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あの日の前
家のチャイムの音が聞こえた。近所の奴らだ。懲りずにまた僕と関わろうとしているようだった。
朝から本当にくだらない。
人と関わるのは、もう止めたというのに。
僕はずっと一人だった。だけど、別に苦ではない。本があればあっという間に時間はつぶれていくし、生活も特に困ってるわけでは無かった。それに、人と関わると、必ずと言っていいほど面倒事が起きるものだ。
“あの時”だって、そうだった。
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両親は、事故で亡くなった。
そんな僕を可哀想とでも思ったのか、拾ってくれた人がいた。その人はどうやら“博士“”だったようで、僕を研究所に連れていってくれた。
別に僕がエルフの血を引いてるからって、何かされたわけではない。むしろ、僕を研究員にしてくれた。次第に、仲間と呼べる存在もできた。博士は僕に本の世界を教えてくれた。
楽しくなかった、と言えば嘘になるかもね。
でも、そんな生活も、すぐに潰された。
原因なんて知らない、研究所が爆発したのだ。
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僕は左目を負傷していた。助けてくれる仲間もいない。逃げ道もない。助かる可能性は低かった。
そんな時だった。誰かが、僕を突き飛ばした。
博士だった。僕よりも重傷を負っていた事は、一目で分かった。
博士は手に何かを握っており、それは微かに青白く光っていた。
「逃げるんだ」
そう聞こえた気がした。博士の上に何かが落ちてくるところを見たところで、僕の意識は途絶えた。
目が覚めたら驚いた。僕は町中で倒れていて、しかもそこは今まで見たことない景色だったんだから。
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そこから、運よく家と安定した生活を手に入れることができ、視力が落ちた左目はモノクルでなんとか対応することができた。その後、あの日の事を必死に調べていたけど、それらしき情報は、全くと言っていいほど見つからなかった。生存者も死亡者も分からない。人に聞いても、知らない、と返ってくるばかりで。
どれだけ調べても、あの事件のことは何も分からなかった。
そして、時間の無駄だと気づくのには、そこまで時間はかからなかった。
そこで理解した。人と関わると、ろくなことが起きない。どうせ失うものと関わっていても、無駄になるということを。
あの日、僕が拾われてなかったたら、こんなくだらない感情を抱くことすら、無かったはずだ。
それから僕は、人と関わるのを止めた。
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毎日、最低限の食事と睡眠を取りながら、本を読む生活。つまらないとか思ったことはなかった。
余計な事に関わるよりは、ずっとこのままのほうが、僕にとっては何倍もマシだった。
そんな生活が、何十年と続いた。
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ある日、やけに外が騒がしいと感じた。流石に気になり、ニュースをつけたら、『この世界は、あと7日で崩壊する』といった内容だった。
別に驚きはしなかった。むしろ、くだらないと感じた。無駄な足掻きをするくらいなら、普段通りの生活をしていたほうが良い。
そんな僕の気持ちとは裏腹に、そろそろ読む本が少なくなっていた。いつも読んでるとはいえ、流石にそろそろ見飽きてきた。
外は騒がしかったし、あまり気乗りはしなかったが、僕は図書館へと向かうことにした。あと7日で終わるのなら、新しい本に触れておきたいという気持ちもあったのかもしれない。
僕はこの選択を、今までの人生で一番後悔し、
そして、僕の人生を変えることになったことは、当時の僕は思ってもいなかった。