公開中
お願い、ありがとう
一部に暴力的な表現があります
2026/05/04 お願い、ありがとう
「丸山ちゃん好きだよ。」
その言葉には下心も何も感じられなくて、だからすごく気持ち悪かった。
「…あ、そう。」わたしはただそれだけ答えた。隣を歩く山梨さんのほうに顔を動かす。彼女の頭はいつもわたしの想像より下にあって、わたしは一度真横を見た後それを思い出し、視線を落とす。普段はそこには髪の黒があるのに、つむじがあるのに、今は肌色があった。わたしを見上げる彼女は優しい表情を浮かべていた。目が合った瞬間には脳みそを弱く撫でられたような感覚になって、わたしはすぐ前を向いた。
「付き合おう?」
山梨さんはそう続けた。
わたしはしばらく黙った。歩みは止めなかった。彼女も黙った。わたしと同じ速度で歩いていた。できればこのまま返事なんてせず、彼女も求めず、さよならできればいいのに、駅まではまだ距離があった。それまで沈黙を続けられるとは思えなかった。
わたしはようやく口を開いた。
「いいよ。」
断り方なんて知らなかったから。
山梨さんとわたしはそれから毎日一緒に登校して、お昼を食べて、週に3回は部活して、下校した。蓋を開ければ告白される前となにも変わらない日常があって、わたしは安堵と、恐怖をいだいた。彼女とわたしの関係に「恋人」と言う肩書きがついてからもう1ヶ月がたっていた。これから2ヶ月、3ヶ月と積み重なっていって、いざ彼女がわたしに恋人らしさを求めてきた時、わたしはなにをしたらいいんだろう。3ヶ月も付き合ったのにまだ彼女に恋心を持っていないことを知られた時、わたしはどうすればいいんだろう。
だけどきっと、彼女がわたしに恋人らしさを求めてきた時に、わたしは彼女をようやく受け入れられるんだと思う。
それに欲が見えた時、わたしは彼女を愛せるんだと思う。
だから早く、わたしの首をしめてください。