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#3 メイド
城に戻ると、ミゼラがいた。
「あら、もうお帰りになられたのです?もっと行ってくださってよかったのに…」
「すみません、医者はどこにいるのじゃ」
野薔薇が強気に出た。ミゼラは上品に微笑み、「今メイドを手配しますわ」と言った。
ライトが出てきて、「ではいきましょう」と言った。
「…やはり、代償が出たのですか」
「なにか知ってるの?」
「当然です、わたしだって、代償が積み重なってこうなったんですから」
「…は…?」
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では、わたしのことをお話します。
数十年前、皆さんのように、昔、わたしもアビリティ・パーソンでした。身代わりを作る、というものです。モノを複製する、といった方がわかりやすいかもしれません。
「貴方のことを、国中で歓迎致しますわ!」
ミゼラ様はそう言いました。
「アビリティ・パーソンは神相応の存在ですわ。これからも、国のためにお願いしますわ!」
当時のわたしは、まだ何にも知りませんでした。色々と複製して、国のために働いてきました。少々頭痛やめまいがしましたが、異世界転移ボケとして片付けていました。
しかし、複製の質が段々と落ち、ついに複製不可となってしまいました。そのことをミゼラ様に伝えると、
「この出来損ないが。元の世界にも戻れないくせに、接待してやっているくせに、なんでそんなこと言うの?国中から差別されろ。ミゼラ・リーネの言ったことだ!」
と罵倒され、わたしは罪滅ぼしとしてメイドとなりました。
これはわたしの推測にすぎませんが、ミゼラ様はアビリティ・パーソンを使って、不老不死・絶対権力をお持ちになったんだと思われます。椿さん、でしたか?の症状も、その一環です。わたしは17歳になってからでしたが、まだ幼いでしょう。
わたしも協力します、なんとか、元の世界に戻りましょう。
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「…早くでないと」
「ほら、幸運と超能力を…」
「駄目です、成功するかもわからない、後遺症が残るかもしれないのに、そんなリスキーなことできません」
ライトの話を聞きながら、脱出方法を考える。
何も思い浮かばず、そのまま、医者のところについていた。
「これは、ちょっとした転移ボケでしょう。安静にしてたら治ります」
男性の医者の言葉を聞き、また城へ戻ろうとする。
「あんな医者の言葉、信じちゃいけません。この世界で能力を使うことは、あんな偉ぶっている姫に力を貸すのと同等です。あの症状は、何か大切な記憶が抜けたということでしょう。現にわたしも、転移前の記憶は何らありません。能力カウントダウンは、もう始まっています」
「…カウントダウンが、尽きたら?」
ライトは無表情で言った。
「わたしはまだ、初期症状のようなものです。わたしのように、ただのメイドとなる。いや、奴隷に、ロボットに。貴方達は真実を知っている」