公開中
永遠のカナシバリ 3日目 後編
前回のあらすじ
元両親に冥界へと連れて行かれそうになる桜木花名。彼女の目の前に現れたのは、黄色の服を着た折り紙の少女だった__。
(…え?…折り紙の…女の子…?)
女の子は折り紙を折る手を休め、ゆっくりとこっちを向いた。
`「おねえちゃん、だいじょうぶ?」`
そう、辿々しい、幼い言葉で彼女は話した。
「あ、あなた……話せるの?」
正直驚いた。折り紙が話せることと、久方ぶりにまともな話し相手と出会えたことに。女の子は軽く頷き、紙を折るのを再開する。
私は、寒気を感じながら…少し風邪をひいてしまったのか……女の子の方へと近寄り、目の高さを同じにする。
「た、助けて…この部屋…おかしなことばかり起こるの……!」
少女相手に、人間かどうかも怪しいものに、助けを求めるなんておかしな話かもしれない。それでも、私は藁にもすがる思いで小さく叫んだ。
返ってきた答えは、予想もしないことだった。
`「おねえちゃんはね、いまゆめのなかにいるんだよ」`
「ゆ、夢…?」
女の子は戸惑う私も目に入れず、出来上がった折り鶴を頭上にあげる。それは大きくはばたき、そして群れとなって私たちの周りを飛び始めた。
`「おねえちゃんはね、ずっとべっどのなかでゆめをみてるの。でも、からだはうごかないの。あのひからずっとかなしばりののろいにかかってるから」`
え、でも…
「…「金縛り」って…?私は起きてるよ…?」
金縛りは寝ている時に体が動かなくなるもの。今私は起きて、この子と話している。
「もう何日も、この部屋で寝起きしてるんだよ…」
女の子は、手をあげたまま再び私の方を向き、話した。
`「おきるほうほうが、あるんだよ」`
そう言った途端、彼女の顔に一本、赤色の横棒が入る。裂け目から血が数滴流れ落ちた。
`「あなたは、もう、そのやりかたをしってるんだよ」`
女の子の声がますます頼りなくなる。そんなはずは無いのに、痛みで顔を歪めているように見えた。
(やり方…?)
その時、聞いたこともない情報が頭の中に流れ込んでくる。
(…危機に陥った時に《《「戻りたい」と強く思うと、状況を打開できる》》…)
女の子は小さな声で続ける。
`「ゆめから、さめるよ…さあ、こわがらずにやってみて…」`
…そう言い、女の子は話さなくなってしまった。
(信じて、いいのかな…?)
躊躇いつつも私は強く願った。
(元の世界に…戻りたい……!)
その瞬間、あたりの景色が目まぐるしく変わっていく。これは…これまでにここで起こった出来事…?変わり果てた両親の顔、初めての金縛り、𡚴原さんから渡された回覧板、私のために犠牲になってくれたユミカカちゃん…
意識が遠のいていく。私は血まみれの床に倒れた。第三夜のことだった。
---
--- ー|物語を巻き戻します《R E T U R N》ー ---
---
「………っ!?」
私はベッドから飛び起きた。息がかなり上がっているが、先ほどまで感じていたひどい寒気などは嘘のように消え去っている。
(えっ……あれ…?ゆ…夢…?わ、私…すごく怖い夢を見てた…?)
あたりを見回す。血まみれで古びた内装は消え、元の私のメイクスペース、私の真新しいスーツに変わっていた。
(…ユ、ユミカカちゃんは…?)
ふと思い当たり、慌ててベッド周りを探る。
(な…ない…?)
え、嘘…ベッドの下に転がっていったのかと床に降りようとして気づく。
(…ていうか…ユミカカちゃんって…)
…《《ユミカカちゃんって……何?》》
(…「夢の中」で…私が持ってた人形のこと…?)
…あまり覚えてないけど、ユミカカちゃんのことを考えると胸が痛くなる。
(…あ、仕事に行かなくちゃ…)
時間を確認する。まだ…間に合いそう。私はベッドから降りて、玄関の方へと向かった。
荷物をカバンに詰め、外に出ようとして気づく。
(あれ…桜の花が枯れちゃってる…?)
庭の桜の木の枝。あれを一本切って花瓶に生けて玄関に飾ってた。まだ飾ってからそれほど経ってないはずなのに、膨らみ始めていた花がひとつ残らず枯れ落ちてしまっている。
(…帰ったら、庭の枝を取ってこよう…)
忘れないように、そう思いながら新しい革靴を履き、私は初めての仕事場へと向かった。
この時に、気付いてれば良かった。
---
「桜木さん…だっけ?君、4月からずっと仕事場で見たことないけど…今日は来れたんだ〜、良かったね」
「…え?何のこと…ですか…?」
明らかに新入社員にかける言葉じゃない。…ま、まさか……!
「いやぁ、それにしても大変だよねー、梅雨。桜木さんびしょ濡れじゃん〜。今日も雨だし……桜木さん?」
「…つ、梅雨……?」
私は早退を伝えることも忘れ、急いで仕事場を飛び出す。
__「え、ちょ、桜木さん!??」__
先輩の声も耳に入らない。私は転がるようにして雨の降る外へと駆け出して行った。
---
「……はぁっ……っ……!」
ピシャンと玄関の戸を開け、急いで靴を脱ぎ、寝室へ向かう。
(ど、どうして……!?)
ベッド脇の窓。それを開けるとそこには…
…《《花びらひとつ残っていない桜の木》》があった。
(…さ、桜が……全部散っちゃってる…!…わ、私…どれだけ眠ってたの…!?)
焦る自身を落ち着かせて、考える。
(…い、一旦着替えよう…)
それでも落ち着けず、バタバタと私はクローゼットの方へと向かった。