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四頁 花に嵐
結局、あれから染井さんとは、大した言葉数も交わさず、ただ桜を眺めていた。
実質ぼっち飯状態で、僕はひとりもくもくとパンを貪っていた。
「ぷっ……。リスみたい。可愛い」
などと染井さんがほざいた件について、ちょっとした口喧嘩みたいになったことは、誰も知る必要のない事実だろう。
僕は「私はギリギリまでここにいるわ」と言った染井さんを非常階段に残して、律儀に授業開始の十分前に教室に戻った。
ガラリ。
「ふふっ、なびきさんて、多趣味なんだね。よければ今度、僕にもアニメとか教えてよ。興味はあるんだけど、何から観ればいいのかわからなくってさ」
「えっ、いいの!? そういうことなら喜んで教えるよ〜! えっと、どういうのが好み? 恋愛? バトル? ファンタジー? あっ、そういえばね、面白そうなアニメが今季__」
「…………」
「およ、よがりん。おかえり。その目は何、幼馴染が恋しくなっちゃった目?」
「幼馴染のコミュ力に感心している目」
僕は半ば口元を引きつらせながら、そう返した。
僕がクラスメイトと馬鹿な言い争いをしているうちに、なびきは友達を増やしている……。
烏野、今朝はなびきのこと、〈中下さん〉呼びだったのに、今は〈なびきさん〉って呼んでるし。朝より表情が柔らかいし。
まあ……幼馴染としては、言祝ぐべきことなんだけれど。
「へえ、それは嬉しいな」
なびきは少し目を細めて、軽い口調でそう言ってから、
「せっかくだしもう紹介しちゃうね。かすみん、こちら、僕の幼馴染の吉野よがり。目つきが悪いだけでいいやつだよ。そしてよがりん、こちら、僕の友達兼未来のオタク仲間である烏野霞。プラモを作るときは手伝ってくれるそうです」
にっこり笑ってそう言った。
「……どうも。ご紹介にあずかりました、吉野よがりです」
「烏野、霞です。よろしくね」
小さく会釈をする烏野に「おう」と返して、僕はなびきのほうを見た。
「なびき、くれぐれもあんまはしゃぎすぎんなよ。お前のテンション感、初対面だとちょっと重いから」
それにお前、調子に乗りやすいだろ、と言おうとすると、なびきは「チッチッチ」と芝居ががった動きで言った。
「わかってないねえ、よがりん。これでも僕はその辺わかってるんだぜ? 嫌なこととかはちゃんと言えるタイプだよ、かすみんは」
僕はなぜかドヤっているなびきから、烏野に目線を移す。彼は
「まあ、一応ね」
と曖昧に微笑んだ。
「へえ、すごいな。僕にはできないよ、そんな大層な真似」
そう肩をすくめると、若干照れくさそうにする烏野。
……いいやつだな、こいつ。今の絶対、嫌な顔する場面だったのに。
「で、かすみんさ。さっきは話が逸れちゃったけれど、オススメのアニメがね__」
なびきが話を戻そうとしたタイミングで、ちょうどチャイムが鳴った。授業開始、三分前の合図。
他クラスに遊びに行っていたクラスメイトたちが、続々と席に着き始める。
「もーっ、また遮られちゃったー! これは『かすみんをオタクの道に引きずり込むな』っていう天からのメッセージかな、よがりん?」
「知るかよ」
雑にあしらって、席に戻る。そこで、チャイムと同時に教室に入ってきた染井園乃と目が合った。
けれど、どちらからともなく、すぐに目線を逸らす。
僕は授業が始まるまでずっと、意味もなくペン回しをしていた。