのに。
心にもない...それも友達の意中の相手...にいい返事を出来る訳がない。
「、__喜ばかりか 思ひつるかな」
「さ、桜月…!なんでそんなよそ者にっ」
「ごめんね、でもあなたの事心から思ってる人、絶対いるから...」
態々そう言う点、なんてお人好しなんだろうな、と自嘲する。
そのままへこんだ様子で去って行ったその人を目で見送った後、月夜さんに向き直った。
「、ありがとうございました。でも…如何いうつもり、ですか?」
日の昇り切らない刻の、七人と出会った時の事を思い出し、にわかに警戒するも、彼は笑って首を左右に振った。
「あのさ、笛吹けるって言ったよな?」
「あぁ、まぁ、一応」
「一回吹いてくれよ!桜月の腕前見てみたいんだ!」
食い気味にそう言われ、困惑するしかない。
「え、えと、でも…」
「ちょっとでいいから!頼むよォ…」
しょぼん、と子犬のような目を向けてくる。
うぅ、この人私がそういう目に弱いの知っててやってる?
「…ち、ちょっとだけ、ですからね」
飛び跳ねて喜んでいるあたり、自覚してわざとやっている訳ではなさそうだった。
…もしかしてこれも計算、?
え、何処までが計算されてるのか分からないこれが一番怖いかも。
そうぽつぽつと考えながら革袋から笛を取り出した。
念の為と入れておいて良かった。
結局、そのまま口に当てて吹いたのは、単調で素朴な音律の、だけど単純だからこその可愛いところもある曲だった。
些か簡単な曲ではあるけれど、この曲を私は嫌いじゃない。
ぴィ、と音が鳴り終わった瞬間、月夜さんの目がきらきらと輝いているのが目に入った。
…ぅ、何かありそう。
「へぇ…桜月って、横笛が随分上手いんだな…オマエ、俺の弟子にならねぇか?!」
にかっ、と笑ってそう言うこの人は、私がこの村の人だという事を忘れてはいないだろうか。
楽人として旅をするのも楽しそうではあるけれど…
忘れてはいけないのは、何と言おうとこの人達は|闇《くら》の氏族であること。
本当ならすぐに村長に伝えなければならないのに、私の恐怖がそれを許さなかった。
きっと、巫女様ぐらいなら既に見抜いて、鏡越しにそれを双子の御子様に伝えている頃だろう。
「丁重にお断りします」
「えぇー、頼むよぉ…」
何なんだ、この人。
ちょっと苦手…、こんな感じの、こちらからしたら断りにくい上に意外と粘る人。
っていうか恋愛沙汰の筈の宴に、本当にただの用事で歌を贈る人なんて初めてなんじゃないか…
「と、っ取り敢えずお断りします!」
ぴゃっ、とその場から取り敢えず逃げだした。
取り敢えず。
と思ったら、山中を何時の間にか彷徨っていたようだった。
宴の賑やかさも、男女の想いも、焚火の明るさも、
何も、ここには無い。
後先考えずに走ってきた自分を恨む。
心の底から、恨めしやと過去の自分を呪った。
「どうしよう、っ迷っちゃった…」
「、桜月ちゃん、こんなところにどうして、、、」
木々の間の暗闇から出てきたのは、驚いた表情の澪さんだった。
「みお、さん…!どうして、って…」
「…|輝《かぐ》の軍の気が近づいてきているの。そろそろここを発たないと危ないから失礼するわね」
そういって微笑んだのは紅葉お姉さん。
村の人たちの…楽人の音楽はどうしたんだろう、
疑問と驚きが頭を駆け巡って、何とか絞り出すみたいに声を出した。
「っここを、出るんですね、」
「…ねぇ、桜月。君は__闇の氏族の里に来る気はない?」
笙、の人…|晴空《はるあ》さんが、静かにそう問いかけた。
「ゎ、たしが…?」
戸惑いもあったし、驚きもあったし、だけど、闇への拒絶が、今の自分には強かった。
昔からずっと光を信じてきた。
輝の里で、光の下で、生きてきた。
「、っ私が何者であれ、私は光に生きてきたんです。今更闇の人と言われても、着いていくことはできない…!」
胸の、上に羽織った服の下の、勾玉を布越しに握りしめながら、そう言った。
そして、6人の人影に、頭を下げる。
「…、皆さんは私を探しに、危険を冒して輝の里に来てくださったんですね、。」
断るといったのは私なのに、申し訳なさが後から後からこみあげてくる。
「、、、顔を上げてください、桜月様、、、!」
れお__|麗音《れおん》が、あわあわとしながら言った…カラスも後ろでわたわたとしている。
「れお達は…一度戻るだけだから、、、ッ絶対戻ってきて、桜月様を連れ戻します!」
連れ戻す、って言っても、私から見たら最初からここにいるんだけれど、
それでも、それ程に私をまっすぐ見てくれるこの人たちが、私は好きになっていた。
「あぁそう、その勾玉は、アンタが持っときぃな…それは、闇の氏族のものでもなんでもない__”巫女姫”の物だから」
「わ、かりました、…ところでその、月夜さんは、?」
見当たらないその人を、一番手前にいた瀧さんに聞いた。
発つ、と言っていたのに、姿が見当たらないとは…と、序盤から疑問に思っていた。
「さあな。僕様に訊かれても分からん。」
「そうよ、この馬鹿に聞いても分からないわ」
「なんだと!?この!僕様のことを今!馬鹿と言ったんだな君は!?」
「はぁ、面倒くさ…ちょっとこの状況理解して静かにしてくれへん?」
紅葉お姉さんの鋭い突っ込み。
大きな声を上げた瀧さんに、今度は天沢さんの冷静な鎮め。
ナルシスト、?を宥めるお姉ちゃんとお兄ちゃん…
成程、わからない。
っていうか月夜さんのこと誰も分からずに置いて来たのかな…?
いや、さすがにそれはないか、
「彼は”少しやる事があるから先に行ってほしい”と言っていたから…」
「そう、なんですね」
まさかの知っているのは晴空さんだけだった…
にしても、やる事、って…
私があんな風に逃げ出しちゃったから…?
もしそれで、残ったせいで輝の軍に見つかって捕まってしまったらどうしよう。
私の所為だったら、。
「…輝がかなり近くにいる、。そろそろ行かないと不味いことになる、かもしれない、、」
ピリ、と張りつめた澪さんの声に、皆の雰囲気も変わった。
これが、殺し合いの戦場を敵として立つ者同士の、。
それじゃあ、と急ぎ急ぎに去っていった彼らの姿は、一瞬で闇に溶けて行った。
そろそろ、帰らなきゃ。
そう思った。
だけど、どこに?
道も分からない。
それに、里に戻ったところで、私はみんなとは違う。
所詮”外者”。
こんな私でも、心置きなく仲良くしてくれるのは幼馴染の三人だけだった。
知ってる。
皆が私のいないところで、”よそ者”って、ずっと言ってたのは知っていた。
寂しい。
楽人、の人たちが去った後の暗い森の中は、何もない。
ただ暗くて静かで、時折野生の生き物が上げる不気味な声や、草や葉が擦れる音しか、聞こえない。
あぁ、さみしい。
ぽろりぽろりとかってに流れる涙に、また過去の自分を呪う。
寂しいならなぜあの人たちについて行かなかったの。
ああ、私は馬鹿だ。
地面は山の中のため、柔らかい土で、落ちた葉や得体のしれない動物の気配しか、私の涙も嗚咽も、受け止めてくれるものはなかった。
「…君は何故泣いている?」
「、ッえ、」
「君は付近の里の娘に見える、おまけに…今日は嬥歌の筈__」
突然聞こえてきた声に驚いて顔を上げる。
相手の顔は陰でよく見えないけれど、その声は深く心地よい響きを持っていた。
周囲で緊張したような囁き声が交わされる。
「大丈夫、近くの里の娘が泣いていただけだ」
先程の深い声の人物がそういうと、ささやきはぴたりと止まった。
其れに交じって、馬の蹄の音も聞こえてくる__
この人たちは、何者だろうか。
「あの...ッあなた、は」
「私は|月読命王《ツクヨミノミコト》…双子の御子が一人、と言った方が分かりやすいかな」
ゆったりと歩いてこちらに出てきたその姿は、月光を浴びて輝いていた。
色素の淡い、流れる様な髪にすらりとした姿。
つい先ほどまで戦場に居たかのような白い服。
そして、海よりも、空よりも、淡く、けれど深い、そんな青の瞳。
その目に、一瞬で釘付けになってしまった。
「な、んで…ッこんなところに、?」
「それが…闇の氏族の気配がこの辺りでしたものだからね__獲物は逃がしてしまった様だけれど…代わりに得難いものを得たようだ」
言っている意味があまりわからず、泣き腫らした目に気付いて手で覆い隠しながら、首を傾げる。
「君は__花の乙女、だね」
柔らかい、穏やかな雰囲気に、少しだけ、悲しそうなものが混ざっているように感じられたけれど、それも一瞬の事で、すぐ元の雰囲気に戻った。
「え、っと…」
「…私と一緒に、まほろばへ来る気はないか?」
「へ、っ?でも、どうして、!」
突然の爆弾に戸惑い驚くも、断らなければとしか考えていなかった。
確かに、ずっと、お慕いしていた__その人に、その方に、こうしてまさか見目を合わせて、話を交わす事になろうとは思ってもいなかった。
けれど__私の生まれは、私の育ちは__
「私の氏は、っ」
闇の、者。
「そんな事、どうでもいい…姉上はきっとお怒りになられることだろうけれど、それでも私は探していたんだ」
蘇りの一族である闇の人々と、不死の一族である輝の人々。
決して相容れない存在。
「如何して、私なんかを…」
「言っただろう?私は花の乙女__君を、ずっと...探していたんだ。」
「采女として、私の傍で、まほろばで、光の下で生きてほしい」
やはり、わずかに憂いを帯びたその瞳には、何か人が手を差し伸べたいと、そう思わせるものがあるようだった。
「っ私は…貴方の事を__ずっとお慕いしておりました」
会う事も、見る事すら叶わない様なその存在に。
ずっと、憧れ心を惹かれていた。
手を引かれ、その人の馬に__雪のように白く輝く、美しい馬に横乗りになった。
ゆらりゆらりと馬の背に揺られる。
周囲は都の、まほろばの人々の…彼の人のお付きの人や護衛の人で固められていた。
前を見れば、馬の手綱を引く王。
時々、ちらりと私を気遣うような視線を向けてくる。
「え、っ桜月!?」
「つ、月読命王…!!」
「なんだって!?」
この世の頂点に立つその人が、端の村の嬥歌に来るなんて。
しかも、村娘を御身の馬に乗せて。
里長も驚きつ、馬から降りて友人に囲まれて質問攻めにあう私に駆け寄ってきた。
「何があったかは知らないが…くれぐれも丁重にもてなすのだぞ。祭り酒もそなたが取れ」
「は、っはい…!」
あれよあれよという間に話は進んでいた。
「突然の訪問を申し訳なく思うよ…私の事は気にせず、どうぞ祭りを続けてほしい」
穏やかにそう言う月読命王に、里長は笑顔を浮かべながらぺこりぺこりと頭を下げる。
けれど、その表情が困惑に変わった。
「どうぞごゆるりとお寛ぎ下さい___しかし、楽人の姿が見当たらないのです」
楽人がいない?と、不思議そうにこちらを見る月読命王。
その楽人たちが闇の氏族で、貴方が来る前に離れて行ったのですなんて、言える訳もなく。
何とも言えずに、私も困り顔を返した。
「ならば...私が奏でよう、よければ桜月も共にどうかな」
誘われたことに驚きつ、頷いて笛を取り出した。
篳篥の独特な柔らかい音色と、横笛の高い澄んだ響きが合わさる。
誰もが、輝の御子その人の演奏でなど、恐れ多くて踊れないと思った事だろう。
けれど、違った。
気が付けば人々は踊り出していた。
驚く間もなく宴の踊りの賑わいを取り戻して行って、いつの間にか音楽が止んでも尚、踊りの輪は止まろうとしなかった。
「桜月」
「月狛!」
振り返った時に目についた彼女の、嬉しそうで寂しそうな、その笑顔が目に焼き付いた。
「二人が…伝言だって、!」
言われずとも、幼馴染の二人だと分かった。
毎年宴が近くなると、憧れの視線が沢山集まっていることは有名で。
「…よかったね、って、この日迂闊に外に出たら大変だから直接言えないけど、って」
未明の、馬鹿だけど、無邪気な、真っ直ぐな笑顔が頭に浮かぶ。
琥珀の、しっかりした、だけど抜けたところのあるその姿も。
そして、月狛の…もはや私の姉みたいで、いつも私の事心配してくれていたその想いも。
「っ…ありがとう、大好きだよっ…」
ぎゅう、と彼女に抱き着いた。
まほろばは、遠い。
この村から、ずっと離れた場所にある。
「だから、もうここを離れたら、会えないんじゃないか、って…」
思わずまた込み上げてきた涙に震える声。
すると、月狛の温かい手が私の手に添えられた。
「大丈夫。桜月ならやっていける。私が保証する!」
そのいつものように、明るくて、優しくて、しっかりした声に。
「…うん、大丈夫だよね、!__それに何かやらかして多分すぐ戻されるよ!だから」
「そんな事言うなよ!それがヤバいって馬鹿の俺でも分かるぞ!?」
「…っえ、!?」
「全く…やらかしたら承知しないからな、俺たちまで怒られる」
「……ええっ!??」
「そうだよ、頼んだからね、桜月…私達の待遇をよくするためにも!」
宴の中、私が大声でえぇぇえ、と叫んでしまったのは言うまでも無かった。
だっていつの間に許可取ったの、一緒に行けるなんて!
それ知ってたら泣きそうになんかならなかったし!
って言うか二人もちゃっかり出てきてるじゃんか!
毎年外に出たら女子に囲まれるのが恒例だから隠れてるって言ってたのに!
挨拶できずにバイバイかなって思ってどれだけ苦しかったことか!!
私の涙を返せーーっ!!
そして、私の采女の決定と、幼馴染三人のまほろば移住が決定したのだった。
__まほろばって位の高い人とか采女しか本来いない場所、ということはないけど、
一緒についていくのが許可された事ってなかったみたいで…。
「…なんか、よかったね」
ほっこりとした気持ちになった私と、先程私が出した祭り酒を穏やかに飲みながら、微笑んでこちらを見守る月読命王の姿があったとか。
ほとんどの人が寝静まった。
静か。
彼の人も、今宵は里長の家で留まるらしい。
川のほとりはとても静か。
あぁ、明日にはこの景色から遠く離れるんだ。
「…足音?」
満月の月明かりの下、木の陰から現れたのは__
「巫女様、!?」
いつも鏡の先のまほろばへ、彼の人達の姿を見る事の出来る、唯一の人。
けれど、様子がおかしい、。
ふらりふらりとおぼつかない足取りに、思わず駆け寄った。
その時だった。
「…ひ、ぃっ!?」
まるで何かに取り憑かれでもしたかのような、鬼の形相を浮かべて私を見た。
「正体を現せ!お前は輝の者ではない!汚らわしい地下の者!あの御方を騙すなど万年の罪!!なぜお前のような者が!!私さえ鏡の先からその御姿を見る事しか出来なかったというのに!!」
早口でまくし立てる巫女様は、髪を振り乱してこちらに迫ってくる。
恐怖のあまり、私はそこが川辺で__滑りやすい石などいくらでもある事を、忘れていた。
どん、と視界が揺れて足に鈍い痛みが走る。
石に躓いたんだ、。
見上げると、恐ろしい顔の巫女様が私を見下ろしている。
その手には、割れた鏡の破片。
「ひ__ッ!」
カァ、カァ。
ギャア、と目の前の人影が蹲ると同時に、二羽のカラスは木の上へと舞い上がっていった。
|夢遊《むゆ》と|夢琉《むる》__。
私と同い年の、けれど私よりも背の小さいあの男の子のことをふと思い出した。
つい数刻前、あって別れたばかりの、彼らのことを。
「…月夜さん、どうしてこんな所に、?っていうか、このカラスくんたちは結局誰の子達…」
「えぇ、、そこはまず|危機《ピンチ》を助けてくれたお礼を言ってくれよぉ…」
突然にして背後から現れた彼に驚く。
麗音...れお、そして楽人の人達の事を思い浮かべていたときに出会うなんて。
「、その通りです…助けて頂いて、ありがとうございます。」
「まぁ、弟子が襲われてたら普通助けるだろ!」
ニマ、と笑いながらそう言う。
...あれ、私弟子確定されてる?
「え、っと…楽人の人達先行っちゃってましたけど、”少しやる事”ってなんだったんですか?」
「あぁ、それなら多分もうちょっとで終わるんだ!」
多分、って…
信用ならないな…
っていうか敵の大将と同じ村にいるのに大丈夫なのだろうか…
とりあえず、もう遅いからと半ば強制的にお別れだった。
...何か、怪しいなぁ。
夜も明ける頃、近所の家は全部騒ぎに騒いでいた。
___私が原因で。
「まさか生きている間にこんなに上質な布で衣を作るなんてねぇ」
「お、お母さん...やっぱりこんなに沢山大丈夫だからっ…ちょっと家に置いておいた方が」
「何言ってるの!いい所の娘ばかりの中で心許ない思いなんかさせられないよ!」
けれど、その布の量というのも大変なもので。
近所の大騒ぎというのも、その衣づくりのせいなのだった。
申し訳なさに、針を持つ手が限界を訴えても手を止められない。
結局、仕上がったのもちょうど昼。
太陽が真上に来た時、私達はこの村を出て行った。
10000文字以上だから。
大変な事になってる。
うん、読みにくいし長いしホントに申し訳ございません。
予約投稿ミスった分どうしようかと思ったらこうなった。
もはや自分の馬鹿さに笑えてくる(草)
さて、まだ登場させれてない方!!
次めっちゃくちゃ出てくるから覚悟しててくださいね!!!
ほんとに!!!
じゃあね!!(?)