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#09
タムジーの後ろを歩きながら、ルドは不意に口を開いた。
「なぁ、タムジー」
「…なんだ」
タムジーは無表情なまま、淡々と答える。
「俺、いつか、あんたにも特別なもの作ってやるよ」
ルドは、食堂で見たザンカとレイラのやり取りを思い出していた。特別なカツサンド。特別な笑顔。自分にも、誰かに特別なものを作ってあげられるかもしれない。
「…特別なもの、か」
タムジーの足が止まる。
「別にいらない」
「なんでだよ!」
「…必要ない」
タムジーは、冷たく言い放つ。
「そんなこと言うなよ!俺が作ってやるんだから、いいだろ!」
「…お前の特別なものなど、必要ない」
タムジーは、ルドに背を向けて再び歩き出した。
「待てよ、タムジー!」
ルドは、タムジーの背中に向かって叫んだ。
「俺は、あんたに、特別なものを作ってやりたいんだ!」
タムジーは、立ち止まり、静かに振り返った。その表情は、いつものように無表情だったが、ルドは、その奥に、ほんの少しだけ、感情の揺らぎを感じた。
「…好きにしろ」
タムジーは、それだけを言い残し、再び歩き出した。
ルドは、その背中を見つめながら、拳を握りしめる。
「見てろよ、タムジー。いつか、あんたにも、俺の特別なもの、食わせてやるからな!」
ルドの言葉は、静かな廊下に響き渡る。
奈落の底から這い上がってきた彼らの日常は、特別じゃないかもしれない。でも、この温かな日常こそが、何よりも特別な宝物なのだ。
それぞれの「特別」が重なり合い、温かい空気に包まれた廊下。ルドは、いつか自分も、誰かにとってそんな特別な存在になれることを信じて、タムジーの背中を見つめるのだった。
🔚