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夜の花見ミステリ 明夜
「ふぁぁあ」
疲れたので、昼寝をしていたら、もう気づけばすっかり日が沈んでいた。
(昼餉食べる前に寝たから、腹減ったなぁ……)
いつもより早いが、もう夕餉にするか、と思い、体を起こしたら、一冊の本が目に留まった。
今日、雪蘭(シュラン)の師の家から借りた楊琴(ヨウキン)の詩集だ。流石に借りたものだからと棚の上に置こうと思った時、本の中からひらひらと薄いなにかが落ちてきた。
それは、しおりだった。最初に開いたページに挟まっていたものだ。そのしおりには、こう書いてあった。
『月長石(ゲッチョウセキ)。別名、ムーンストーン。』
そして、その月長石と思われる絵も描かれていた。
さらにさらに、ご丁寧に書店の名前まで書いてあった。
(これは……)
今まで考えてあった時間は何だったのかと思えてしまうが、いたしかたない。まあ、本を丸ごと借りておいて正解だった。
と、いうことなので、今、双紗(ソウシャ)は今にもなりそうな腹を抑えて、出店が集まる街を駆けていた。まわりには、これでもかというほどの屋台の行燈。そして、食欲をそそる焼き鳥の甘く香ばしいタレの匂いがかおってきていた。
(我慢だ、我慢。これが終わったら雪蘭か次女かにおごってもらえばいい)
こうして、書店に着いた。
案の定、双紗の家から少し遠く、雪蘭の師の家に近かったがしょうがないことである。そう、腹を括って店に入った。
店には、ほとんど大衆小説が売ってあり、図録があまりなかった。なので、割とありふれてそうな『宝石図録』という名の本でも、すぐ見つかったし、一冊しかなかったので迷う余地もなかった。
双紗は、すぐに手に取り、月長石のページを探した。すると、店主が現れて、立ち読みすんなという目線を送り続けるので、本当に仕方なく金を払った。
思いのほか高かったのが痛いところだ。
(あとで請求しよ)
家に帰り、まずは真っ先に夕餉を食べて、月長石のページを開いた。そこには、色付きの絵具も使われており、石の細やかな光までが再現されている絵があった。
そして、そこには、「石言葉は、恋の予感、希望など。光の当たり方によっては、青白い一筋の光を放つことがある」と記載されていた。
確か、雪蘭の師の家は、西側に建っていて、広間の窓も西側だ。
(明日の午後、行くか……)
そう心の中で勝手に決めて、眠りについた。
天気は晴れ。そんな日の午後、すぐに雪蘭の師の家に向かい、戸を叩いた。
「双紗さんでしたか。もしかして、真相が?ちょうど雪蘭さんも来ているので、どうぞ」
案内されたのは、一番大きな広間で、西側に大きめの窓がついている。その窓からは、たっぷりと日の光がとりこまれていた。そこの部屋の中心に、丸い卓があり、そこで雪蘭が茶をすすっていた。
「双紗さん。わかったんですか?」
双紗は、こっくりと頷いた。
「はい。そのために、まずはまた部屋に入らせていただいていいですか?」
「えぇ。一応まだ物は捨てたりなどしておりませんので」
言質を取ったので、部屋に入って棚をあさる。次女と雪蘭は、勢いのよい双紗に流石にちょっと引いていた。
ちなみに、あさっているのは、一番高そうな宝石が入っている棚だ。勘違いはしてほしくないので言っておくが、決して物を取ろうとはしていない。
「あった」
そう言った双紗が手にしていたのは、まるっこく、青白く輝く石、つまり月長石だ。大きさは、子供の手のひらと同じぐらいだろうか。
つまり、結構高い。
なので、慎重に持って、大広間に戻った。
「あの、そこの棚の上の箱には、宝石が置かれていたのでしょうか?」
その問いに、次女はこっくりと頷いた。
皆の視線の先には、黒漆で塗られた箱に青色の布が敷かれたものだ。大切なものを保管するときに使われるが、これは蓋がないので、おそらく宝石などを飾るための物だろう。
「そこには、父が仕入れてきた宝石を置いて、よく茶会をしていました。たまに、キラキラと輝くので、幼いころは毎回ワクワクしていました」
次女は、懐かし気に語る。さぞ楽しかった思い出だろう。
そこで、双紗は箱の上に宝石を置いた。
「それでは、今回の宝石は、一番ワクワクすると思いますよ」
しばらくすると、強く青白い光が現れた。
『!?』
「ある光の当たり方をすると、この月長石は青白い光を放つそうです。今回、初めて試したので成功してよかったです。それでは、光の当たったところへ行ってみましょうか」
光が指すのは、桜が咲き誇る山の中腹で、一本の一番大きな桜が咲いているところだった。
確認したところ、あそこの山の持ち主は、師だったらしい。
確認も終えたところで、ようやく山に登ることにした。なぜだか、長女も行くと言い出して、4人で向かうことになった。
山は、一応最低限の管理が行われていたが、それでも歩きにくかった。皆少し息が荒くなっている。
(確かに、登らせるんならもう少しの管理はしておいてほしかったなぁ)
と、文句を思いつつひたすらに歩く。中腹とは言うが、結構長い距離だった。
だが、しばらく歩いていると、はらはらと桜の花びらが落ちてきて、ようやくゴールにたどり着いた。
「ようやくですね」
桜の木の下には、石製の大きめの箱が置かれていた。
「中には何があるのかしら!」
「姉さん、慎重に扱わないと」
「わかってるわよ」
そう言いつつも、長女はわくわくと顔を輝かせながら箱を開けた。
中には、書物や、高価そうな小箱が入っていた。長女は、それほどに欲しかったからか、手を伸ばした。
だが、次女がそっと制止した。
雪蘭は呆れ顔だ。
そんな中、次女は、ゆっくりと、一番上に置いてあった手紙を手に取った。
「じゃあ、読みますね」
次女は、ゆっくりと手紙の内容を読み始めた。
「我が子供たちへ。早速だが、この箱の中身について、話させてもらう。この箱の中には、私が商いによって一代で築き上げた莫大な遺産がある……」
あまりにも長かったので、要約させてもらう。
まず、遺産全てを相続するのは、次女にという話らしい。そして、当主の座も次女へと譲る。そして、雪蘭には、その補佐をやってほしいとの事らしい。
二人とも一応商いの知識はあるらしいが、詳しいことは書物にのっているらしい。
そして、最後にこうも書かれてあった。
「小箱の中には、桜の幻、桜色の月長石がある。それを、受けつぎ、希望をもって、頑張って、くれ……」
次女は、途中から涙をはらはらと流していた。
だが、この話をよしとしない人物が一人。それはつまり長女だ。きっと、遺産の一部を譲り受けるとでも思っていたのだろうが、そんな話はいっさい書かれていなかった。
(でも、聡明な判断だろうな)
そうは思ったが、本人は納得していない。
そんな長女が手をあげた。
「なんで! なんであたたなのよ! 普通は長女の私でしょ。ありえないわ!」
そして、平手を近づけた。
(くそったれが)
次の瞬間、双紗は長女の手首をがっしりと掴んだ。
「なによ! あなたには関係ないわ。邪魔しないで。いいじゃない。少しぐらい分けてもらっても!」
(反吐が出る)
「そうか? お前にわけないのは聡明な判断だと思うけどなあ。そんな父親に次女は似てんだからな。それに比べてお前はどうだ?家のことじゃなく、自分のことしか考えてないじゃないか!」
「くっ……!」
長女は、怒ってどこかに行ってしまった。
「ありがとうございます。双紗さん。こんなことまでしてもらって」
「いえいえ。それより、謎解きのために買った図録代、請求してもいいですか? 結構高かったので」
「……」
(いいじゃないか、それぐらい。役に立ったんだし)
次女は呆れたのか、おそらく一番手ごろな小切手を双紗に手渡した。
「ありがとうございます」
それなので、もう用は済んだので、帰ろうと思ったが、雪蘭が止めてきた。
「あの、一つお聞きしたいことが」
「なんですか?」
雪蘭は、少し間を置いてから言った。
「あなたは、詩人、楊琴の子孫ですか?」
「なぜそれが分かったのですか?」
次女は、困惑しているが双紗と雪蘭は、単調に会話を続ける。
「楊琴は、西方の詩人です。ですから、あなたが異国語を知っているのもそれなら辻褄が合います。普通、一般的な庶民は知らないはずですので。それに、最初、楊琴の詩を見た時、すぐに詩の内容が理解できているようでしたので」
「……。その通りですねぇ」
恐ろしいほどの観察眼だ。やっぱり関わらない方がよかったかもしれない。
「まあ、周りにばらすと面倒なことになるので、やめてくださいね」
「ええ。口は一応固いので」
賢いから、一応わきまえられるだろうから、その言葉を聞いて双紗は安心した。
「それではこれで」
双紗は、去っていた。だが、なにかを思い出し、二人に振り向いて言った。
「ここら辺に咲いている桜は、八重桜ですね。ちなみに、八重桜の花言葉は、豊かな教養、理知や、善良な教育です」
それだけ伝えて、双紗は今度こそ去っていった。
双紗の頭の中は、この話、詩のネタになるかなぁと考えているであろう。
もう、少しずつ、桜の花びらが大分散り始めていて、桜吹雪が、波のようにふわっと波打っていた。