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19.
「なんか・・・・、ボコってなったね。」
苦笑しつつ、美音はそう言った。
失敗した、私は即座にそれを悟る。
__「お嬢様・・・!」__
ギリギリ聞こえるほどの小さな声で、シャルムが呼ぶ。
__「もう1つ部屋を増やせばいいのでは?」__
__「どういうこと?」__
__「2階だけあるなら、1階にも部屋を足せばバランスが取れるのでは?」__
私は、構築した2階の下に、もう1つ部屋ができるのを想像する。
上だけ大きい今の状態で、下に部屋を足すとどうなるか、を。
・・・うん、いけそうだね。
「ありがとう、シャルム。できそうだよ。」
「お役に立てて何よりです、お嬢様。」
「美音、ちょっと離れて。」
「どうしたの、美咲。失敗はみんなするから仕方がないよ。」
「シャルムがいい案を思いついたの、やってもいい?」
美音は、少し考えたあと、たった一言を口にした。
「いいよ。」
・・・さっき失敗したのに、よくOKが出せるね。
まぁ、OKがもらえたほうが気兼ねなくやれる。
「『構築する程度の能力』」
次は失敗しない、シャルムがついているから。
音もなく、家に新たな壁が生成される。
・・・これで、ド派手な登場だったらカッコよかったな。
「成功だ・・・・!」
「美咲!本当に感謝だ、我の夢が叶ったんだからな!」
祝福と安堵の声が聞こえる。
―――よかった。
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「 ルアー様によれば、この先に第3王女たちがいます。」
多くの兵士たちを連れた、小さな少女がいた。
彼女の目は鋭く、それでいて優しい。
「君たち部下なら、やってくれると信じています。私達なら大丈夫です。」
そう言う彼女には、尊敬の眼差しが向けられている。
まだ小さいが、実力は十二分にあるのだろう。
「それじゃあ・・・。行きますよ!」
「「「「オォーーーー!!」」」」
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__「『中級累魔法 あなたは私の糧となる』」__
―――っ?
急に私の体が重く感じる。シャルムたちは大丈夫かな。
「・・・・・。」
「・・・?」
美音は顔をわずかにしかめてる。シャルムは少し違和感があるみたい。
美和さんは気づいていないのか、いつも通りだ。
「行きましょう!」
え、ちょ。誰・・・!?
今の声は、急に物陰から出てきた小さな女の子のものらしい。
あの子が指揮をしてるってことは、強いってこと?
「美咲! 相手が多いから減らすとこから!」
美音から指示が飛んでくる。
たくさん経験した人のほうがいいものね。
「『中級闇魔法 |幻刃《トリックナイフ》』」
私の闇が、彼らに牙を剥く。
斬撃のような闇が私の手から放たれた。
「落ち着いて対処してください! そこまで速くないですから!」
あの女の子の指示のせいか、大したダメージは受けてなさそう。
「『変化術 |幻影《ファントム》』」
美音のコウモリだ、私とは比にならないほどの速さで襲う。
「結界を張って!」
あの子の部下のような人を中心に、結界が出現した。
でも、全員は入れないみたいだね。
「『中級闇魔法 |幻刃《トリックナイフ》』」
さっきよりも速く、そして鋭くなった闇が敵を斬る。
「よし・・・!」
これなら、私でもできるんだ。大丈夫、勝てる!
「『神降・月華神威』」
美和さんのレーザーも加勢する。これは敵を貫通し、命を散らす。
「お嬢様に手を出したのを後悔させますよ。『上級植物魔法 はらりと散る葉と命』」
シャルムの周りに少しずつ葉が集まる。
不思議だけど、周りの植物に変化はない。
シャルムの周りをぐるぐる回った葉は、形を変えた。
シャルムの手の方へ集まり、小さな球となる。
「行ってください、私の子たち。」
それは、放たれた。
銃弾のようにも見えるそれは、敵たちを蹴散らして進み。
女の子の前で、花火のごとく弾けた。
「・・・当たった感触がない。」
シャルムのその一言で私は気付いた。
周りにいた兵士たちは倒れているのに、彼女だけ無傷だ。
なにかカラクリがあるんだな。
「さては、ダメージの肩代わりか?」
美和さんは確信を持って言った。
その自信がどこから来たのかはわからない。
「えぇ、そうですよ。私の名は優花。あなたたちを討伐します。」
私、モンスターとかじゃないんだけどな・・・。
討伐と言われるのは気に食わない、まぁいいけど。
「でも、君の仲間はシャルムさんの技で地に伏せた。」
美音は、追い詰めるかのようにこう告げた。
「君の負けは確定だよ、諦めたら?」
この状況、1人で私たちを相手しないといけない。
「いつ、私が1人になったと言うんですか?」
私たちはすばやく周囲を見る、でも誰もいない。
ただの強がり? それにしては余裕そうだけど。
「『上級累魔法 CPUは不老不死』」
優花、そう名乗った彼女から黒い霧が現れる。
霧は意思があるかのように気絶している彼らにまとわりついた。
「我が知らない魔法だな、累魔法・・・?」
嫌な予感がするから、私達は距離をとっている。
・・・私の嫌な予感は当たるらしい、こんなのありえないもの。
私の視線の先には、よろよろと立ち上がる兵士たちがいた。
「嘘だろ・・・・?」
「嘘じゃないです、これが私の能力の一端。」
戦闘不能になった仲間を蘇生させる能力・・・・・?
どちらにしろ、回復系なのには変わりないか。
となると、戦闘系の能力は持っていないはず。
「僕の予想だと、相手は回復系の能力。僕達の敵じゃない。」
美音もそう言ってる、だから安心して戦おう。
―――このとき、私は優花が笑みを浮かべていることに気づかなかった。
---
「さっきまでこんな威力なかったでしょ・・・・!?」
もう20分以上戦っている。
優花はまだ倒れない、むしろこっちが押されてる。
彼女はどんどん威力が増した攻撃をしてくる。
美音の結界や攻撃吸収の技も限界を迎えそう。
それなら、私達は何かを見落としてるのかも。
例えば―――
「回復の能力じゃないとか・・・・・?」
私は呟いた、すると優花が反応する。
「驚きました、まさか先入観にとらわれない人がいるなんて。」
すなわち、それは優花の能力が「回復系統」ではないことを意味する。
「私の能力は『逆境の乗り越える程度の能力』です、だから・・・。」
優花は、右手を上げて目を閉じる。
見えない何かを集めているかのように見えた。
―――そして、唱えた。
「『究極累魔法 乱舞・千花の想い』」
「・・・・っ、これはまずい。『上級光魔法 正義の裁き』」
「『上級植物魔法 守りの籠』」
美音が攻撃を相殺し、シャルムは防御を固める。
あたりに花が咲き乱れる、そこで美音が言った。
「魔力が・・・・、減ってない?」
優花の魔力が減っていない・・・・?
私はうまく使えないけど、美音は魔力探知ができる。
この魔法は魔力を使わないで撃てるってこと・・・・。
「美音殿、違うぞ。これは―――」
美和さんが苦い顔をしながらこう告げたんだ。
「あやつは、仲間の生命力を吸収してこれを撃っておる。」
それを聞いて、優花は笑った。
「あら、気づくのが意外と速いのですね。」
「でも、非人道的なんて言わせませんよ。私の累魔法の特徴ですから。」
「・・・|死屍累々《ししるいるい》。」
私は、自然とそう口にした。
優花は少し驚いたように笑って、答えた。
「そうですよ、第三王女。私の累魔法の由来はそれです。」
死屍累々、多くの死体が積み重なること。
「私は、いわば|死霊魔術師《ネクロマンサー》の真似をしているんです。」
いくら味方が倒れても蘇生し、そいつらの力も糧とする魔法。
私が知っているなかで、一番残酷だよ。
「大丈夫です、あなたたちを倒したら従順な人形にしてあげますから。」
大丈夫じゃないよ、私の人生は私のものだから。
「私たちの人生は奪わせないよ。」
「その防御技を解いてから言ってくれますか?」
「・・・シャルム、魔力はあとどのくらい?」
「持ってあと数分ですね。」
この花をなんとかしないと全員やられちゃう。
タイムリミットはこの籠がなくなるまで。
「シャルムの能力で、あの花を操ることってできない?」
シャルムの能力は「植物を操る程度の能力」だったはず。
「厳しいですね、あれは普通の花じゃないですから。」
シャルムによると、他人の魔力や意思が介在するものを操るのは難しいらしい。
美音も美和さんも黙り込んでいる。
そこで、私はひらめいた。急いで技のネタ帳を取り出す。
うん、これなら使えそうだよ。
「みんな、一つ試してみてもいい?」
私の能力とこのアイディアがあれば、やれる。
優花は味方を糧とし、花を生んだ。
なら、その花も利用してやる。
「『上級闇魔法 |闇吸花華《ナイトフラワー》』」
花が枯れる、私の闇にのまれて少しずつ侵食される。
「私の花が・・・・、でも負けませんよ。」
優花が花の量を増やす、でも私には関係ないよ。
「あなたが守りに徹した時点で、勝ちはないんです。」
「優花、この技はまだここからだよ。これは守りじゃない。」
私の猛攻を防ぎきってみなよ。
「―――『|連撃《ナイト》・|花咲乱斬《フラワーダンス》』」
枯れた花は闇に包まれ、斬撃となる。
優花が味方を糧としたように、私は君を糧とする。
「あなたの魔法が、あなたの象徴が、私の武器となる!」
優花が見えなくなるほどの刃が、彼女に襲いかかる。
そして、戦いは終わった。
優花がどこか遠いところに吹き飛ばされたことで。
遠くで戦いを見ていた兵士たちも、散っていった。
---
「まさかあの技も対策されるなんて・・・・、失敗しましたね。」
私―――、優花はルアー様に救出された。
あの忌々しい第三王女の技で吹き飛ばされた先で。
「あなたが失敗するなんて珍しいわね?」
ルアー様に失望の表情はない。私は安堵する。
「申し訳ございません・・・・!」
「いいわよん、まだ収穫があっただけましよ。」
優花と話している男、ルアーは「異端」だ。
まるで女のように振る舞っているが、その正体は怪力で冷徹な男性だ。
部下である優花には優しいが、敵をどこまでも追い詰める計算高い人物。
「もしも魔界に帰ってきたら、存分に戦ってあげようかしらね。」
ルアーが美咲たちの前に立ちはだかるのは、いつになるだろうか。
---
優花と戦った翌日、私は少し早く目覚めた。
美音よりも早く起きられるなんて、初めてだ。
「・・・腹減った。」
キッチンになにかあるかもしれない、漁るか。
そうして、私は1階に降りる。
「冷蔵庫、冷蔵庫っと・・・・・。」
おっと・・・・、これは話が違うな?
「食べ物が、入ってない!」
これは一大事だ、報告しないと。
念の為、他の場所も探す。でも、食べられるものはない。
「美咲、今日は起きるのが早いね。」
「美音! 一大事だ、ご飯がない!」
私はもはやヤケクソ気味に言う。
本当にお腹が空いていて仕方がない。
「あぁ、そのこと? 今日買いに行くから問題ないよ。朝ごはんはあるし。」
それを聞いて心から、本当に心から安堵する。
「あれ、お嬢様が起きているなんて珍しい。2人ともおはようです。」
シャルムは、少し朝に弱い。私ほどではないけど。
だから、たまに「おはようです」なんて日本語を使う。
あんまり気にしないけどね。
「シャルム、おはよう。」
「シャルムさん、おはようございます。」
朝ごはんを食べながら、美音から説明を受ける。
「僕達が行くのは、ここから西にある『リブレ村』だよ。」
そこは、と美音が続ける。
「いろんな事情があって、人間界に住めない人が集まっている。」
遅れました…!
推しの配信をずっと見てた。
私は悪くない!