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«劣作悪霊使い»
渕渓家。この世界でこの名を知らない者はいないだろう。
渕渓とは、初代悪霊神職の「渕渓 弥音|《ふちたに やおと》」から伝わる一家である。
これまでにも数々の悪霊を祓ってきたため、周りは尊敬と信頼の眼差しで溢れていた。
今、渕渓家は10代目で、その子供は5人おり、後継ぎとなるため生まれたときから過酷な訓練を施されていた。
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その末っ子「渕渓 艶命|《ふちたに えんめい》」は5人兄弟の中で末っ子にも関わらず、一番霊力が強かった。
その霊力は悪霊も簡単に上回り、悪霊を使っては他の悪霊を倒すというこれまでにない斬新な方法で小さいころから次々と名の高い悪霊たちを祓っていった。
当然話題になり、渕渓家の注目の的となった。そんな彼を、父親はとても愛し、気に入っていた。
しかし、誰もが好きになるわけではない。そう、長男たちである。
彼らは危惧していた。このままでは後継ぎは艶命になってしまうと。
だが、兄たちの力では艶命の霊力には敵わなかった。一度も勝負に勝てたことはなかった。
そこで彼らは弟に下がってもらうことにした。彼らは弟に雑用や家事をすべて任し、その間自分たちは特訓した。素直な弟は不満や文句は一言も言わず、真面目に取り組んだ。
兄たちの要求はどんどんひどくなっていった。家のものを壊しては弟のせいにし、修理させる。
この繰り返しのせいで、弟の信頼や知名度はどんどん薄くなっていった。
ある日、ついにその時はきた。
兄たちがふざけて遊んでいるうちに家に代々伝わる家宝、霊安鏡を割ってしまったのだ。
兄たちは逃げた。艶命は割れた音を聞き、様子を見に行った。そこにはガラスが散らばっていた。
幼い艶命はそれが大変貴重で重要な物とは何一つ分かってなかった。いつものようにそのガラスの破片を修復しようとした。
そこで騒ぎを聞きつけた父親がやってきた。
父親が見たのは割れた代々伝わる家宝、そしてそれをいそいで修復する末っ子。
何も疑わず、父親は末っ子を叱った。この日から父親は艶命を無視するようになった。
艶命は何が起こったのか、何故怒られたのかを知らないまま、しばらく夜通し泣き続けた。兄者はただ無言で見つめ、しかし何も誰も声をかけず、近づかなかった。
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艶命が15歳のころ、父親に勘当を言われた。反抗する気は微塵も起きなかった。
さよならも告げず、天才神職は去ったのだ。
彼は今、何をしているのだろうか。