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空色の空……はそのままか。小さな雲が晴天の空を優雅に泳ぎ、皆同じ方向へと少しづつ動いている。動きながら薄く伸びるものや、段々と消えていくもの、そのまま変わらないものなど、様々な雲があるようだ。彼らは一体、何処へ向かっているのだろうか。
日によって変わる天候だが、今日が一番日向ぼっこに丁度良かった。
いつもの数人座れるベンチに、一人寝転んで独占する。毎日この時間に両腕を枕代わりにして仰向けに空を見上げるのが、僕のルーティーン。たとえ誰かが死んでも、考えたいなら此処に来て、悼みたいなら此処に来て、後悔でぐちゃぐちゃになって自殺したくなっても此処に来る。今日みたいな空なら、どんな感情でも落ち着けるんだ。
此処、シュヴアルツ国は、隣国のハーゲル国と戦争をしている。
確か2年と半年前からずっと続いている。
相手は技術力が高く、無限に湧く無人兵器でこちらに迫ってくるのに対し、こっちは若者を放り込んでいる。当たり前に、無人兵器の方が強いんだから、何回送り込まれては、何人も死んでいく。
この猛烈な争いの最中、僕は戦場の最前線で戦うシャテンだ。
自分に爆弾を仕掛けて出て行くとかそういうのではないが、死ぬまでこの戦争に加担しなければならない。
シャテンに入った理由なんか覚えてない。そんな記憶よりも、残酷で悍ましい記憶の方が、強く残ってしまっている。
戦い慣れた体はいつの日か、震えて部屋に閉じこもったときとは違い、自分から出陣し、できるだけ敵を多く殺すことが目標となっていた。
きっと、頭の狂ってしまった自分の精一杯の「早く戦争を終わらせたい」という思いが動きになったのだろう。
此処はシャテン専用に作られた屋敷、と言っても一軒家くらいの大きさで、街からはとても離れている。
だから家族に会いたいとか、用があって街に行きたいのなら、半年に一度にしか行くことはできない。行ってもどうせ差別を受けるから、どうしても、という人以外は殆ど行かない。
仲間なんて、結局死んでいくんだから、関わったって関わらなくたって変わりはない。仲間と仲良く話している時間があるなら、こうやって自由で美しい空を眺めて、いつ死んでもこの空を思い出せるようにしておきたい。
「また日向ぼっこか」
急に視界が暗くなり、我に返ると、丁度空が隠れるように視界に彼が写っていた。
「ユイン」
ユイン・アトローム、同じシャテンの仲間。
黒い短髪が特徴的で、口は悪いところがあるけど、お人好しだ。
「お前、日向ぼっこするくらいなら俺らの輪の中にでも入れよ」
「うるさいのは嫌いなんだ」
「みんなお前と話したがってるぞ」
ユインは居間の方を指差して、うっすらと聞こえる笑い声を聴く。
「どうせすぐ死ぬのに、僕と話す必要ある?」
「すぐ死ぬって……。これ戦争が終わるまで生き残るんだ。みんなで」
「そんな夢見心地みたいなの、無理だよ」
「夢でも良いんだよ。生きようと思ってるだけで、もしかしたら弾を避けれるかもしれないし。まあ、お前はそんなこと考えなくたって避けれるか」
「そんなことないよ。状況による」
僕だって、死体を見たら眩暈がするほど気持ち悪くなるし、何より匂いが我慢できない。鉄臭い匂いが充満して、それから逃げられなくなったら、敵に集中できなくなって、肩にだって腹にだって穴が開くだろう。
「お前との付き合いは長い。それでもお前の事を俺は全然知らない。俺は、死ぬ前にお前が知りたい」
「知ってどうするの」
「知って、知った後が最期なら、アイツが友達で良かったって思うんだ」
「そんなの意味ある?」
「まあ、ただ死ぬよりは、後悔が減るかな。……だからとりあえず、お前は俺に自分を語っとけ。それだけで、一人の願いを叶えられるぞ」
「……お前に言われたくないな」
「ハッ俺に言われたくない?じゃあお前から、何でもいいからなんか言ってみろ」
何でもいいって言われても、人に自分を言うってどんな……
「例えばぁ、……ホラ、好きなものとか」
さらりと風が流れ、ベンチに寝転ぶ僕と、隣でしゃがむユインの髪をあの雲が行く方向へ誘う。
晴天の空をジッと、見つめ、僕が好きだと思ったものを考えた。
「……金平糖が好き」