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美しさの代償
あの日はやけに蝉がうるさかった.
今までと変わらない景色の中に、澄んだはずのその場所が、僕の瞳には紅色に写っていた.
そんな夏の日の記憶だ.
カーテンの隙間から、ぼんやりと光を放った青い空がぼやける視界の中に入り込んでくる
あぁ、もう朝が来てしまったのか
憂鬱な気持ちと共に洗面所へ向かう
制服を着て、髪にドライヤーをかけて、朝食を食べる
そうこうしているうちに、あっという間に時間になってしまった
仕方なく靴を履いてドアを開ける
「行ってきまーす」
今日もいつもと同じ、青い空だ
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地面と睨めっこしながら学校へ向かい、授業を受けて、ご飯を食べる
また授業を受けて、掃除をして帰るだけの面白みのない生活だ
でも今日は、いつもより少し慌ただしかった
昼休みに課題をする生徒、大量の冊子を持って忙しそうに歩き回る先生、いつもよりも長い掃除
あぁ、そうか
思い出した
明日は夏休みなのか
いつもと少し違うイレギュラーな周りの生活の中でも、やることは変わらない
ぼーっとしているうちに、いつの間にか寝てしまっていた
起きた頃には空がオレンジ色に染まりかけていた
退屈だと思いながら、リュックを背負って帰り道を歩く
無意識にいつもと違う道を歩いていた
いつもとは少し違う景色
その先には茜色に染まった海が広がっていた
誰かが砂浜に腰かけていた
思わず見とれてしまうような、すぐ壊れてしまいそうなくらい綺麗な少女だった
僕は砂浜に座り込んで、ぼーっと海と少女を眺めていた
その時、横に人の気配がした
少女だった
「あなたは、誰?」
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いつの間にか日は暮れかけていて、さっきよりも暗さが増していた
声をかけてきたのは、さっき眺めていた少女だった
いつの間にか隣に来ていた少女は華奢で、おとなしそうだった
砂浜で並んで座りながら少し話した
その少女はこんなに人と話すのが楽しかったのは久しぶりだと言って
どこか疲れているようにも見える笑みを浮かべた
そしてまた明日の放課後、ここで会おうと言って彼女は僕に別れを告げた
帰宅しながら空を眺めて考え事をする
いつもと違うことばかりの1日だったけど
たまにはいいなと思えた日だった
念入りに外を見渡してからドアを開けると
久しぶりに疲れが溜まって、帰るとベッドに倒れ込むように寝てしまった
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また日が昇り、学校へ行く準備をするために洗面所へ行こうとする
階段を降っていた時、突然叔母に早いねと声をかけられた
不思議だなと思ってカレンダーを見ると、夏休みと書いている
今日から不快な声も騒がしい声も聞かなくていいと思うと、少し心が軽くなる
放課後まで、何をして暇を潰そうか
課題をして色々していると
あっという間に放課後は訪れた
早く荷物を置いて、昨日の海に行こう
そう思った時、外から声が聞こえてくる
どこか聞いたことのある声
嫌な予感がする
咄嗟に開けかけていたドアから手を離し、鍵をかけ直す
念のため家の電気をけし、耳を澄ませて会話を聞く
この声は
クラスメートだ
幸いそいつらはただ芸能人の話をしているだけだった
安堵して通り過ぎるのをじっと待つ
その時、色白の綺麗な少女というキーワードが聞こえた
昨日の少女が頭によぎったが、流石に違うだろうと思い、聞き流した
通り過ぎたのを確認すると、僕は急いで家を出て一目散に駆け出した
海に着くと、まだ誰もいなかった
早かったかなと思い砂浜に座って少女を待つ
なかなか来ないので本を眺めながら待つ
だいぶ時間が経って辺りが茜色に染まってきた頃、突然後ろから声をかけられた
彼女は遅くなってごめんねといい、僕の隣に座った
彼女は絵を描くのが好きらしく、一緒に海の絵を描いた
彼女の絵はとても上手で、透明感も夕日の反射も僕の後ろ姿さえも綺麗に描かれていた
でもどこか切なさの感じる絵に、少し違和感を抱いた
そんなことは話しているうちに忘れて頭の片隅にしまってしまった
時がすぎるのが早く感じる
小さい頃に遊んでいた時もなっていたような、懐かしい感覚
これは、僕は話すのが楽しいと思っているからだろうか
ずっと続けばいいのにと思う
でも彼女は用事があるから、と言って日が沈みそうな時に去ってしまった
話している途中に仕事があるとポロッとこぼしていたことを思い出し、どんな仕事なんだろうかと思った
その時、昼間クラスメートが話していたことを思い出す
色白で、綺麗な少女.
まさかとは思いつつ、一応検索してみる
名前は教えてくれなかった
なんとか特徴を絞り出して調べてみる
するとそれっぽいものを見つけた
タップしてサイトを開く
さっきの少女にとても似ている
芸能事務所。
芸能の仕事をしていたから遅くなったのか
急にいろんなことが理解できたと思う
明日海であったらまた聞いてみようと思い、とりあえず寝転がって目を瞑る
すると疲れていたのかすぐに眠りについてしまった
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次の日
昨日早く寝たせいか異様に早く起きてしまった
やることもないのでとりあえず散歩をしようと思い外へ出る
ぶらぶらと歩いていると海が見えてきた
無意識に行きたいと思っていたのだろうか
うっすらと人影が見えた気がした
急いで近づくと、少女がいた
咄嗟に声をかけると、少女はいつもと同じ声のトーンでおはよう、と返してくれる
ふと昨日のことを思い出し、仕事のことを聞いてみる
やっぱり昨日のあの子は彼女だったらしい
なぜか気まずそうにしながら彼女は問いかけた
何か他に知ってる?、と
特に何も知ってることはなかったので知らない、と答えると
彼女は少し安堵したような表情を浮かべた
本当は知りたかったけれど聞かれたくなさそうだったので帰ってから調べてみよう、と思った
彼女は今日は忙しいらしく、あまり話せないままいなくなってしまった
僕も家に帰って少女のことを調べてみる
すると少女のことについていろんなことが書かれていた
彼女を非難する声、批判のコメント。
中にはみてもいられないようなぐらい酷いことが書かれているコメントも少なくはなく、事実ではない偏見からのコメント、人格を否定しているものもあった
怒りを抑えながら他のものも見ていく
すると、何か嫌なものが一瞬視界に入った
嫌な予感がする
これは見てはいけないと本能が言っている
でも見なければいけないと思い、指を振るわせながらそれをみる
そこに書かれていたのは
行方不明 の言葉
信じられなかった
昨日も、今日だって僕は会っていたのに
日にちを見る
昨日の朝。
正確にいうと、一昨日の夜から、と書いている
この記事には、僕が初めて会い、別れた後の一昨日の夜にはいなくなっていたと書いている
おかしいと思って家を飛び出す
海へ走る
今回は人影は見えなかった
その代わり、何か小さなモノが見えた
靴だ
急いで駆け寄る
そこには少女の姿はなく、一冊のノートと靴だけが残されている
全てを悟って海を見つめる
澄んでいるはずの海が、ひどく濁った紅色に染まって見えた
震える手でノートを開く
美しさは時に誤解を招き、時に悪意の矛先を向けられる
そして美しさはその代償に知らず知らずのうちにいろんなものを壊してしまう
その連鎖を断ち切るために、私は人生の幕を下げよう
そして、深い深い海に閉じ込めて、
もう二度と同じ過ちは起こさない
最後のページに、こう書いてあった
まるで物語のように描かれていた
それは彼女という優れた役者にぴったりの
演劇のような最後の物語だった
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救いようがないようなこの世界でも、君のおかげで諦めずに済んだんだ
さよなら
来世こそは彼女と僕が幸せな世界でありますように
そう願いながら僕は彼女のいる海の中に溶けていった
美しさは儚く脆く、罪な存在だ
人の愚かさから、どうかこれ以上そんな過ちが犯される日は来ませんように
その言葉で、この物語は幕を閉じた.
【End】
作品名:美しさの代償