公開中
誰も知らないよ2
(推しのこの男の子…かっこいいなぁ…。他人を元気付けるほど優しくて、)
|彼女《はな》は推しの沼から出られなくなっていた。
辛くて辛くて自傷行為に及んだ木曜日。
次の日は持病の検査のため採血に行くと知っていたのに。
---
「はい、では腕まくりして腕をその台に寝かせてください。」
彼女の担当医がアルコールや注射器を取りに行く。
恐る恐る腕をまくる。
(昨日…やらなきゃよかった。そんな深くないけど…まだ傷跡残ってるな。)
「夢咲さん、なにか…ありました?」
横を通る看護師さんに問われ、はなは|氷水《なみだ》を堪えていた。
[彼女は涙を氷水に例える。氷という自分の感情がなんらかによって溶けたときに目から流れ出ると]
「気に…なさらないで、ください…。」
人を簡単に信用できない。怖い。そんな思いが彼女の氷をより溶けにくくさせるのだった。
「うぅっ…」
注射器が腕に刺さり、自傷跡のせいで余計に痛む。
「自傷…やりすぎないでくださいね。」
(私の何がわかるの…みんなやめてっていうけど遊びでやってるんじゃないのに…)
彼女はそう思いつつも小声ではい、と答えた。
病室から出る。
点滴に繋がれたお爺さん、足を折ってしまった小さな子供、指のないお姉さん。
沢山の辛い人たちが彼女の目に映る。
それもまた、彼女が自分を責め傷つける一因となる。
「私より…辛い人がいるのに。」
それが口癖だった。
ドンっ
「あっ、すみませんっ…」
体の大きなお兄さんにぶつかった。今日の服は薄く、広がって彼女の腕が見える。
「大丈夫ですか(*^_^*)。その…腕、痛くしてしまってたらごめんなさい。」
「…いっいえ…そんな…」
「僕も自傷くらいしたことあるので苦しさ…わかるかもしれないです。」
彼女はたまたまぶつかったお兄さんと、出会った。
まだ心は開けない。