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多面的人格論 #3
**第三話 薄暮、嘆く。**
薄暮。虹野唯は、公園のブランコに腰掛けていた。
「…………………………暇ぁっ!!」
じっくり溜めてから、叫ぶ。
「暇暇暇暇ぁっ! ひーまーなーのぉっ!! めちゃくちゃにどうしようもなく素晴らしく惚れ惚れするまでに暇っ! なんで通行人が全然いないのぉ?! そりゃ平日だからなの!! 阿呆なのか、舞は! 家を出る前に気づいても良かったの! 結局、馬鹿みたいに競走しながら下校してるガキぐらいしか通らなかったの! 悩みがないのが悩みって気付けないのが悩みみたいな連中しかいなかったのぉ! せめて何かを抱えてそうな人に通ってほしかった!! いつの間にか日が傾いているし……頼む、ネタにできそうな人、通行人になってくれ!!」
捲し立てるように喚き倒し、自問自答し、罵り、希ったところで、ぜぇぜぇと浅い呼吸を繰り返す。
「イマイチ展開も思いつかなかったし……もう、どうしようもないの」
そこで、あ、と思い出す。
「そうだ。こんなときこそ、|時那《ときな》先生なの」
|謳片《うたかた》時那。年齢不詳、性別不詳のミステリアスな小説家である。虹野藍が尊敬しており、すなわち、他の人格も敬っている相手である。
どんなジャンルも書けるらしいが、得意とするのはシリアスなもの。
__なんで、こんな大切なことを忘れていたのだろう。
最近は物忘れが酷い。元々、記憶力はいい方でもなかったが……。
「多分、頻繁に人格が入れ替わってるせいなの。藍がいた頃はマシだったけれど……藍が出てこなくなって以来、記憶の共有が難しくなってきている気がするの」
記憶の共有。要は、例えば累が何をしたかを、舞や唯、他の人格も知り、憶えている、ということである。
でも、最近はそれが難しくなってきていて__。
「あぁっ、もう、ムシャクシャするの! 何がなんだか解らない……さっさと家に帰って、時那先生に浸るしかないの。うん、そうするべきなの」
物憂げな溜め息と共に立ち上がり、唯は家路につく。
これからのことは、これから考えよう。