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不安な同盟
今回は長いよ〜!!ファンレターありがとさんです!!
第一作の合間の話。
敢助が景光を信頼するちょっと前。
気づけば消えてしまうような儚さが、その美しさに隠されている。
「なあ、コーメイ。」
ある日突然霧となって消えてしまうのではないかと、幼い頃から思っていた。
「どうしました?敢助くん。」
いつもに増して細い肩と青白い顔はなにかがあったことを決定づける。
背後に揺れる黒い影。あぁ、コイツも焦がれてしまったのか。
諦めにも似た感情が湧き上がっては消えていく。
「動くな。」
コーメイは昔からそういうのに好かれる体質だった。
俺たち三人の中でも特に好かれているのに、霊感がないから死にかけるなんてざらにあった。
いっそ俺とコーメイの霊感が真逆ならいいと何回思ったことか。
杖でコーメイの真隣を撃ち抜きつつ、そう思考する。
「あと今日は俺の家来い。はんごろし作ってやるから。」
「は、なんで、というか何をしているんです?」
黒い影は弾け飛び、彼の暗い顔は更に曇った。
杖を引いて欠片を払い落とし、じっくりコーメイの顔を見る。
決して危ない状況なわけではない。黒い影がいつもより少し多いという程度。
自分が側にいればなんとかなりそうな状況だ。
やはりアイツがコーメイを守っているような気もする。
隻眼になってから視えるようになった、コーメイを兄さんと呼ぶ男。
コーメイの弟、といえば自分が中学生の時に東京へと越した景光であるが、
なぜ霊としてこの場にいるのかさっぱり見当がつかない。
死亡しているならばそれは風の噂でも聞くであろうし、
生きているならば霊としている状況が理解できない。
それに、最初に見つけてから姿を見れずじまいだ。
一体どこへ行ってしまったのだろう。
「敢助くん?」
「いろいろ作りすぎちまったんだ。明日非番だし由衣も来るってよ。」
「それはそうですが……。いきなり過ぎるでしょう。何かあるのでは?」
ねぇよ。平然と笑って返せる自分は、やはりどうかしているのだと思う。
「コーメイ、今日は俺から離れんな。約束しろ。」
とりもあえずも、彼のことは守ってやらねば。
今日一日でも離れずいてやらねば。
そう、決意を新たにした。
---
家にあったはんごろしことぼた餅は、自分の想像をはるかに超える量であった。
大捕物を控える二課と組対に持っていく予定で相当な量を用意したはいいが、タイミングを逃したというやつだ。
「どうしたらこんな量作ることになるんですか。」
「うるせー、二課と組対に持ってくつもりだったんだよ。」
フライパンで豚肉を焼きつつ反論。
そして笑う彼は隣においておいたぼた餅の皿をとっていく。
「大捕物、明日に伸びましたからね。」
「そうだよ。……朝にでも持ってくか。」
ふふ、と笑うコーメイの声が遠ざかっていく。
由衣を呼ぶ声は小さく、じゅぅ、と油のはじける音にかき消されていく。
「おぉ、美味そう!敢助くん、料理も得意だったんだ。」
人の声は完全に届かなくなったはずであるのに、その【声】が耳元に転がり込んだ。
「あれ、兄さんどこ行った?って、ぐえ、、」
「見るだけ見て帰んじゃねぇ、自己紹介ぐらいしてくれ。」
菜箸片手にそいつの首根っこを掴んで引きずり戻す。
もう逃がしはしない。コイツは誰だ。
「敢助くん!?ほ、ほんとに視えてたの……!?」
「おうおう。ってかお前、俺が触れられるのわかっていただろ!!」
その男は誤魔化すように笑ってふよふよ漂う。
ふわりふわり、あっちに行ったりこっちに行ったり。
随分ゆったりとした霊だ。普通はもっと俊敏で、抜け目のない動きをするはずなのに、まるで警戒感というものがない。
「いやあれ偶然かと思って……。」
「偶然で片がつくか!!ってかお前は誰だ!?」
彼は驚いたように目を見開き、食いつくようにこちらへ迫った。
さっきまでのふわふわはどうした。
「え、俺だよ、俺!景光だよ!敢助くんともいっぱい遊んだでしょ?」
「…………。」
「ちょ、目!目が怖い!ちゃんと本物だよ!あ、敢助くんは俺が死んでるの知らないっけ?」
「死んでるやつはいきなり話し出したりしねぇから!!」
まずここまで人間に近い霊なんて見たことがない。
崩れず、人の体を保っている霊も。まともに意思疎通が取れる霊も。
初めてだった。
「え〜?……あ、もしかして敢助くん。目、そうなってから俺、視えるようになった?」
「はぁ?」
確かに合っている。コイツが視えるようになったのは隻眼になってからだ。
このバッテンじるしによって失った光の代わりに、得たのは前より強い霊視なのか?
この目は、俺の目は、一体どうなってしまったというのだろう。
「おーい、肉焦げるー!」
その言葉にハッとし、慌てて野菜炒めを皿に盛る。
少し焦げた部分は口に放り込み、なんとも言えない苦みとともに飲み込む。
その途端、彼の表情が固くなった。
「……俺たちはね。霊感が強い人でもめったに視えないんだ。
なのに視えたってことは、敢助くんがこっち側に来てる証拠だ。」
つらつらと並べられていく言葉に、感情はない。
先程までの感情はどこへ、とツッコミたい。変わり身が早すぎる。
しかしその言葉には強い説得力があった。
「……。」
「自覚、あるんだな。」
一切のごとく変わった口調に急かされ、思考は急展開する。
視えるようになった景光。前より感度が鋭くなった幼馴染取り憑き霊レーダー。
ぼやけていた霊がはっきり視えるようになったどころか、今は彼らの感情さえもを理解できる。
ぐるぐる思考は回りだす。どす黒いような、それでいて澄んでいるようなナニカが周りをうずまきだす。
「……俺は。」
言葉が出てこない。霊に近い?俺が?
いくら信じられなくても、納得してしまうだけの証拠は揃っている。
どこぞの探偵は言ったらしい。
【不可能であることを除外すれば、残ったものはどんなに信じられなくても、それが真実だ】と。
「……か、敢助くん!?ご、ごめん!そんなびっくりさせたかったわけじゃないんだけど。」
やっちまった、と彼が頭をかき回す。
スコッチ出ちゃったか、ちょっと前からに人と話す時はずっとそうだったもんな。
理由のわからない独り言がぴょんぴょん飛び出しては消えていく。
「……景光?」
あぁ、コイツ。コーメイにそっくりだ。
自分で何もかも背負いすぎだ。何もかも突っ走りすぎだ。
「大丈夫、なにもないから。ははっ。」
誤魔化すような笑顔もそっくりだ。なぁ、知ってるか?景光。
お前のアニキはな、その顔をする時、ロクなこと考えてねぇんだよ。
なぁ、教えろよ。コーメイに何が起きてんだよ。お前は何を知ってんだよ。
お前は一体……何者だったんだよ。
「なぁ______」
「敢助くん、敢助くん!」
すぅっと背筋が暖かくなる。幼馴染が皿を片手に俺の方を叩いている。
景光は笑う。儚げに笑う。そんな顔をしないでくれ。
そんなところまで兄弟そっくりじゃあなくていい。
「……コーメイ。」
「どうしたんです、ずっと虚空を見つめていましたが、なにか……。」
心配が言葉から伝わってくる。焦りも、恐怖すらも。
俺は消えやしない、その言葉は形にならない。
「……コーメイ。」
「なんです、敢助くん。」
好かれる人間はとにかく暖かい。
コーメイが持つ月のように、白く輝く暖かさはとくに霊が好むものだ。
「いや、なんでも。」
景光はいつの間にか消えていた。
結局、なにも聞けなかったなとふ、と思う。
せめて、せめて、せめて、この幼馴染二人は守ってやらなければ。
細くなったその腕を握りしめ、そう誓う。
「行きましょう、由衣さんも、待ってますから。」
「おうよ。」
---
「マジか!!」
青い顔をした幼馴染を抱え、走る、走る。
足が本調子じゃないからか、霊の手がすぐ背後に迫ってきている。
止まるな、進め!!!コーメイの命がかかってんだぞ!!
触れる肌が冷たい、もう手遅れなんじゃないか、そんな思いが頭をよぎる。
嫌だ、嫌だ、生きてくれ!俺を見つけ出したのにお前だけ早死とか許さねぇからな!
となかば理不尽な言葉を心のなかで投げつけ、息を弾ませ、走る、走る。
不自由な足も、この時ばかりは気にしていられない。
ぐらつく、ふらつく、こけかける。
最悪の事態が積み重なって坂道を転げ落ちる。
「ぐ……。」
コーメイだけは庇って、怪我をしていない方の足を強打する。
折れてはいない。直感でわかる。だがひねっているようで立ち上がれない。
「縺薙▲縺。縺翫>縺ァ」
黒い影がコーメイをいざなう。渡すか、と手に力を込める。
嫌な感覚が全身を包む。ゾワリと鳥肌が立ち、冷や汗が背筋を伝う。
ぎゅ。コーメイを包むように抱きしめる。
「……やめろっ!!」
「雖後□ 霑斐@縺ヲ」
コーメイは、お前のもんじゃねぇ。
そう返そうとした自分に頭が凍りつく。
なにを言おうとした?俺は。……こいつの言葉を、理解した?
混乱する自分を嘲笑うかのように黒い影はコーメイを掴む。
杖は飛ばされている。動けない。……たすけ、られない。
パァン!!!!
銃声が聴こえた。
何の音が、確認する前に黒い影が蒸発したように消えた。
「は、え、何が。」
『……おまたせ、敢助くん。』
「おま、景光……?」
声が聴こえる。景光の声が。
耳元で、インカムでもしているかのように聴こえる。
『とりあえず霊は倒したよ。』
「待て、お前が撃ったのか?」
『うん。周りにも何体かいるから気を付けて。』
流れるようにサラッと言う景光に、俺は少し疑問を覚える。
姿が見えないところからして、遠距離からの狙撃だろう。
となると使われているのは十中八九ライフル銃。
ここで一つ疑問がある。|ライフル銃《それ》の使い方、どこで覚えた?
死んでから覚えたのだとしても、扱いに慣れすぎだ。
疲れていた頭が、安心によってか回りだす。
『よし、由衣さんのいるところまで行けそう?』
「なんとか、な。」
コーメイを背負い上げ、杖を拾い、壁伝いに歩いていく。
『わかった。援護するよ。この……スコッチがね。』
そういった景光は、前よりずっと、、、、、。