公開中
【曲パロ】1
※とある曲の二次創作です。
※個人の解釈や想像を多く含んでいます。
※登場人物は個人の創作です。
今日も僕は生きている。
死神と呼ばれたアルビノは。
煙たがられる少年だった青年は。
夜の中に白く映えて映る。
夜空に輝く星の様に___。
白い目に白い肌、淡い赤色の瞳。
闇の中で空を見上げれば神秘的にすら映るのに。
日の元へ出れば体調は崩れるし、奇異の視線は無くならない。
運動不足解消と言い出して。両親を説得した。
日々の日課となった深夜の散歩は心地いい。
人の目の無い河川敷の散歩コース。水辺が近いから涼しい風が通る。
天窓から見る小さな夜空より、際限のない星空。
カーテンを開けるのすら怖くなったのは何時からだったか。
思考を捨てて草の上に寝転がる。
視界いっぱいの無数の星。水のせせらぎと虫の声、土と草のにおい。
お金と時間と心遣いと、目いっぱいの愛情をかけてくれる両親も。
同情して憐憫をくれる病院の看護師も居ない。奇異の目も嘲笑もない。
わずらわしさが無くて。自分も普通の人に成れた気がして。
過剰に壊れ物のように扱われるのにも、優しい人たちに気を使うのも。
口角を上げる事すら、積み重なれば疲れてしまう。
体感で言うなら遥か昔に、あったのに。
普通の人として過ごせた空間が、確かにあったのに。
目を閉じれば浮かんでくる。今も夢に見るあの時間が___。
---
親の気遣いで小学校に行かない代わり、病院の教室に通っていた。
そこで出会った女子生徒。いくつか年上のお姉さんだった。
奇異の目の無い小児科病棟の一角。唯一自由の許される時間に。
お昼の中庭。隅っこの温室で。探検中に聞こえた歌が始まりだった。
透き通った歌声に誘われて。でも邪魔はしたく無くて。
温室の外に座って目を閉じて聞き入っていた。
「あれ?聞いてたの?」
恥ずかしそうな顔をして、初めて聞いた喋り声。
歌声から想像したよりも低い落ち着いた声だった。
「きれいな歌声だったから」
隣に座ってくれたから、普通の会話が始まった。
「入ってくればよかったのに」
「入ったら辞めちゃいそうな気がしたの」
何で目が赤いの?髪が白いの?良く聞かれる質問は一つもなくて。
まるで自分が普通の人みたいで。
居心地が良いのは相手も同じだったみたいで。
時間いっぱい夢中で喋っていたから迎えの声が聞こえて。
「明日も来る?お花も綺麗だよ」
温室の方を見ていう夕日に染まった彼女の顔には、社交辞令の影が無かった。
「きっと来るよ」
にこ、と思わず笑みが零れて。
彼女の黒い瞳の中に。かつてない無邪気な笑顔が見えた。
毎日歌を聴きながら花を見た。
一つ一つ、植物を観察するのが楽しくて。
歌う彼女に視線は送らず。ただ耳を傾ける。
歌い終わるたびにこっちに歩いてきて、この花なんだっけって。
入ってみると賑やかな温室は話題に事欠かない。
歌いつかれた、と温室の外で座り込んだ時。
彼女が僕を覗き込んで呟いた。綺麗だね。
思いがけない事だった。正直がっかりしたけれど。続く言葉が。
「いつも楽しそうに笑うから。まつ毛が綺麗」
色の話かと、他の人と同じなのかと。落ち込んだ僕は。
決めつけていたのは僕なんだと。
「僕は君の声が好きだよ。落ち着いた声」
彼女の笑い方は切なかった。
翌日彼女は来なかった。
次の日も。その次の日も。
5日たってやってきたのは、彼女の母を名乗る女性だった。
「いつも遊んでくれてありがとうね。もうあの子は来れないから」
その人から手渡された手紙には彼女らしい可愛くてでも凛とした字が並んでいた。
『
とつ然行かなくなってごめんね。
毎日温室で待っててくれたのかな。
しゃべってる声が好きって言ってくれたの、うれしかった。
実は声が好きって言われるの、苦手だったんだ。
歌ってる時の声はほめられるけど、同級生には気持ち悪いって言われるの。
ぶりっ子みたいなんだって。
だからね、最初の日すごくこまったんだよ。
人に歌聴かれるの、久しぶりだったから。
でもね、優しかったから。いごこちが良かったから。
目を閉じて聴いてくれるの、うれしかったんだよ。
だからね、ずっと行きたかったんだけどね。
お母さんがダメって言うから、行けなくなっちゃったみたい。
ごめんね。
』
彼女の母親って人と医者が話してるのが途切れ途切れに聞こえた。
「……あまり構ってあげられなかったから」
「……一人にしてしまったから」
「いじめられてたのしらなくて……」
その土地から引っ越して。
自分の母親から後で聞いた話だけれど。
あの子は電車に飛び込んだそうだ。
両親が共働きで、一人で夕方留守番しているはずの時間に。
飛び込むまでの数か月。
家でも学校でも、一言もしゃべらなかったらしい。
きっと寂しかったんだ。僕とは喋っていたけれど。
きっと話したかったんだ。きっと歌いたかったんだ……。
---
目を開いてまた星空を見る。あの中にあの子もいるだろうか。
寂しい思いはしていないだろうか。
何も気にせず歌を歌っているだろうか___。
草の匂いが記憶を鮮明に映し出す。
瞼の裏で歌う彼女はいつも笑顔だったから。
寂しさなんておくびにも出さず楽しそうだったから。
__ラブソング~ラブソング~__
彼女がつくったんだ。と聴かせてくれた彼女の歌を口ずさむ。
ごろり、寝返りを打てば雨雲が見えた。
明け方には雨かな、冷えそうだなと現実に引き戻される。
雲の中に何かが見えた気がして。じっと目を凝らして___。
---
中学は通信で授業を受けていた。
通信制ではない普通の学校なのに、両親が無理を言ったらしい。
自分の他にもう一人。先生合わせて3人の教室。
休み時間は二人きり。必然交流が始まった。
初めての休み時間。彼女が話しかけてきた。
「貴方って白いのね。学校にはそういうひともいるの?」
不思議な言い方だと思った。嫌味な感じはしなかった。
「僕の場合は珍しいと思うよ。普通は君みたいな見た目だから」
ふーん。興味はありそうだけれど、本当に知らないみたいな言い方が気になって。
「君も珍しいと思うけど。学校に行ったことないの?」
彼女は笑って話してくれた。
「家から出たことが無いの。親と先生以外に合うのも初めて。会うって変だけど」
休み時間に色々話して共通点が多いことを知った。
小学校に行ったことが無い事。
親が過保護なこと。
病院に通ってること。
お互いに一番気にしていることも同じだった。
親に迷惑をかけているんじゃないかということ。
親とずっといる部屋の中で。相談できる相手を見つけて。
普通の人生を送った人は。大人たちは。すぐ甘えればいいというから。
共感してくれる人はめったにいないから。
月から金まで毎日話をして。僕の方が世間を知っているというのも面白かった。
普通を知らない彼女は、僕を笑うことは無いから。
僕らは楽しかった。僕らにとっては良い時間だった。
ある日僕らは計画を立てて、夜中二人で抜け出した。
僕が彼女の家まで迎えて、夜のコンビニでアイスを食べた。
30分の逃避行。束の間の気楽な時間。
僕らにとってそれは本当に幸せな時間だったけれど。
でも彼女の母親にとっては違ったみたいで。
彼女が世間に毒されるのを必死に避けていた母親は。
今回の件がきっかけで、本格的に彼女を世間から遠ざけた。
毎日の授業にも顔を出さなくなって。教師とも合わせていないらしい。
逃避行の翌日に、彼女の両親が押しかけてきて、
学校と僕に、怒鳴り散らしていったけれど。
僕は悪いと思わなかったし、彼女も楽しんでたのに。
それから1週間。また両親が怒鳴り込みに来た。
アンタのせいで、あんたのせいで……。
その言葉を繰り返しなく二人を見て___あの母親を思い出す。
嫌な予感は当たっていて。彼女もこの世に居なくなっていた。
ベランダを飛び下りた彼女はきっと。
窮屈な世界から逃げたんだろう。
広い世界を知ってしまったから。
部屋の中に押し込まれていられなかったんだろう。
「両親は大事にしてくれるけれど、もっと私のこと考えて欲しいの」
わがままかな、とアイス片手に笑ったあの子は。
寂しそうな瞳の中に、困った顔の僕を映していた。
困った僕を見つけてしまって、誤魔化すように走り出して。
あの楽しそうな顔の悪戯っぽいえくぼも。
両親は見たいとも思わなかったのだろうか。
二組の両親が揃った場所で、僕は珍しく意見を発した。
「あなた方が守りたかったのは我が子ですか。我が子の笑顔ですか。
あなた方が大切にしていたのは娘ですか。娘の意思ですか。
あなた方が戦っていたのは世間ですか。彼女の自我ですか。
赤ちゃんでも老人でも病人でも。意思はありますよ。
彼女の意思を聞いたことはありますか?叶えたことはありますか。
……彼女の心からの笑顔を見たことはありますか?それを断言できますか」
彼女の両親はもちろん、僕の両親まで固まっていたのは。申し訳ないと思ったけど。
「ただ、言ってましたよ。両親が自分のことを思ってくれているのは分かる。
それは有り難いと思ってるし嬉しいことだって。
そして、だからこそやりたいことを言い出し辛いとも。
彼女はあなた方の事、本当に好きだったと思います。
だから戦わず、あなた方の意見を尊重したくて板挟みになったんでしょう」
僕の両親が震えていた、あんたもそう思ってるのかと、まなざしで訴えかけている。
見ないフリをして、僕は空を見る。
彼女が死んだというその日。解放されたように大きく伸びていた入道雲は、もういない
---
視線を飛ばしていたはずの雲がかなり近い距離に来ていた。
風が強くなって気温が下がる。
あの子は広い世界を見れただろうか。
世間の汚さも見て変わってしまっただろうか___。
どこか遠くから若い人の笑い声が聞こえる。
どうせ酔っ払いだろうし、迷惑だけど。
そんなに楽しい人生があるなら体験してみたいものだ。
彼女が生きていたら、大人になって一緒に飲んだりしたのだろうか。
ラブソング~ラブソング~
寂しさと羨ましさを振り払うように歌いだす。
静かなところは落ち着くけれどひっそりと虚無が襲ってくる。
風が頬を撫でて。冷えてきたなと立ち上がる。雨が降る前に帰りつけるだろうか。
風音が水音が、喧騒が。やけに耳に入って。雨の前の匂いがする___。
---
高校に上がって、特別学級だけど初めてちゃんと通学して。
色々な人と関わる機会があって。両親も応援してくれて。
毎週水曜日。みんなが授業中に登校してお昼の後で帰ってくる。
教師たちの気遣いも、過剰じゃなくて有り難い。
弁当だけど、給食の時間みたいな感じがして。
今まで学校に通えなかったことを悔やむくらいには楽しい空間が続いていて。
そんな中に居た彼女はずっとヘッドホンと手袋にサングラスと。
如何にも絡みづらい恰好だったから。
あえて近づいてみたのだ。今までの経験上一見話しかけづらい人が一番長く仲良くできるから。
「弁当何食べてんの?」
覗いた弁当は白1色だった。日の丸ですらないそれに、仰天する。
「あやまらないで」
うるさくないけど通る声に固まると、振り返ったサングラスの奥で眼が揺れた。
「はなしかけてくれてありがとう、一緒に食べる?」
見た目の仰々しさに反して、卑屈でも他人行儀でもない。わずらわしくもない。
この短時間でハッキリわかった。感覚が鋭くて敏い人だと。
確実に苦労人だな、と少し引きの強さに脳内で苦笑した。
毎日のように食事をしたけれど、彼女が白米以外を食べるところは見ていない。
ただしこちらも憐れんだり変に気を遣ったりはしないけど。
そうしていたら彼女に少し笑いながら言われてしまった。
「きになる?」
その翌週彼女の家に遊びに行かせてもらって。
両親は居なかった。高校から一人暮らしを始めたんだとか。
「まずアルバム、診断書。日記。これで一通りの疑問は解けると思うよ」
ちょっと待ってて、と言われた直後準備していたのだろう、纏めて持ってきてくれた。
アルバムの中には親だろうか、手書きの文字で説明が添えられている。
写真自体はぶれてたり人が映って無かったりと、案の定というか癖が強い。
こっちの方が分かりやすいと思うけど。と差し出された診断書。
そんなもん僕なんかが観ていいんだろうかと思うけれども本人が良いと言っているんだから。
ずらりと並んだ病名は、良く知らないのが多かったけれど。
「詳しく聞いても良いの?」
許可を得てから聞いてみた。思ってたのとはだいぶ違ったけど。
端的に言うと五感が鋭すぎて頭が回り過ぎるらしい。
いうなれば天才は苦労するということだろう。
苦手な物が多すぎて、食べ物が偏ったり、感覚を遮断したりしなければ生活がままならないそうだ。
「気にならないフリするの、上手だね」
「でも、君にはばれてた。君に隠したかったのに。」
そんな会話をして。彼女は本当に嬉しそうに笑っていた。
始めてみる裸眼の薄い色と、繊細そうな白い手。
そんな彼女は興味を持ってくれているけど聞かないで待っててくれるのは貴方だけだった、と。
何時もの凛とした空気が和らいで、カーテン越しの夕日も重なって暖かい。
こういう関係もあるんだな、幸せだなと。思ってしまった。
僕が幸せを感じたら終わると知っているのに。
翌日。彼女の高度な脳細胞は動かなくなっていた。
闇の中で、何もない海の底で。一人静かに。
余計なものが多過ぎたのかもしれない。
彼女にとって生きやすい世界じゃなかったんだろう。
僕が彼女の支えになるには彼女の悩みは大きすぎたのだ。
体のつくりが、頭のつくりが、神経が。人より優れていた彼女は。
現実を平凡に生きることは出来なかったのだ。
---
雨が降り出して、急激に体温が下がる。彼女はもっと寒かったんだろう。
雨が涙のように流れて、彼女の、彼女たちの雨のように感じてしまう___。
**ラブソング~ラブソング~**
声を大きくして歌う。
彼女たちはこの歌を聴いているだろうか。
彼女たちにこの歌は届いているだろうか。
星と雲と風の中で。彼女たちを思う。
僕はこの世を捨てれない、僕は彼女たちを忘れない。
愛の歌が、彼女たちを、世界を包めるように___。
曲パロ当てれたらメッセージ下さい(