公開中
春風
桜も散り際の頃、僕のことを春風が抱きしめた。
春なんて、早く過ぎ去ってしまえばいいのに。
毎年、色とりどりな季節が来る度、僕は心の中で独りそう呟く。
春風に穏やかに流される川を眺めながら。
僕は今年、20歳になります。
今、貴方は幸せに生きられてますか?
「会いたい」なんて気持ちが僕と貴方の溝を深める一方なのにこの気持ちが抑えきれない。
いっそ、貴方が僕のことを連れて行ってくれたらいいのに。
なんて言ったら、貴方が悲しむから。
僕が全てを肩代わりできたら良かったのに。
僕の体が弱ければ、貴方は救われたのかな。そうなれば、貴方は苦しくはなかったのかなぁ。
急激に体重が減ったことにもっと早く気付けばよかった。気付いた時にはもう末期だなんて、あり得ていいはずがない。
もっと早く相談してくれたら良かったのに。
抜け落ちた貴方の髪の毛の一本一本も、忘れたことはないのに。
叶うこともない妄想に明け暮れる日々。
言い訳ばかり考えて、過去に囚われる様は醜くて、無様だと知っているけれど。
|行《い》ってしまった貴方に縋っても許して。
貴方が居た過去に縋っても許して。
「貴方に出会わなきゃよかった」なんて思ってしまったのが僕の罪。
貴方が体が弱いことなんてとっくに知っていたのに。別れる覚悟なんて出来ていなかった弱い僕が嫌い。
貴方が、何処にいるのか教えて下さい。
どこでも僕が今から迎えに行くけど、貴方は何処にも居ないんでしょう?
貴方が居た部屋もそこにあるのは貴方が居た形跡がある空間だけだったから。
この輝いている指輪はどうすればいいんだろう。
貴方は大人だったから、僕がもっと大人だったら、貴方との幸せの形はまた違ったはずなのに。
貴方がいる場所にこの声は届いているといいな。
嗚呼、いっそのこと僕の思い全てを貴方まで春風が運んでいってくれたらいいのに。
「愛してる」なんて気持ちは貴方を縛り付けていただけなのに。
抑えることなんてできないよ。
解説はコチラ
https://tanpen.net/novel/e077b19b-8a8c-4404-92f4-8b2996ac0eb8/