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神が作ったチーズナマコ
「あのーすみません」
「はい?」
「あの、その、ちょっとお話よろしいでしょうか?」
「ああ、はい」
「その、あの、実は私、神の料理を作れるのですが、その、もしよかったら神の料理を食べてみませんか?」
「神の料理?神の料理ってなんですか?」
「生命の源です。聖書ではマナとも、インド神話ではアムリタともいわれ、ローマ神話ではパーンともいわれています」
「へーそうなんですか」
「マナが訛ってナマコになったんです。この世界の片隅において神の料理とはすなわち栄養満点の御利益。チーズインナマコのことです。どうですこのこんがりと焼けたチーズナマコは」
「いや、結構です」
「え?」
「いや、いや、いや、いや、俺は神の料理はいらない」
「神様の好意を無にするのですか。冒涜は許さない」
「そうじゃなくて、神の料理はいらない」
「神の料理はいらないなんて、あなたは罰当たりな人ですね」
「罰が当たるってどういう事だ」
「そうですね、神の料理を食べないと神は悲しくて泣きます。神を泣かせたくはないでしょう」
「・・・まあ、確かに、神の料理は食べないけど、神の料理は欲しいな」
「そうですか、神の料理が欲しいのですね」
「いや、神の料理はいらない」
「神の料理はいらない?」
「いや、神の料理は貰うよ」
「そうですか、神の料理が欲しかったのですね」
「いやいや、神の料理はいらない」
「そうですか、神の料理が要らなかったのですね」
「神の料理はいるよ」
「神の料理はいりますか、それはそれは嬉しいことです」
「まあ、いいや、とりあえずチーズナマコを作ろう」
俺は買い物を終えて帰ろうとする。
その時にまた声をかけてきた者がいた。
その者は、見た目は普通の男に見えるが、顔は普通ではなかった。
目つきが悪く、眉間にシワを寄せているような顔をしている。髪の毛もボサボサで手入れをしているようには見えない。
服装は白いTシャツにジーパンだ。靴はスニーカーを履いている。
年齢は20代前半ぐらいだ。
俺が男の方を見ていると、男は俺の方を見ずに話しかけてくる。まるで俺が見えていないかのように。
俺が男の方に近づこうとすると、男が急に俺の肩に手を当てて止めようとした。
俺はそれに驚き、思わず大きな声で叫んでしまった。
すると、周りの人達が俺と男の事を見ていた。
しかし、俺の声が聞こえないのか、それとも見られても気にしないのか、俺の事は見えていないようだった。
俺が周りをキョロキョロと見渡して、誰も俺の事を認識していないことに気がつくと、男は俺に話しかける。
俺は驚いていたが、なんとか返事をすることが出来た。俺が答えている最中に俺の頭の中に直接語りかけるように、耳元で囁かれた。
そして俺が話し終わると、その言葉の意味を教えてくれた。
それは、神は俺がチーズナマコを作っているのを知っている。しかし神がそれを邪魔しないように、他の人にその情報を漏らさないように、神の力を使って俺を認識させないようにして、俺の事を見守っていた。
そして、俺が誰かに神について話すと、神は力を失ってしまう。だから神についての話は誰にも言わないこと。
俺はその話を聞いた時、すぐに理解した。この世界には神がいないのだ。だから、俺の目の前にいるこの人は神なのだ。