公開中
沈黙への感嘆
「A~Cの人はここに荷物を置いてください!!また、荷物検査を受けていない人は──」
「Y~Z!!Y~Zの人はここだよ!!」
がやがやと人で溢れかえる、学生世界における広き門の入口。
レティと別れた|椿《つばき》は、きょろきょろとあたりを見渡してKの荷物置きを探すが、見渡しても人、人、人のその場所で、特定のものを見つけるのは至難の業だった。
「どうしましょう…」
「新入生ツバキ・カデノコウジサマ、ファミリーネームはK。Kはアチラ側です」
彷徨っていた|椿《つばき》の後ろからぬるり、と中性的な人が顔を出し、はたまた性別のわからない声で聞く。
ミニベレーの鮮やかな赤が見えるも、リボンかネクタイをつけていないあたり、隠し事であることを周囲に悟らせた。
少々拙い共通語だが、聞き取れないことはないだろう。椿は後ろを振り返る。
「アチラにパネルがみえる思いマスが…」
するとその先輩は「風紀委員」と書かれた腕章をつけた腕を使い、方角を指差す。
確かに、よくよく見れば白いパネルに書かれた「J~L」の出っ張りが見えなくもないが、あれを探せというのは無理難題であろう。
「ええ、見つかりました。ありがとうございますわ、先輩」
「イイエ。ではワタシはこのあたりで」
先輩は椿の後ろから唐突に顔を出した時のように、突拍子もなく消えていった。
不思議な先輩もいるのだなと思いつつ、|椿《つばき》はKの看板を掲げながら人波に溺れている場所を目指した。
✶” ──────────────────────── ”✶
『これよりヴェラセルト教会立魔法学園、第401期入学式を始めます』
拡声魔法を使用した時独特の声が響いたのと、人の喧騒がなくなったのはほぼ同じタイミングだった。
パンフレットの注意事項には「式典中の混乱を防止するため、一時的に沈黙魔法を使用しております」と書いてあるが、読めていない|椿《つばき》にとってはただただ混乱を招くだけであった。
「(こっ、声が出ませんの…というか、どうして皆さんはそんなに冷静ですの!?)」
『また、本学園における式典では、混乱防止のため沈黙魔法を使用しております』
『この魔法は緊急時で解除されますため、心置きなく式に参加していただければ幸いです』
これで、開会の言葉を終わります。と締めくくられ、|椿《つばき》は説明に少しの安堵と不安を覚えた。
「(…なんだか、寧ろ怖くなってきましたわね…?)」
それが何に対してのものだったかはわからないほど、漠然としていたが。
開会の言葉は終わり、形式的に入学許可宣言と校長先生の話が進む。
自由なことに、身振り手振りで対話をしていたり、船を漕いでいる人もいたがその辺りは気にしないことにしているようだ。
『次に、在校生代表の言葉。生徒会副会長スズレ アマサトさん、お願いします』
壇上に、一人の少女が上がる。
名前からしても日本人だろうが、髪がよくなびく山吹色であることは人目をよく引くだろう。
「新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます──」
変わらず、定型であろう文章が続いていき、最後はこういった言葉で締めくくられた。
「最後に、この学校は広き門と狭き門を持つことを、皆様は知っておられると思います」
「ですが、私たちの目指すところは蹴落とし合いではなく、協力です」
「一人でも多くの人が狭き門を抜け、卒業できることを願っております」
『スズレ アマサトさん、ありがとうございました』
うっとりしてしまうほど綺麗に微笑み、スズレ アマサトは一礼し壇上を降りていった。
『次に、新入生代表の言葉。リア・ヴァイクさん、お願いします』
「本日は、立派な入学式を挙行していただき、ありがとうございます──」
晴れ晴れとした空のしたで、ヴェラセルト魔法学園401期生は、その広き門をくぐった。