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あした地球が終わるなら、私が最後の告白を。
『速報です。ただいま巨大な隕石が地球に向かってきています。未知の隕石でまっすぐ直進に向かっています。まだ遠くにあるためぶつかるのが約23時間後だと思われますが、地球に衝突すると地球が終わる可能性が高いとされています。みなさん今日明日を最期だと思って過ごしてください。』
「明日地球が終わるのか…」
俺は|皇 玲雄《すめらぎ れお》。
二十歳になってからもうすぐ1年が経つ。
これから楽しい日々を送ろうとしているところに明日隕石が落ちてみんな全滅だってさ。
折角これまで親を離れて独身になるために頑張ってきたのにな。
「せめて最期《《あいつ》》に会いてえなぁ」
|片瀬 冬芽《かたせ ふゆめ》、高校までずっと一緒で一番仲が良かったと思う。
大学生になってから冬芽は隣の県の大学に行くために引っ越していった。
正直俺も独身大学生になるんだしついて行ってもいいと思ったけど、冬芽に引かれると思ってやめた。
俺はスマホを取り、大学の友達に電話した。
『もしもし、どうした?』
「ごめん明日学校休むわ。」
『ん?明日は大学ないぞ?地球が終わるんだから最期は好きな事しろって臨時休業だってさ。』
「そうなんだ。真斗はどっか行くのか?」
『家族と過ごすかな。別に好きな子とかいないし。玲雄はどうせ《《好きな子》》に会いに行くんだろ?』
「…まぁ。」
『じゃあ頑張れよ。』
好きな子って…いつもあいつはちょっかいかけてくるな。
通話が切れると、俺は別の連絡先に電話をかけた。
「…もしもし?」
『どうしたの?珍しいじゃん玲雄から電話するなんて。』
「そうだな。なぁ《《冬芽》》、明日が最期って知ってるか?」
『うん。さっきも友達の鳴く声が電話から聞こえたよ。』
「そうか。あのさ、」
--- 「今から会えない?」 ---
電車で3時間。
俺は冬芽のいる場所へ向かった。
ずっと会ってなかったからか電車では落ち着きがなく、緊張している。
ドキドキして、スマホを触る手が震えている。
電車は人が少なく、家族連れが少しいるぐらいだ。
みんな悲しそうな顔をして静かな空間になっている。
地球のどこに行ってもこんな感じなんだろうな。
駅に着くと、俺はスマホの案内を信じて待ち合わせ場所に行った。
待ち合わせ場所は大きな公園のようなところで、目立つように広場のベンチに座った。
ここもまあ静かで来るなら犬の散歩で訪れる老人ぐらい。
『どこにいる?』とメールが来て、『広い所のベンチ。』と返送する。
それから少しすると、懐かしい顔の女性が目の前に来た。
身体は細いけれどスタイルが良く、相変わらず美人だ。
ツートーンのワンピースを着て、横を素通りするだけでモテそう。
「相変わらずだな、冬芽。」
「それはこっちの台詞。いつも通りのイケメンオーラで萎えるわ。」
「俺はそんなにイケメンではないだろ。冬芽の方がいつも通りのモテオーラで結構。」
「自覚なしか。」
変な会話から始まるのがいつもの。
「で、どうして私なの?」
ん?
「普通なら家族と最期を過ごさない?」
「まぁそうか。うーん、その理由は本当の最期に言おうかな。」
冬芽はえー、と愚痴を言いながら隣に座った。
冬芽を見てから上を見上げるといつもの空なのに違う空に見えるように感じた。
「本当に終わっちゃうんだね。老死とか事故死とかよりもわかっちゃってる死だから、なんか怖いな。」
「地球が終わるまで一緒に居てもいいか?」
俺は慰め的な感じで言うと、「玲雄と最期を過ごすのも悪くないかも」と苦く笑った。
それから俺たちは町の観光名所に行ったり、生涯で一度は食べたかった物を食べに行った。
どうせ地球が終わるならお金も町も思い出も、愛も全てなくなる。
だから高い物だって遠いところだって難なく行ける。
最期ぐらい自由に過ごしたいしな。
「ん~!これこんなに美味しかったんだ!」
冬芽は緑色のわらび餅を勢いよく頬張る。
昔から冬芽は美味しい食べ物が好きだったから、こういう幸せ笑顔を見ると俺までにやけてしまう。
モテ女子の呪いか…?
2年ぐらい会ってなかったけど普通に今まで通りに話せるのはありがたいな。
冬芽がゴクンとわらび餅を飲み込むと俺は気が付いた。
「…冬芽、粉付いてる。」
「えっどこ⁈」
俺は無意識にティッシュで粉を取ってやると、冬芽は急に顔を赤くした。
「あ、ありがとう!もういいよ!」
少し考えると、俺が何をやったか思い出し正気に戻ると、段々と身体が熱くなって心臓の音がうるさく聞こえた。
少しの間気まずくなったけど、その後はなんとか話を変えて元に戻った。
やっぱ前と違って性的な考えで冬芽を見るようにになっちまったのかな。
次に向かったのは日本で一番大きな遊園地。
そして今、暴風に当たっている。
何故か?それは冬芽の声を聴けばわかる。
「うわああああ!速すぎるー!」
ジェットコースター、それは俺が苦手とする乗り物のひとつだ。
明日が最期だから体験しとけと無理矢理乗らされた。
始まって少しは遅いけど、どっかのタイミングで急に速くなるのが恐ろしい。
凄い速さで一回転するところも頭から落ちそうでトラウマ級。
冬芽も実はジェットコースター怖いんだろうな。
たまに手を繋いでくる。
こんなの小学生以来だ。
鼻血が出るかもしれない。
叫ぶ余裕なく失神しそうだった___。
「大丈夫?」
「…うん。多分。」
俺がベンチで休んでいる間に冬芽はジュースを買ってきてくれていた。
ジュースを貰うと、すぐに飲んで頭を冷やした。
「ごめんね。私が無茶ぶったから。」
「全然いいよ。それより冬芽も怖かったんだろ?飲めよ。」
俺は貰ったジュースを渡すと、冬芽は笑顔になって飲んだ。
…あれ、これって間接キス…?
戸惑いながらも知らなかったことにしてその場を乗り切った。
冬芽は気づいていなさそうだな。
良かった。
でも気づかれていたらどうなっていたんだろう。
夕方、俺たちはホテルを予約し、その部屋に入った。
今日明日で全財産を使い切るために高級めのホテルにした。
男女でホテルに入るって変な事を考えるやつもいるけど、俺は興味がないから関係ないね。
「ここから海見れるじゃん!めっちゃ綺麗ー。玲雄も見てよ!」
「お、おう…」
大人になっても元気な冬芽は気づかい上手で優しくて、いいとこ育ちだってことが凄くわかる。
窓を見ると海の向こうに沈んでいく太陽と、茜色の空を映す美しい海が見えた。
小さく波打つ音がしてロマンチック。
水平線が光り、太陽は直線な光の真ん中に輝く。
明日にはもうこの地球はないと分かっていながら、ずっとこの景色を見て居たいほど綺麗だ。
「玲雄!何ボーっとしてるの!時間無駄にしてたらいつの間にか地球最期の時間になるよ。ほら早く行くよ!」
「ど、どこに⁈」
「一階のレストランに決まってる!」
冬芽はそう言って俺の手を掴んでレストランまで俺を連れて行った。
どこまで食いしん坊なのか。
まぁ食べない人よりは可愛いと思ってるからいいんだけど。
そう言えば昔食べ物でよく泣いてたなぁ。
幼稚園から小学生の間、家の近くのアイス屋で俺は普通のやつを頼んだんだけど、冬芽は2段アイスを頼んでたんだっけ。
普通サイズでも大きいアイスを2段で食べてた、すごいよ。
公園で一緒に食べてたら冬芽をいじめてたガキ共…いや同い年だからその言い方はないか。
そのやつらが冬芽のアイスを奪ったり落としたりしてたんだよな。
いっつもボロボロに泣いて、俺のを代わりにあげたらすぐに泣き止んでガツガツ食ってた。
結局俺がアイスを最後までまともに食べたのは冬芽が珍しくやつらを公園から追い出した時だな。
その時は凄く勇敢で、戻ってきたときにはこっちに笑顔で「これで一緒に食べられるね」って言ってた。
そう言うなんか天然?な感じが俺に芽生えさせたんだろうな。
顔とか声とかそういうんじゃなくて、ただ純粋で自然な笑顔が出せるところが可愛かった。
そしてエレベーターを降り、レストランで豪華な食事をとった。
鮮やかで種類豊富な食べ物を昔のようなガツガツではなく、丁寧で上品に食べていた。
大人になったんだなと感心していると、冬芽は昔と変わらない笑顔を浮かべていた。
お子ちゃまな笑顔の裏に、うっすらと大人な笑顔が隠れている気はする。
やっぱり美味しい物には負けるんだな。
「やっぱホテルのステーキは一口サイズだけど一個一個が美味しいのよねー。」
「食べ過ぎは注意だぞ。」
「むっ、でも玲雄だってナポリタンいっぱい食べてるじゃん。」
口の中をステーキいっぱいにして言う。
「俺は後で館内のトレーニングルームに行くんで。」
「ずるい!じゃあ私も行く!」
その後もデザートを食べながら話が弾んだ。
話している間に思い出したんだけど、レストランに向かう時、つないだ手の指を絡めていた気がする。
気のせい…か。
「玲雄いつの間にそんなに体型良くなってたの⁈」
トレーニングも終わり、部屋で1対1のゲームをしていると、いきなり呟いた。
「大学に入ってからは毎日やってるからな。まぁ流石にムキムキになりすぎるのは好んでないし。適度に。」
「ふーん。」
カチカチとコントローラーのボタンを押す音が鳴り響く部屋の中、外は既に月明かりに照らされていた。
地球最期まであと約8時間。
俺は風呂を済ませ、冬芽が出るのを待っていた。
もう夜がこれで最後なのか…
月を窓から眺めていると、自然に涙が溢れてきた。
「れーおっ」
冬芽が風呂から上がり、俺の肩に顎を乗せた。
「ん?何泣いてるの。」
「別にいいだろ。明日、もうこの地球にはいない。そう考えたら、もっとしたいことあったなって…な。」
「そんなの私にもあるよ。」
話せば話すうちに涙が止まらなくなる。
頭の中で想像してみる。
もし明日、奇跡的に地球が続くならどんな事をしよう。
祝って、友達と遊んで、いつも通りに勉強して、コーヒーを飲みながらテレビを見て、冬芽と…
「ねぇ冬芽。」
「何?」
「冬芽は地球が続いたら何がしたい?」
冬芽は少し考えている。
「やりたいこといっぱいあるしなぁ…」
「俺のやりたいこと、ひとつやっていい?」
俺は冬芽の方を見る。
冬芽は頷く。
月明かりに照らされながら、ゆっくりと、甘く、辛く、切ない気持ちで口付けた。
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ち|
ちk|
ちky|
ちゅ|
地球|
地球sy|
地球しゅう|
地球しゅうm|
地球しゅうま|
地球終末|
地球終末ま|
地球終末まで|
地球終末まであと|
--- 1時間。 ---
「なんか、空の色が違う気がするような…最期だからかな。」
「そうだね。」
ホテルを出て、近くのニゲラの花畑に来ている。
少しだけ、灰掛かっているような空の色。
もう地球が終わることを表しているようだ。
俺は2つの意味で心の準備をする。
大好きな人に伝えなくてはならない事、大好きな人と離れ離れになってしまう事。
冬芽はもう気づいているだろうか。
いや、あれだけ口を拭いたり間接キスをしたりいつの間にか恋人繋ぎをしていたり、ドクドク高鳴る鼓動を踏ん張ってキスをしたりとヒント的な事をしておいて気づかないはずないな。
すると、スマホがブーブーと揺れた。
見ると、地球最後の新たなニュースが記事となって来ていた。
『速報。残り1時間で来るはずだった隕石が突然急接近。残り10分もなく衝突する可能性がある。その他…』
「そんな…1時間も待たせてくれないの?まだ一緒に居たかったのに。」
俺のスマホを覗き見していた冬芽が顔を真っ青にして言った。
周りには誰もいない。
そりゃそうだ。
みんな家で泣き騒いで死ぬのを待ってる。
残り10分もない。
俺は泣いて時間を無駄にしたくない。
この一瞬間の間で、僕は…
--- 地球最期の告白をするんだ。 ---
「冬芽。」
「…何?最期に私と一緒にいた理由、やっと言ってくれんの?」
「まぁそうだね。」
俺は深呼吸し、ニゲラの花と花の間にちらりと見える地面に片足を立て座った。
そしてひっそりと隠し持っていたアメシストの付いた指輪を、冬芽の左手の薬指に通した。
冬芽の手は小さく指は細いため、指輪はスッと通った。
空に流れ星が流れ、段々と近づいてくる。
「冬芽、遅くなってごめん。俺は冬芽が好きです。死んでも離れたくない。」
冬芽の瞳から、涙が溢れる。
「冬芽、結婚してほしい。」
その瞬間、冬芽は体の力が抜けたように俺に抱き着いて号泣した。
俺も抱き返して、精一杯泣いた。
「うわぁぁぁぁぁ…もう遅いよぉ!もう、もうすぐ死んじゃうじゃんかぁ!ずっと待ってた…私も玲雄が好き。玲雄がいい!
もし今日が地球が最期じゃなければ、結婚して、子供も産んで、幸せな日々を送っていくんだろうなぁ…
玲雄、死んでも一緒に居てくれる?」
「当たり前だろ。たった一人の大好きな《《彼女》》に、寂しい思いをさせてたまるか。」
冬芽はポケットから指輪を取り出し、俺の左手薬指に通した。
俺があげたのと同じ、アメシストの指輪。
「同じこと考えてたんだな俺たち。まさか買った場所も同じなんてな。地球最期の奇跡だ。」
冬芽は2つの指輪に口付けし、「愛してる」と言いながら、抱きしめて、俺に口付けた。
2人の愛の涙が頬を伝う瞬間、地球は爆音を出しながら爆発し、一瞬で塵となって消えた。
人も、木も、水の姿すらなくなって、宇宙からひとつ星が無くなった。
でも、俺たちの愛は一生消えない。
お互いを想う気持ちは、何にも消せない。
そして地球があった場所に、ほんの微かなニゲラの花の香りが漂っていた___。
ここまで読んで頂き、ありがとうございました!
良ければ日記(歌い手になるまでの日記14day)も見ていただけたら嬉しいです。