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10.護衛の行方
「ただ今戻りました」
「聖女ユミ、よく無事に帰ってきましたね」
神殿に戻ると、サムエルに出迎えられた。
サムエルは、私と一緒にいる二人の聖女を見つけたようだ。
「……そちらの二人がこの度救出された聖女様ですか?」
サムエルは一瞬驚いた顔をした。
彼にとっても聖女が二人なのは驚きらしい。
「はい。他の者はほとんどが転移魔法に巻き込まれ、残るは私のところに残っていた護衛たちだけになってしまったのですが、とりあえずは聖女の救出を優先しようと思い、救出し、急いでこのように戻ってきたというわけです」
「それはありがとうございました。この二人の聖女様は僕が責任もって預かります」
……大丈夫かな?
「時々、様子を見に行ってもよろしいですか?」
「ええ、構いません」
これで大丈夫かな?
それにしても、意識しているわけでもないのに私はサムエルを警戒しているようだ。
たしかに佐藤さんと会ったと言っていた時に笑っていたけど、それだけでここまで恐れることになるのだろうか? 自分が分からない。
「カンゲ、いつ行く?」
「できれば今すぐにでも」
「それは無理ね。あなたまだ疲れているでしょう? せめて明日の朝ですね」
あ、また敬語使っちゃった……
「お心遣い、感謝します。では、どうやって救出するか考えましょう」
「そうね」
「まず、隊長たちの居場所が分からないといけないのですが……」
「それが分からないんだよね」
「また転移魔法に巻き込まれるというのは?」
「巻き込まれた後でどうにかなるのだったらもうベノン達が何とかしていると思う」
「魔法兵を巻き込めば?」
「巻き込まれた人に魔法兵はいないわけですから可能性はありそう……行ってくれる人がいるのなら、だけど」
「一応頼んでみます」
「ありがとう、カンゲ。助かるわ」
◇◆◇
「サムエル様から報告がありまして、神殿に行ってもいいという魔法兵はいないそうです。
ですが、王宮からは一人行ってもいいという人がいたという連絡がありました。連れてきましたが……」
「会わせて」
一人の男が通されてきた。
「聖女ユミ様、カミラと申します」
礼儀正しそうな人だった。
「初めまして。カミラ、あなたがこの任務についていいと考えた理由を教えて頂戴」
「はい。実は自分、少し前までユウナ様の護衛についていたんですが、ある日突然解雇されてしまい……ユウナ様に解雇されたものだから信用ならん、と他の仕事にも余りつけさせてもらえず……。
そんなときこの仕事を見つけてこれなら自分でも役に立てるのではないかとおもいました」
佐藤さん……こんな優秀そうな人を解雇しているんだ。
「帰ってこれないかもしれないけどいいの?」
「はい」
「あと、あなたはユウナの護衛にいたのよね? 魔法兵だったの?」
「自分だけ魔法兵でした。国王陛下がユウナ様を心配なさって自分を引き抜いたようです」
私のところに魔法兵はいないのだけど……
「ねえ、もしこの任務から無事戻ってきたら、私の護衛に入る気はない?」
「いいのですか!?」
「ええ、もちろん。この任務からあなたが帰ってくるのを楽しみにしているわ」
「ありがとうございます。無事、この仕事を成し遂げてみます!」
「頼りにしているわ」
誰もいなかったら私が行こうと考えていたけど、今はカミラを信じることにしよう。
◇◆◇
「ここに転移魔法がかかっているのですか?」
カミラがカンゲに尋ねる。
「そうです」
ちなみに、カンゲは転移魔法がかかっている場所を教えていない。
分かりやすい目印(ぽっかりとした空間)があるとはいえ、カミラが自分で当てた。
「この中に入ればいいのですね」
「はい。脱走路を開くのをよろしく頼みます」
「かしこまりました」
「ひとまず安全になれば、我々に位置を教えるのもお忘れなきよう」
「もちろんです。では、行ってまいります」
カミラは、転移魔法がかかっているところに足を踏み出した……とたんに何かギザギザした硬いものにふれた。
「おわっ!」
声が聞こえた。
よく見ると、たくさんの騎士がいる。
「自分はカミラです。皆さんの中には魔法兵がいないそうなので何かお役に立てないかと思ってきました。現状を説明してくれますか?」
「分かった。聞いていることもあるだろうが……」
「構いません」
「では説明しよう」
ここに彼らが来た過程については目新しいことはなかった。
「ここに落ちた時さ、前に落ちた人がいたから俺はその上にのっかったんだよね。だから痛くなくてラッキーと思ってたらさ、上からがれきが降ってくるんだよ。あれは痛かった」
「それは大変でしたね」
ただ、ここについての情報は知らなかった。
「ちゃんとご飯は少しとはいえくれますし、このあと奴隷として売られるとかそんな感じでしょうね」
「見張りは?」
「ずっとはいません」
「ドアは?」
「かなりの数の鍵を持っていましたし……」
「少し待って下さい」
カミラは魔力を広げた。
鍵は……3つほどのようだ。
転移魔法が使えるかもと思ったが、阻止されていた。阻害の魔法がかかっていた。
だけど、解除出来るかもしれない。
そこまで新しいものではない。多分、行ける。
……。
結局、やらないことにした。
今は、どのみち転移魔法は現在地がわからないがために使えない。
もし、解除したら、無駄に敵の警戒心を上げるだけだ。やる意味はないだろう。
「なんだ? 新入りか?」
「そうです」
おっさんが話しかけに来た。
わざわざこれだけのためにあの三つの鍵を開けるとは……
存外ここの仕事も大変だったりするかもしれない。
おっさんは再び外に戻っていった。
魔力を部屋の外に広げる。
ちょうど、鍵を閉めているところだった。
多分、解錠の方法は分かったと思う。
だからと言ってそれが今すぐ役立つわけではないけど。
「次はいつ見張りが来る?」
「一時間後ぐらいです」
「倒したことは?」
「まだないです」
「やってみるか」
「そうですね……痛っ」
上から石が降ってきた。
『はじめからこの石を使っておけばよかった。カミラ、余計な苦労をさせてしまってごめんなさい。ユミより』
そして、それに付いていた紙にはそんなことが書いてあった。
別に迷惑はしていない。おかげで次の就職先が見つかったんだから。
石を見ると、魔石だった。
きっとここにはユミ様の魔力が込められているんだろうな。
「いったん保留にしましょう。きっとユミ様が来ますから」
「本当か!?」
一人、大げさに驚く男がいた。
この男がもしかしたらユミ様の護衛の隊長のベノンかもしれない。
格子窓の隙間から魔石を念のため、部屋の外に置いておくことにした。
退屈な時間を過ごした。
◇◆◇
今はカミラを信じることにした。
だけど、別の案を思いついてしまった。
……カミラが出て行って1時間ほどたったころに。
思いついてしまったものだから、居ても立っても居られない。
「ねえ、カンゲ。魔石を転移魔法にかけたらどうなると思う?」
「その先に飛んでいきますね」
「そして?」
「すみません。魔法はあまり勉強してきませんでした」
「そう、それなら仕方ないか。私の魔力を込めた魔石だったらね、そこから少しずつ魔力が出てくるから場所が分かるかもしれないの!」
結構いいアイディアだと思うんだけど。
「それは……試してみる価値はあるかもしれませんね」
「でしょう? だから、この魔石を持って、行ってきてくれない?」
「かしこまりました」
「あ、念のためこれも持って行っておいて。持っておくだけでいいから」
「はぁ……? 了解です」
うん、理解していない顔だ。仕方ないけど。